Vs.

よめる よめ

第一章 炎の国

Lv.1 宣戦布告

『...い。だい......か?...ーい!おき...


「おきろっ!」


はっと目を開けると、そこには"信じられない"という感情を全面に押し出したコウの顔があった。


「ったく、ユウマ大丈夫か? 今日という日に限って寝坊するなんてありえねえと思って見に来たら、だらしなく寝てるもんだからびっくりしたぞ。 なんせ今日は」


まだ夢に意識を引っ張られつつあるユウマの顔が徐々に意識を取り戻す。


「「17歳の誕生日!!」」


二人の声が揃う。


まったくなんて僕は愚かなんだろう。

普段は特訓の時間になっても起きてこないコウを起こしに行くのが僕の役目だったのに、よりにもよって今日という日に夢にうつつを抜かし寝坊してしまうだなんて。


「夢? あれ何の夢だっけ?」


「俺先行って準備運動してくるから。 早いとこ準備してこいよ!」

割とよくある現象に頭を悩ませるユウマをおいて、コウは駆け足に家を飛び出していった。


「まあいいか。 とりあえず準備するかあ。」


完全に覚醒したユウマはテキパキと布団をかたずけ準備を始めた。

といってもコウと違い昨日のうちには大体の準備はおわっていたので、いまさらあれこれすることもないのだが。

着替えなどを終え、玄関においてある”冒険袋”に手を伸ばす。


「いよいよ僕たちの冒険が始まるんだ!」


そう独り言をつぶやき玄関の扉をあけた。




玄関の外にはひとっ走り終えたようで額に汗が浮かんでいるコウと、その隣に眠そうな目をこするライゾウじいちゃんがいた。


「おまえさんたちが17歳になったらすぐにでも家を出たいというから眠いのを我慢して朝早くから待っておったというのに、なんじゃ朝寝坊しよって。」


「ほんとうにごめんなさい。」


拗ねるおじいちゃんにユウマが謝ると、ユウマはコウの隣に並んだ。


恒例の朝礼だ。


「うおっほん。 えーまずおまえさんたちには、17歳おめでとうといっておこう。そしていままでよく儂の厳しい特訓についてきてくれた。 そのおかげでおまえさんたちはこの国では一番の土台をもっておる。 儂が言うんじゃから間違いない。」


「えー。 そこは世界で一番強いとか言ってくれよー。」


コウがちゃちゃをいれる。


「儂にも勝てんやつには、到底与えられない称号じゃな。 まあよい。 そしてかねてより約束であったおまえたちが17歳になれば旅に出ることを許可するということを果たす時が来た。 コウ、ユウマおまえたちの夢はなんじゃ!」


「世界のてっぺんをとること!」


「世界の歴史を解き明かすこと!」


おじいちゃんは声を張り上げて宣言する二人を見つめ軽く笑みを浮かべ、


「よろしい。 おまえたちの夢をかなえるべく旅に出ることを許可する!」


と宣言した。




「もうこの家ともおさらばだなー。」


何か思うところがあるようにコウがユウマに語りかける。


僕とおじいちゃんとコウの三人は森の中にたつ家で暮らしていた。

この森は国の辺境地にある小さな森で人は僕たち以外に住んではいない。

この小さな森で僕とコウの二人は日夜特訓に明け暮れていたわけだ。

思えば物心ついたときにはすでにおじいちゃんによる特訓は始まっていた気がする。森中を走り回らされたり、猛獣と戦ったり、大岩を投げられるようになるまでトレーニングしたり、思い出すだけで少し体が痛くなる。

それに加え僕だけ大量に本を読まされた。おかげで旅先でも心配ないような量の知識を身に着けることができたのだが、僕の負担がでかいと今になっても思う。

しかし早朝から深夜まで春から冬まで散々走らせられ鍛錬させられ、正直あまりいい思い出はないと思っていたこの場所にも、いざ離れるとなるとやはり感慨深い気持ちがないわけじゃない。


「そうだね。」


コウの言葉にユウマが短く答えると、家の中から、忘れ物があるといって先程中に入っていったおじいちゃんが出てきた。


「あった。あった。 ユウマにはこれを渡しといておかねばならんのじゃった。」


そういって取り出したのは茶色の革の装丁の施された分厚い本だった。


「これは?」


なんだろう。すごく懐かしい気持ちになるような。


「まあそのうちにわかるじゃろう。 よいか?無くすんじゃないぞ。」


「わかったよ。」


腑に落ちないまま、だがこの本は僕が持たないといけないという確信が確かにあった。


そして本を受け取ろうとするその時だった。


ユウマが本に触れた瞬間、本は光とともに消えてしまったのだ。


「...え?え? 消えちゃったんだけど。」


あまりに突然のことにユウマは目を丸くする。


「......やはりそうか。 いや気にするな。 こういう予感はしてたんじゃ。」


本当に意味が分からない。が理由のわからない安心感がわいてくる。


「じーちゃん、俺にも渡すもんないのー?」


「おまえさんには昨日もう渡したじゃろ。」


朝からもやもやしっぱなしのユウマをよそに、おじいちゃんとコウは言い合っている。


「そろそろ出発の時間だね。」


「んじゃあもうそろそろ行くか。 じゃあなじーちゃん。 また気が向いたら帰ってくるよ。」


「ああ、気をつけてな。 いつでもここに戻ってくるんじゃぞ。 おまえさんたちの夢のため、儂はいくらでも力を貸すからの。」


「おじいちゃん、いままでありがとう。 絶対夢をかなえてここに帰ってくるから。」


それぞれ別れの言葉を言い終えると、ユウマとコウは森の外へ続く道を歩き始めた。

あえてうしろを振り向かない二人の背中を見つめ、ライゾウは再び軽く笑みを浮かべたことを二人は知る由もなかった。




誰も立ち入らない森だから、道らしい道はない。森のはずれには小さな町がある。まずはそこへ向かうつもりだ。そのさきはまだ決まってない。


ちょうど町を見下ろすことができる開けた高台についた。俺はまだ上がったばかりの太陽に向かって吠える。


「世界のてっぺんとってやるぞっ!!!」


俺、コウはそう高らかに太陽に向かって空に向かって、世界に向かって宣戦布告した。




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