Lv.5 続・王都への道
「おいおい。 嘘...だろ? ありえねえよ...。」
目を覚ましたコウに昨夜の出来事を説明する。
「俺が知らない間に ...この町の最強に会って ...強い奴のバトルが見れるチケットもらって ...そのバトルが今日王都で行われる...! ぐああ!まじかよ!」
コウは現実を少しずつ嚙み砕こうとして受け止め切れずにベッドに勢いよく顔をうずめる。
思った通りの反応をする、いや思った以上に悔しがってるなこれは。
「でも、ほら、オーギさんにはまた会う機会があるかもしれないし、バトルトーナメントだって実際に出場できる機会もあるかもしれないよ。」
「でもオーギって人は王国警備団の団員であっちこっちに行ったり来たりしてるだろうし。 国王サマの100歳記念のバトルトーナメントなんて今回だけのスペシャルな大会だろ? もう見れねえじゃん......。」
今度はどんどんネガティブになってきたな。僕は全然悪くないはずなのに、すごく申し訳ない気がしてきた。
「あれ? でも書いてある決勝の時間は17:00からだってよ! これならいまから全速力で行けば、ギリ間に合うんじゃないか⁉」
恨めしそうにチケットを眺めていたコウが声を張り上げる。
昨日の調子をみて、もう一つ中継地を挟んで三日かけて王都に向かう計画に変更していたが、もともとは二日で行くつもりだった。
無理をすれば二日で王都まで行くことが可能なことはトロビの町で話した商人にも聞いた話だが、それを一日で行くのは不可能に近い。ましてや...。
「もう昼も近い。 いまから町を出ても多分、というか絶対に間に合わないよ。」
「だからってこのまま諦めたくない。」
目がマジだ。確かに、いずれにせよ王都を目指しているのだから今日今から出発しても特に問題はない。
町を散策したいのに、昨日からこの宿屋しか見てないことだけを除けば。
チケットは一枚、つまり一人分。
ユウマはこのチケットをコウに渡すつもりだから、はっきり言ってユウマに王都への道を急ぐつもりはない。
だが、コウの熱意には負けを認めよう。
「わかったよ。 無理だと思うけど一応いまから王都を目指そう。 今日中にたどり着けないと一度でも判断した時は、すぐに三日かける元の計画に戻すからね。」
「よし。そうと決まればさっさと行こう! ほら!準備して!」
ユウマはしぶしぶ計画を変更することにした。
ユウマとコウは荷物をまとめ宿を出た。
宿屋のカンテツ達に感謝と別れを告げ、カガリの町のメインストリートを一直線に抜けていく。王都へとつながる道は、ユウマ達がこの町に来た方角と反対にあるからだ。
次々と通り抜ける店を惜しげに見送るユウマをコウが引っ張っていく。
あ、このかぼちゃこの町の名産品っぽいな。ああ、通り過ぎちゃった。こんなことなら、昨日のうちにいっぱいこの町のこと教えてもらえばよかったな。なんでかぼちゃが名産品になったんだろうなあ。
カガリの町のあれこれに思いをはせているうちにユウマ達は町に端にたどり着いた。
このあたりは王都からくる商人の市場になってるようだ。
色とりどりの馬車が並んでいる。
この国での移動方法は主に三種類ある。
一つ目はユウマ達のような徒歩。
ここ炎の国ではかなり街道が整備されているため、徒歩でも安全かつ早い徒歩での移動が可能なのだ。
二つ目は電気を使った自動車。
部品を一つ一つ技術者が手作りしているうえに大量の電気が必要で、さらには専用の道路が必要で、おまけに遅いため、お金持ちが王都の中でのみ使用しているのが現状だ。
そして三つ目が馬車。
馬によって車を引かせて移動する方法で、商人が商品を運んだり、町から町へ人を運ぶサービスで利用される。三つの移動方法のなかで一番早く、たくさんの荷物を一度に運べるため一般的に利用されている。
ユウマ達が徒歩で移動しているのは、路銀を節約できること、体が鈍らないようにすること、自分たちのペースで行きたいこと、一番旅っぽいことが大きな理由だ。
「そうだ! ユウマ、馬車なら時間が間に合うんじゃないか? 急いで乗れそうな馬車を探そう!」
「確かに馬車の速度なら間に合うかもしれないけど、乗り合いの馬車は基本的に間にある町に何度か止まってその町の客を乗せるから。 そのことを加味すると間に合わない可能性のほうが高いよ。」
「でもやってみないとわからないだろ?!」
コウが焦りで声を荒げる。
ユウマもできることなら何とかしてやりたい気持ちの方が強いが、気持ちだけだはどうにもならない。
二人が沈黙したその時だった。
「キミたちなにか困りごとでしょうか?」
唐突に声がした方へ振り向くと、二人の後ろには彼らより少し背の高い、きれいな青髪で丸い眼鏡をかけた青年が立っていた。
「...なんですか急に。 僕たちになにか?」
ユウマが青年に向かって尋ねる。
「いやはや、先ほどから道の真ん中で言い争っているキミたちの話がつい聞こえたもので。 キミたちなにやら急いでいるのでしょう?」
「そうなんだよ。 俺たち今日の17時に王都で始まるバトルを見に行きたいんだ。 だけどいまから行ってもユウマが間に合わないって。」
「...なるほど。 今から出て17時に王都に到着するのは一般人には無理でしょう。 ボクのように自分の馬車を持つ商人でなければ。 ...しかしそうですか。...王都。 実はボクもこれから王都へ用事があって向かうのです。 ボクの愛馬にかかれば17時までには王都に着くでしょう。」
話の流れが変わってきた。
「もしかして乗せていってくれるのか!」
コウが話に飛びつく。
だが相手は青年であれど商人だ。
「待ってください。 ボクは商人だと言ったでしょう。 キミたちをただで乗せるわけにはいきません。 これは」
「交渉ですか。」
「そのとおりでしょう。 そうですね......。」
この世界で用いられる通貨は
この人は乗り合いの馬車とは違い特別に乗せてくれるのだから、値段も通常のものより高くしてくるはず。
二人で1万くらいに抑えられれば...
「一人ずつ10万Gでどうでしょう。」
「じゅ...10万⁉ 二人で20万ってことですか⁉ 無理ですよ! そもそもそんなに持ってるわけないじゃないですか!」
持ってないこともない。
だがおじいちゃんが持たせてくれたお金をほぼほぼ失うことになる。そもそも交渉にならない。
「10万Gってどのくらいだ? 俺あんま金使ったことないからわかんねえな。 じーちゃんからもらったのってこれより多かったっけ?」
コウあんまり余計なことを言わないでくれよ...。
「とにかくそれじゃ払えません 。もっとなんとかなりませんか。」
「ふむ。 これでは交渉が決裂するでしょう。 わかりました。 それでは二人とも無料で乗せてあげましょう。」
は?
「えっ! どうして!? 急になぜなんですか! まさかお金以外の要求ですか?」
唐突に下がる値段。下がるどころか無くなってしまった。
怪しすぎる。
おそらくなにか別の要求があるに違いない。この人思ったより危険な人なんじゃないか?
「そういうわけじゃないですよ。 なあに簡単なことです。 そもそもキミたちを荷台に乗せても、ボクにはなんのデメリットもないでしょう。 むしろ少しは重いほうがボクの愛馬もやる気がでるでしょうしね。 なにより人助けは気分がいいでしょう?」
「ユウマ! この人無料で乗せてくれるってよ! めちゃくちゃいい人じゃんか! 乗せてもらおう!」
警戒心が強まるユウマに対し、コウは青年の言葉を素直に受け取り、もう乗る気満々
である。
コウは勘が鋭い。だからおそらく人の本質を見抜く目もあるはずだ。
ここはコウの直感を信じることにしよう。
「わかりました。 乗せてもらう立場で申し訳ないんですが、ほんとに僕たちには何も要求せず、タダで王都まで連れて行ってもらうということでよろしいですか?」
「かまわないでしょう。 先ほど値段を変えたボクがいうのは何なのですが、これから”男に二言はない”をモットーに生きましょう。 おっと自己紹介がまだでしたね。 ボクの名前はフータ。 短い旅ですがどうぞよろしく。」
フータに馬車の用意をするから先に町の出口までいっててくれと言われ、ユウマとコウは市場を抜け町の出口へとたどり着いた。
「ユウマ、多分だけど心配しなくてもあのフータって人はいい人だぞ。 そんな気がするんだ。」
なにも言わないユウマにコウが語りかける。
そんなに心配が顔に出てたかな。それともコウが僕のことを考えてくれていたのか。
「コウこそ心配かけてごめんね。 初めてのことが多くてちょっと不安だったんだ。 でも僕もそのコウの直感信じるよ。」
二人がフータを待ちながら話していると、こちらへ呼びかける声とともに二頭の馬にひかせた馬車とフータが町から出てきた。
「いやあ。待たせてしまったでしょうか。」
「いやそんなことないです。...それよりすごく立派な馬ですね。」
馬車をひく二頭の馬は、その鬣がメラメラと燃えたぎる、からだの大きな馬だった。
「炎馬っていう種でね。 この種はホムラにしかいないでしょう。」
ほらここは熱くないんですよと、馬の鬣をなでる。コウも目を輝かせ鬣に触れようとするが、炎馬は首を下ろさず触らせてもらえない。
たしかにこの馬は見たことがない。散々森にでる猛獣を退治していたユウマとコウにとっても初見の生き物だ。
もっとこの世界にはいろんな生き物がいるのだろうか。
「さあキミたち急いでいるのでしょう? 早く馬車の荷台に乗ってください。 もう出発しますよ。」
フータの呼びかけにはっとして二人がそそくさを馬車の荷台に乗り込むと、御者台にのったフータが馬に合図を送る。
からからと動き出した馬車が次第に速度を上げていく。
これで決勝のバトル、強者同士の戦いが見られるんだ!
コウの中での期待感は、馬車の速度とともに増すばかりだった。
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