Lv.4 この町の頂点

「吹っ飛ばす未来を見たってかっこいいこと言えたのに、結局"電気化"してて見れなかったぁー。」


コウは少し恥ずかしそうにしながらベッドに飛び込む。


「安心して観客に紛れて観戦してたら、結構きわどいバトルするもんだからさ。 僕が交代しようかと思ったよ。 それにしてもおじいちゃんの教えって結構的確なものだったんだね。 正直コウがいい顔するまでは疑ってた。」


部屋に入るなりすぐにベッドに飛び込み恥ずかしげにするコウをよそに、開けっ放しになった扉を閉めながらユウマは話を進める。


「あ!やっぱユウマもおんなじこと思い出してたか! あれだろ? 経験が俺たちをさらに強くするってやつ。 俺もビビッて思い出したんだよなあ。」


「"電気化"を使ったバトルは僕と散々やったけど、僕は無能力だしおじいちゃんは使わなくても負けてたからね。 知らない相手と初見の能力はいい経験になったんじゃないの? 僕に初めて負けたときみたいにさ。」


「ちょっと嫌な言い方するなよ。 ユウマに負けたときは毎回すっげえ悔しかったんだからな!」


「でも、無料でここに泊まれるのはコウのおかげだからね。 ありがとう。」


「お、おう。」


素直に褒められ普通に照れたコウは部屋を見渡す。


「おっちゃん、すげえすっきりした顔してたな。 こんな気持ちのいいバトルは久しぶりだ!なんて言って。 さらにはこんないい部屋まで用意してくれるなんてさ。」


コウの言う通りお金持ち御用達ってほどではないが、コウ達が暮らしていたあの古い家よりはるかにきれいな部屋だ。広さもそれなりにある。


「もう俺ここにずっと住んじゃおうかなあ。」


「じゃあもう僕たちここでお別れだね。ご達者で! ......ってもう!冗談だから!放して!痛い痛い!」


冷たすぎる冗談をいうユウマを、コウが無言の締め上げで制裁する。

先に暢気なこと言ったのはどっちだよ。この場合はどっちもどっちであるが。


「荷物も置けたし僕は外を歩こうと思うんだけど、どう? さすがに疲れちゃった?」


「あとちょっとで傷も治るし一緒に行くよ。 抜け駆けなんて許さないからな。」


コウの左頬にできた傷はもうふさがりかけている。

僕たち人間は、頑丈で傷の治りがほかの生物に比べて早い。

もともとかすり傷程度では一日もたたずに直っていたのが、傷薬というものが開発されたことにより体部位の欠損レベルの怪我でなければ、大抵時間をかけて元通りになることができるようになった。

つくづく僕たちは戦う生き物なんだなと実感されられる。まるでバトルすることが前提のようだ。


「わかったよ。 じゃあもうすぐ夕飯時だし、下の酒場でご飯すませてからにしようか。」





酒場に続く階段を下りていくと、酒場は昼間よりもさらに賑わいを見せていた。

どうやらユウマたちが座れる席はもうなさそうだ。


「どうする? やっぱ外出て違うとこ行く?」


ユウマがそう言いかけたときだった。


「おいっ!おまえら来たぞ! 今日の主役が登場だ~!」


酒場で飲んでいた客の一人がユウマ達を見つけ大声をあげたのだ。


「おいおい遅いぞ~」

「あのカンテツのおっさんを倒すなんてやるじゃねえか!」

「そんなとこにいないで早くこっちに来て飲め飲め!」


あっという間にコウはすでに出来上がった客たちに囲まれ、連れていかれてしまった。


「そこの人気者の小僧の連れよ。お前こっちに来て話そうぜ。」


残ったユウマがあっけにとられていると、コウを囲んで盛り上がる席とは少し外れたカウンターに座っている男がユウマに声をかけた。

もう普通に夕飯を食べることが叶わなそうな事態に陥り、仕方なくユウマはその男の誘いを受ける。

一人でカウンターで飲んでいるその男はかなりの大柄だ。店主よりも大きいんではないだろうか。年は店主よりの一回り下の印象だ。身なりは一般人と遜色ないように思えるが、よく見るとかなり整っている。

もしかして結構上の立場の人間なのか?ユウマが思案しながら男の隣に座る。


「ずいぶん若そうだがお前は飲めるのか? それにしてもお前の連れのバトル、見させてもらったがずいぶんいいもん持ってんじゃねえか。 お前あの小僧とはどういう関係なんだ? お前はバトルしないのか?」


「......彼とは兄弟というか幼馴染というかそういう仲です。 僕も彼とよくバトルしてました。 おじさんも強そうに見えますけど、バトルはしないんですか?」


「俺様はまだおじさんって年じゃねえな。 まだ30だ。 バトルは好きだが、仕事上あんまやらないようには言われてるからなあ。 お前たちがよほどのことをしない限りは俺様と戦う機会は一生無いだろうぜ。 お前はともかくあの小僧には残念な話だがな。」


仕事?僕たちがよほどのことをするってどういう意味だ。


「そうそう、いいバトルを見せてもらった礼ではないがこれをお前たちに譲ってやろうと思ってな。 ほれ。」


渡されたのは何かの紙切れだろうか?くしゃくしゃでわかりにくいが。


「王都で行われる記念バトルトーナメントの決勝観戦チケットだ。 あいにく一枚で一人分しかないが、もともとはかわいい部下たちの試合を見ようと買ったものでな。 仕事で見れそうにないからお前たちに譲る。 あの小僧に渡してやるなり好きにしな。」


「おーい、オーギ。 おまえもそんなとこで飲んでないで、こっちでこいつの勝利を祝ってやろうぜ!」


コウを囲む客の一人がこちらに向かって呼びかける。

ユウマの隣に座る男オーギはユウマに向かって一言詫びを入れると、人混みの方へと消えていった。





「見事においていかれたな。」


誰もいなくなったユウマの隣に男が腰かける。


「......コウも楽しそうだし構わないですよ。 それより宿の方の仕事はいいんですか店主のおじさん。」


「オレの名はカンテツだ。 宿の方は嫁に任せてるから大丈夫だ。 というか仕事の邪魔だからと追い出された。 あんたはあのガキに混ざらなくていいのか?」


さすがに自分の敗北を祝う会には参加しずらいのだろう。カンテツがユウマに尋ねる。


「いいんですよカンテツさん。 今日は僕は特に何もしてないですし。 それなのに僕の分まで宿泊代無料にしてもらってありがとうございます。 助かりました。」


「いいってことよ。 さっきも言ったがあのガキ、コウにはいい勝負をしてもらったからな。 あんたの名を聞いておこうか。」


「僕の名はユウマです。 ところで、カンテツさん一つ聞きたいことが。」


ユウマはそっと視線を先ほどまで隣にいた男に向ける。


「あの人何者ですか? ただものではない雰囲気を感じたもので。」


「ユウマ、あんた結構鋭いところあるな。 あの男はな。 オレがこの町一番でなくなった原因の男だ。」





「オレは若いころこの町で最強だった。 開かれるバトルトーナメントではことごとく優勝し、その賞金で念願だったこの宿屋を建てることができた。 いい嫁ももらって順風満帆だったんだがな、ある時この町のバトルトーナメントで、俺は初めてといえる大敗北を味わった。 もちろん他の町にはオレよりも強い奴は少なからずいるだろうとは思っていたし、実際にいた。 だがこの町の頂点はオレだという自信があった。 俺をこの町で負かした男は、ここカガリ出身の若者だった。 いままでそいつは王都で修行をしていたらしい。 その日からオレはこの町で一番強い男じゃなくなったってわけだ。 そのときからズルズルとやってきたのが、今までのオレだ。 そしてその時オレを負かした男、それが、もう察しがついているだろが、あのオーギという男だ。」


「なるほど、カンテツさんより強いのか。 道理でただものではない雰囲気を感じるわけですね。 身なりも整っているし、仕事がなんたらとか言ってましたし、結構すごいことやってたりするのかな。」


「その通りだ。 オーギは、細かいことは俺もよく知らないが、あの"王国警備団"の一員だそうだ。」


王国警備団、たしかホムラに関する本を読んだときに見たな。

文字通り王国を警備する役割を持つ国直属のエリート集団。バトルなどの遊興ではなく、軍事的な側面での戦闘力をもつ者たちで、普段は名前のとおり警備や警護、犯罪行為などの取り締まりを行っているとか。一番から六番までの隊に分かれていて、数字が小さくなるほど王に近づく、つまり位が高いとかだったはず。

あの人は、王都から離れたカガリにいるから四番隊から六番隊あたりかな?故郷だから里帰り的なものかも。


「どうだ。納得したか? あの男はエリート様だったわけだ。 あの性格からか、みんなは砕けたコミュニケーションをとっているがな。 まあ今夜は、輪に入れないもの同士仲良く飲もうぜ。」





かなり夜も更けてきて客も減ってきた。

すでに一日歩いた上に店主とバトルし、酔っ払いにもみくちゃにされたコウはずいぶんとぐったりしている。

ここまで疲れているコウを見るのも久しぶりだ。やはり慣れない環境で疲れがたまったんだろう。

町の散策をするのも明日にお預けだ。さすがにいまにも眠りそうなコウを担ぎ、ユウマは部屋に戻る。

今日だけでもいろいろあったな。ほぼ見ていた僕ですら疲れたから、コウの疲労もすごいものだろう。今日はもう寝るか。

コウをベッドに投げ入れ、ユウマも自分のベッドに入ろうとする。

すると、ポケットからさきほどオーギからもらったチケットが落ちた。くしゃくしゃで見えなかった部分が、たまたま目に入る。


ん?これ開催日だよな?これって......。

そうだ。間違いない。


「これ、明日じゃん。」


チケットに書かれた開催日はまさに翌日のものだった。


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