Lv.8 戦闘!悪党ども

突然現れた本が放つ光があまりにもまぶしかったため、周りの人たちの反応が気になるが、どうやら誰も気にしてないようだ。

こちらを見ている者もいない。


ユウマは安心してホッとため息をつくと、その手に持つ本をじっくりと観察した。

手にするのは、実質初めてのはずだが手になじむ。このまままた消えていってしまいそうだ。

よく見るとこの本には、題名も著者名もない。個人的な記録帳、この世界では珍しいが日記というものだろうか?そう思ってページをめくる。


「なんだこれ?」


いくらめくっても、なにもない。白紙だ。この本には何も書かれていない。

あんなにあからさまに大事なものですという雰囲気を出しておいて、いざ中身を見ると何も書かれていない。書かれていた部分が消された様子も書かれていた部分が破り取られた様子もない。まさに期待外れだ。


「どういうことなんだ...?」


本を閉じたり、さかさまにしても何も書かれていない。

まさしく本に翻弄されている。こういうのの担当はコウのはずなんだけど...。

国王は演説を続けているが、全く頭に入ってこない。この本のことで頭がいっぱいだ。

絶対意味があるはずなのに...。


ユウマが頭を悩ませているそのときだった。

突然ユウマの体が発火した。


「うわっ!」


突如として現れた青紫の炎はユウマの全身を包む。

咄嗟にユウマは地面にふせ、地面に体をこすり火を消そうとする。

なんだよこれ!

意味わかんないことばっかおきて頭が追いつかない。

この本が原因なのか?

そこまで考えて気づく。この炎がまったく熱くないことに。それどころか逆に冷たい気がする。

すっかり人の目を引き、ユウマを中心とした円を作ったところで、ユウマは起き上がろうとする。

地面に手をつき、体を起こそうと力を入れる。

だが、力が思うように入らない。すっかり力の抜けた腕は体を支えるのをやめ、結果頭から地面に激突する。


「ぐへっ!」


腕どころか全身の力が入らない。

だんだんと瞼がおりてくる。

薄目で見えたのは、こちらに駆け寄ってくる二人の白い制服をきた警備団の人だった。

いったい何が起きてる?何かの攻撃?それとも本の?

いずれにせよ警備団の人に助けてもらわなければ。

このままではまずい。

ほんとうに......。


薄れゆく意識の中でユウマが聞いたのは、望んでいた言葉とはかけ離れたものだった。


「......おまえを犯罪者として逮捕する。」



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いつもは閑静な路地裏も、最近は近くの通りから人の声があふれてくる。これもこの国の王が長生きなおかげだ。

そんな声も聞こえないほどの路地裏で、三人の悪党とコウはにらみ合う。


相手が能力を持っているかわからない以上、うかつには手を出せない。

おそらく相手もおおごとにして周囲の人間に勘付かれたくはないだろうから、能力を使うにしても大きな破壊力や広い範囲のものではないはず。

必然的に、近距離の戦闘となるはずだ。その場合はおそらくコウに分があるだろう。


ごちゃごちゃ考えても仕方ないな。一気にいこう。

ぐっと足に力をため地面を蹴る。

悪党どもが身構える。

コウは体をひねって右の壁に突っ込みさらに壁を蹴る。


「こいつ速い!」


右左右左と壁を蹴って高速で近づくコウに翻弄され、悪党どもに一瞬の隙が生まれた。


狙うのは、真ん中。刃物を手にし、唯一防御が遅れたやんす男。


悪党どもの視線を振り切り、コウはやんす男の背後にまわり服をつかんだ。

壁を蹴った勢いを利用して、思いっきり壁にたたきつける。


「がはぁっ!!」


やんす男は壁に激しく激突し、地面にのびる。あと二人。


地面にのびたやんす男を確認し、残りの二人に視線を向けると、視界が赤く染まる。

赤髪の男の手に赤い炎で形作られた帯のようなものが現れる。

赤髪の男はその炎をコウに向かって振り下ろす。

風を切る音とともに炎がコウの眼前に迫り、思わず"電気化"をして切り抜ける。電気化しなかった実体の箇所が熱い。


どうやらあれは、本物の炎で作られた鞭のようだ。

当たれば、ダメージを負うだけではなく火傷を負う可能性もある。

"電気化"という手の内もさらしてしまった。

二人残してこの状況は思ったよりまずいかもしれない。


コウに一瞬のためらいが生じる。そこに三人目寡黙な男が攻撃を仕掛ける。

迫るパンチに、コウは少し遅れて防御しようと腕を構える。

が次の瞬間、激しい閃光がコウの視界を奪う。


「ぐっ!」


視界を奪われたコウに鋭い衝撃が走る。

寡黙な男のパンチをうまく防御できなかったようだ。

完璧な一撃が入り、コウの体は吹っ飛ぶ。


「はっ! その程度かクソガキ! もっと痛めつけてやるぜっ!」


間髪入れずに赤髪の男がコウをめがけ炎の鞭をふる。

上から迫る鞭にコウは空中で身をひねり、脱いだ服で鞭の一撃を受け止める。

直接体に触れはしなかったものの衝撃が体に伝わり、地面にたたきつけられる。


「はっ! まだ立つかよ! 丈夫なようだな!」


コウは静かに立ち上がる。口の中が切れ血が垂れる。


ちくしょう。思ったよりこいつら強え。1vs3てのもこれが初めてだ。やっぱ経験と情報ってのは大事ってことだな。じーちゃん、俺舐めてたよ。


コウは静かに呼吸する。頭に酸素を送りこむことで冷静になれる。情報の整理を促進させる。

今のやり取りで分かったこと。

相手の能力。

赤髪は鞭に炎をまとわせているか、炎を変形し鞭の形にする能力。

追い打ちをかけてきたとき、鞭は伸びていた気がするからおそらくは後者。破壊力を持った炎を鞭状に生成するのが本当の能力っぽいな。射程はありそうなのに、近距離でも使用してきたからおそらく素の格闘はせずに鞭のみを使うスタイルっぽい。

寡黙の方は、明るい光。

それ自体を発生させるのが能力っぽいな。わざわざ攻撃のタイミングに合わせて使ってきたのも考えると、こっちの方が手ごわそうだ。絶好のチャンスで殴ってきたあたり、攻撃方法は素の格闘っぽい。


体勢を立て直した一瞬で相手の戦力の考察する。


「結構ピンチじゃありませんの? ずいぶんと楽しそうですわね。」


いつの間にかコウの背後で体育座りをして戦いを眺めていた青髪の女性がコウに茶々を入れる。


「今絶好のチャンスなんだぞ。 早く逃げろよ!」


「今逃げたら勝利したあなたに礼を言う機会がなくなってしまいますし、せっかくだからそのついでに見学もさせてもらってるだけですわ。」


まじかよこの女の人。めちゃくちゃ変わってる人じゃねえか。

助けなくても何とかなってたんじゃねえかな。


「あぶねえからもうちょい下がって___

「よそ見してんじゃねえぜ!」


コウが青髪の女性に注意をすると同時に赤髪がこちらに再度鞭を振る。

赤い炎を揺らしながら長く伸びた鞭は壁を削り、コウに迫る。


この角度なら女の人には当たらない。

壁を削ったせいで少し遅くなった鞭を半身でよけると、一気に地面を蹴り、悪党どもとの距離を詰める。


鞭を振って隙のできた赤髪を守るように寡黙な男が前にでて、コウを迎え撃とうとする。

コウの速度に合わせ寡黙な男は、コウと赤髪を結ぶ直線上をふさぐように腕を振るう。

コウの速度でこの腕にぶつかれば、コウも確実にダメージを負う。

閃光を使って目をくらましてくる可能性もある。


やはりこの寡黙な男戦い慣れてるな。

戦闘の最中に選択肢をどんどん入れてくる。

よけざるを得ない。


腕にぶつかる前に腕を躱すように左の壁に向かって飛び、さらに壁を蹴って赤髪の男に向かって攻撃を仕掛けようとする。


だが、コウの見立ては甘かった。

最短距離で攻撃できていれば、再度赤髪が鞭をふるう前に一撃入れられるはずだったのだが、寡黙な男の妨害とコウの一瞬の迷いが赤髪にチャンスを与える。


鞭の速度は想像よりもずっと速い。攻撃を仕掛ける前に赤髪の炎の鞭がコウに迫る。

間に合うか!?

すんでのところで"電気化"し鞭をすり抜ける。


「くそっ!」


鞭を振って隙が出来た赤髪に、壁を蹴った勢いでコウが鋭いパンチを入れる。


「ぐあっ!」


赤髪はそのまま壁に激突しダウンする。

あと一人。油断しない。

寡黙な男は、すぐさま攻撃を仕掛ける。コウの上段を狙った蹴りがまたしてもコウに狙いを悟らせないよう激しく光る。


だが、寡黙な男の蹴りは見事に空振ることとなる。


「なっ!」


寡黙な男は思わず声を上げる。


「おまえ、そんな声してたのか。 だけど悪いな、お前の声をきくのもこれで最後だ!」


寡黙な男の視界に、一歩引いて目を瞑っていたコウが映る。

次の瞬間には、コウの鋭い一撃が寡黙な男を貫いていた。


「おまえの"ぴかっ!"ってやつ。 あれ自分にも効くんだろ?」

のびた男にコウが語る。

「俺も見えなくなったけどおまえもちゃんと見えてなかったってわけだ。」





コウと悪党どもの戦いも一件落着し、悪党どもを青髪の女性からもらったロープで縛る。

パンチ一発と鞭の火傷二回、それと上着一着。

けっこうな疲労にこの男たちを警備団に引き渡すために引きずり回すのは骨が折れる。まじで。

こいつらはここに放置して、警備団に来てもらうとして。


「どうすっかな。この人。」


コウは背中で寝息をたてる女性を見てため息をつく。

戦闘が終わり、ロープをコウに渡し、縛っている間に寝てしまっていたこの女性をどうするかが一番の悩みである。


「おもったより手こずったし、やっぱトラブルに巻き込まれたし、この人背負ってるし、日も暮れて暗くなってきたし、もう絶対間に合わないよな。 なんならもう終わってる可能性もある。」


バトルトーナメントを見るために走ったのに、今日は散々だ。


ふらふらと女性を背負っていると見覚えのある建物が見えてくる。


「あ、闘技場だ。」


炎の模様が描かれた壁が見えたとき、その闘技場から大きな歓声が聞こえてくる。そしてひときわ大きな声が聞こえる。

どうやらアナウンスのようだ。


「勝者! レン選手~~~~!!!!」



どうやら勝者が決まったらしい。決勝だったから、優勝者ってことだよな。くぅ~。一目でもみたい。この人おいて、今すぐにでも行きたい。

揺れる気持ちを必死に抑えて、闘技場を目指す。警備団の人を見つけなければ。

いた。あの白い制服はユウマに聞いたとおり警備団だろう。

とりあえず話しかけるか。


「なあ。ちょっといいか?」


「はい何ですか?」


真面目そうな面をした警備団員だなあ。


「いやこの人ちょっと襲われてて助けたんだけど...。」


「えっ! この女性がか!? ...ちょっと待ってくれ。 詳しい話を聞こう。」





ってことでかくかくしかじかコウは路地裏での出来事を団員に話す。

いつの間にか加わったもう一人の団員にも話して聞かせる。


「___今回の事態。 君の怪我を含めて我々、警備団の責任だ。 許してくれとは言わないが、謝罪する。 すまなかった。 そして、我々に代わり女性を救ってくれたこと非常に感謝する。」


一通り話すと一人の団員は悪党どもの回収に向かい、もう一人の団員はコウに深々と頭を下げる。


「いや別にそこまですることじゃないだろ? 警備団のひとたちもなんか忙しそうだし。」


突然の謝罪と感謝に戸惑いながらも言葉を返しあたりを見渡す。


「国中でおきるすべての悪行を責任をもって対処するのが我々の仕事だ。 この国の、ましてや王都で起きる犯罪を解決するどころか、発見すらできていないとは、王国警備団の名を汚すようなものだ。 本当にすまなかった。」


「もういいよって。 でも確かに警備団はすごいってユウマが言ってたな。 やっぱバトルトーナメントの警備とかで忙しいのか?」


「それもあるな。 言い訳をするわけではないが、やはり普段の警備に加えこのような大きな行事が入ると相応に忙しくなる。 だが、その程度なら本来うまく警備が回るはずだったんだが。」


「だったんだが?」


「あまりいいふらす話ではないが、先ほどの件もある。 実はこの大会と同時に国王様による国民への挨拶が大広場であったんだが、」


国王の挨拶か。ユウマが気にしそうな話だな。いったのかな。


「___そこに凶悪犯が現れる騒ぎがあったんだ。 もちろん、我々警備団が被害を出さずに逮捕したんだが、まあそれもあってな。 警備団の人員がいつも以上に割かれてしまったんだ。」


「...へえ。そんなことが。 どーりで天下の警備団様も路地裏までは目がいかなかったわけだ。それでこの女の人だけど。」


そういってコウが目を向けると、女の人の姿がない。


「あれっ!どこ行った? いつの間に!」


「私も気が付かなかった。 いったいどこに。」


「それなら私みてたよ!」


慌てふためく二人に声が届く。声のする方をみると少女が立っていた。


「え?ほんとか!どこに行った?」


「女の人なら、話の途中でするっって抜けて行っちゃった。 それよりも私みたよ!悪い人が逮捕されるとこ。」


どうやらこの少女は、前半の話のことに突っ込んできたらしい。


「逮捕された人ねえ! お兄ちゃんみたいな背の高さの茶色い髪の男の子だったよ! お兄ちゃんのお友達かなあ?」




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