Lv.2 王都への道
「世界のてっぺんとってやるぞっ!!!」
「きゅ、急になんだよ。 びっくりしたー。」
突然大声を上げたコウにユウマは思わず驚いてしまった。
「なにってなんだよ。 こんな景色見たら叫びたくなるだろ? それにさ、こう、なんていうか声に出すのって大事じゃん?」
「そんなこと普通はしないと思うけど。 まあ好きにすれば?」
コウの高揚はユウマには響かなかったようで、冷めた返事が返される。
コウの夢は”世界のてっぺんをとること”らしい。
随分と小さいころから口にしていたその夢についてユウマは一度尋ねたことがあった。
『結局、その”世界のてっぺん”ていうのはどういう意味なの? 一番強くたって世界を支配できるわけじゃないよね?』
『なんだよユウマわかってないなー。 いいか。 この世界は戦う力こそがすべてなんだよ。 じーちゃんも言ってた。 世界一強くなるということ、それは世界の頂点に立つということと同じなんだって。』
ユウマは"これだけ長い間一緒に過ごしていても理解できない部分もあるんだな"と、心から感じたことを思い出した。
バトルは楽しい。
コウと特訓の中でもう何度もバトルしてきたが、相手を研究し、自身の手を最大限いかし相手を負かす爽快感。
この感覚はバトルでしか味わえない。
結局ユウマもコウと同じ生物であることには変わりない。"世界一強くなりたい"と思うかどうかの違いだ。
あれこれユウマが考えているとその前を歩いていたコウがうしろを振り向く。
「おいユウマ。 みろもう町が見えてきたぞ!」
考えながらも足は正常に動いていたようだ。
この森は特訓によって何度も踏破させられているから今となっては目隠ししてても家に帰れるが、どうやら考え事をしながらでもうまくいくらしい。
「まずは町にいってこれからの目的地を決めようか。」
ユウマはコウに返事し、早足で町に向かおうとするコウの後ろについていった。
二人は難なく森を抜け町に着く。
よく買い出しで町に降りたときに寄る八百屋はどうやら店の準備が終わって営業を開始するようだ。
いつもよりも早いような気がするが。
「おはよーおばちゃん。 聞いてくれよ。俺たち二人で旅に出るんだ!」
コウは自信に満ちた誇らしげな顔で八百屋のおばさんに話しかける。
「あら、ふたりともおはよう。 ......そうなのね、とうとう二人の念願だった旅に出るのね。 おめでとう。 それにしてもこの前まであんなおちびちゃんたちだったのに、おばちゃん、最近時間がたつのが早くていやだわあー。 ......そうそう、旅にでるってどこに行くのかあてはあるのかい?」
この人には昔から世話になっているが、このお世話好きにはいつも助けられている。
「どこにいくかはこれから二人で決めようと思ってます。 それにしても今日は店開くの早いんですね。 それに人通りも多いような?」
ユウマが先ほどからの疑問をおばちゃんに問いかける。
「あら、あなたたちこれから旅に出るのに知らないのかい? 今年は王都で現国王の生誕100年記念祭が開かれるのよ。 だから国中で人がにぎわい行きかい、いまこそまさに書き入れ時というわけ。 あなたたちもいいタイミングで旅に出たわね。」
どうやら祭りという言葉にコウは強く惹かれたらしい。もろに顔が王都に行きたいと喋っている。
そんなコウをにこやかな表情で見つめ、
「...どうやら行先は決まったようね。 あなたたちの旅の無事を祈っているわ。」
とおばちゃんは小さく手を振った。
「王都に行くのはいいけど、コウ、行き方わかってないよね?」
「ああわかんない。 まず王都ってなんだ?」
八百屋を後にし意気揚々と前を歩くコウに向かって、ユウマが尋ねると自信満々な答えが返ってくる。
じゃあその足はいったいどこに向かっているんだ。
「もう。それくらいは知っておかないとこの先苦労するよ。 主に僕がだけど。 まずここはどこの国かはわかるよね?」
「それはわかるぞ。 炎の国だろ?かっこいいよなあ...。」
「それはこの国では王が代々炎に関する能力を持つことからつけられた通称だね。 正しい名は炎の国”ホムラ”。 王都の名は”グレン”。 世界で一番の規模の都市らしいね。 第一目的地としてはピッタリなんじゃない?」
「ホムラ王国のグレンって街か。 結局それはどこにあるんだ?」
ユウマは先ほど通りすがりの商人に見せてもらった地図を頭に思い浮かべる。
「僕たちがよくお世話になったこの町は”トロビ”という町だ。 ここトロビから王都へはほぼ真北なんだけど、一日で行ける距離じゃないからまず中継地として”カガリ”という町で一夜過ごす。 だから僕たちはカガリをいまから目指すんだけど、カガリはここから北東へ...って大丈夫? ついてきてる?」
コウはなんでもすぐにのみこんで習得できるタイプなのだが、地名に触れるのは初めてでどうやら混乱しているようだ。
ユウマがコウに声をかける。
「おうばっちりだぞ。 トロビに向かえばいいんだろ?まかせとけ!」
「いやそれは今いるところだよっ!」
どうやらコウが地名に慣れるのはもう少し時間がかかりそうだ、ユウマはそう心の中でつぶやいた。
・・・ってことは要するにカガリの町に向かうには、あのでっけえ山のほうに向かって歩いてけばいいんだろ?」
ユウマがあらかた今日の予定を伝えると、コウは自信満々にそういった。
やはりコウは要領いいな。必要なことだけ覚えるんだから。
「北東にあるあの”でっけえ山”は、”ホウオウ山”。 現在も活動を続ける活火山で標高は世界でも一番らしいよ。」
「へえー。いつか俺たちもあそこに行ってみたいな!」
”いつか”という言い回しに、自身の身の程をわきまえるほど大人になったかと思う一方、おそらく山よりも王都に興味があるだけなんだろうなと察しはつく。
「よし。 じゃあこの町もそろそろ出発しよっか!」
そういってユウマは、反対方向に向かって歩くコウの首根っこをつかみ、町の外へ続く道を歩き始めた。
さすがは王都に続く道ともいうべきか、二人は平原にしっかりと整備された道を歩き、日が暮れる前にはカガリの町に到着していた。
初日ということもあり、張り切りすぎないように近場に中継地を設定したのが功を奏したようだ。
道中では道行く商人にコウがバトルを仕掛けるのを止めるのに、かなりの力を使ったが。
カガリの町はトロビの町を一回り大きくした印象で町の中を通る道は太く、人通りも多い。
初めて見る人の多さにコウはいうまでもないがユウマでさえ興奮を隠しきれない様子だった。
いまにも走り出してしまいそうなコウをユウマは引き止める。
「色々見て回りたいのはわかるけど、まずは宿に荷物をおいてからにしようか。 その方がたくさん後で楽しめるでしょ?」
「ちぇ。 まずは宿探しかあ。 そんなのどこでもいいよー。」
すこし落ち着いたというかテンションの下がったコウがふらふらと歩く。
宿屋は町の入り口近い場所にあるとは思うんだけど、どうだろうか。
ユウマがあたりを見渡そうとすると、
「あー!おいユウマ! 見ろよこれ!これここがいい!」
先を歩いていたコウが道の真ん中で大きな声を上げていた。
ユウマは大声を上げる連れが自分の連れでないかのようにそおっとコウに近づいた。
「えーとなになに。 『宿屋の店主にバトルで勝てたら宿泊無料!!』? あーそういうこと。」
コウが指さす看板を読んだユウマは納得した顔をした。
「バトル、いいんじゃない? コウなら負けないと思うし、ここで路銀を節約できるならうれしい話だよ。」
「だろ?俺大発見。んじゃ早速行ってくる!」
そういうとその挑発的な看板を掲げた宿屋にコウは勢いよく入っていった。
ユウマもそれに続く。
宿屋の中は思ったよりも普通というか小奇麗で、どうやら一階が酒場になっている宿屋のようだ。
やはり祭りの影響か人は多い印象を受ける。トロビより大きな町であることもその一因だろう。
「おっちゃん!外の看板見た!俺とバトルしてくれ!」
奥のカウンターでコウが店主と話しているようだ。
「おめえみたいなガキじゃオレには到底勝てんな。 弱い奴はお断りだ、帰んな!」
なるほどこっちは思った通りの強面の店主だ。
想像と違うのは年齢が少しいってることくらいかな。
「いやだ! 俺はおっちゃんよりも強い自信がある! バトルしてくれ!」
どうやらコウと店主のバトルはもう始まっているようだ。
どう手を貸そうかな。ユウマが交渉の手段を考えていると、
「コラ!アンタ! 男が戦う前から勝敗を決めてどうするんだい! この町で一番強かった男らしくバトルを受けな!」
カウンターの奥から出てきたのは店主よりさらに強そうな女の人だった。
「ごめんねえ。 うちの旦那、昔無駄に強かったせいで気が大きくなったもんで。いまでも強いもんと戦うことにプライドばっかもって。 宿にくる客にバトルを仕掛けてはオレはまだ強いとかオレはまだやれるとか何とか言って、ついには弱そうな客には門前払い。 こっちとしても客を払われちゃ困るからね。 あんたらうちの看板みてきたんだろ?うちのとバトルやっていきな!」
「弱そう? よっしゃ!やるぞ!バトル!俺!」
「うおおー!」「やっちまえ!」
うまく夫人に乗せられたなと思うユウマと店主夫人に怒られしゅんとしている強面の店主をよそに、コウと夫人となぜか酒場の客たちまでもが熱を上げ始めた。
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