Lv.11 潜入!炎の城
走る走る。
今日だけでいったいどれだけ走れば許されるのだろう。
いつの間にか傾いてた日はじきに沈む。
広場を巡回する警備団をのぞきこみ、コウは屋根に寝転がる。かれこれ一時間くらい警備団から逃げ回っている。
目指すはユウマが囚われている城の地下。なんとしてでもユウマに会い、二人で逃げる。
時間がたてば、二人が何も悪いことをしていないことが彼らにもわかるだろう。
そんな世間知らず丸出しなことを考えながら乱れた息を整える。
呼吸が落ち着き再び城を見上げる。ようやく城の手前までたどり着くことが出来た。戦闘をせずにちょこまかと逃げ回ったおかげだ。
あとはどうやって城に潜入し、ユウマのもとに行くか。
屋根からこっそり顔をのぞかせて、城の周囲の様子を探る。
城の前の広場、おそらくここがユウマが捕まった場所なのだろう。一般人は一人もおらず、ただ警備団の団員が複数人巡回しているだけだ。そこから城へ向かうには、大きな池がある。
いや、たしか濠っていうんだっけか。なるほど、侵入者を防ぐのにもってこいだな。どうしたらいいのか全く分からない。
唯一城に繋がる濠にかかった橋には警備団員がおり、当たり前だが正面突破は不可能だと思う。
となると、あとコウにできることと言えば濠の周りをぐるっとみてまわり、どうにかうまいこと侵入できそうなところを探すしかない。
よしいくか。
コウはすっと、広場とは逆の路地裏の方に着地する。ここならだれにも気づかれることはないだろう。あとは隠れながら探索だ。
ぐっと覚悟をきめ、コウが歩き出そうとするとコウの足に何か固いものがあたった。
緊張状態が続いていたため思わず過剰な反応をしてしまいそうになった。
なんだ?これは。
コウが恐る恐る拾い上げたそれは、どこかで見たことのあるような黒い石だった。
「これってたしかトランシー....」
『おおっ!やっとつながったか。 これ!レン!おぬしはいったいいつまでワシを無視する気じゃ!』
突然石から怒号が飛んでくる。
コウは心臓が今にも飛び出しそうなくらいの衝撃を受けつつも、あと一歩のところで石をぶん投げるのをやめる。
『通信テストをするから携帯するように言ったのに、まさか一度目から"気持ち悪いなこれ。"とかなんとかいって音信不通になるとは。 朝からワシはおぬしからの通信をいまかいまかと待っておったのに! ......何とか言ったらどうじゃ!』
激高する男の声に返答するか悩みに悩み、コウはいちかばちか返答することにする。好奇心には人は勝てないのだ。
「悪いけど、俺これ道端で拾っただけで、そのレン?とかというやつじゃないんだ。」
思えばこれ警備団の人が持ち歩いているものだから、相手はそれに類するものの可能性が高かったな。まあ、返答してしまったのだから仕方ない。
『...ふむ? そうか...。怒鳴って悪かったぞ。 てっきりレンのやつがワシを焦らして愉悦に浸っているのかと。 まあいい。ワシの最高傑作トランシーバーを拾ってくれたおぬし! 悪いがそれをワシのもとまで届けに来てくれんかの。 ワシはいま手が離せんのじゃ!』
「俺もいまめちゃくちゃ忙しいんだけど。 遠いところは無理だぞ。」
『そう遠くはないはずじゃ。 レンが落としたり、す、捨てたりは...しないだろうから落としたとなるとワシのラボのすぐ近くじゃろう。 通信も届いているようじゃしの。』
「...で、どこなの?」
『今おぬしがどこにおるかはわからんが、おそらく今見えてる一番高い建物にワシの研究所はある。』
「おいおい。じいさん。 俺が今見えてる中で一番高いの城だぞ。 真面目に答えてくれよ。 俺忙しいんだって。」
『そう。 ワシの研究所はまさにその城の中じゃ。』
大通りを巡回する警備団員をこっそりと見送りコウは路地裏の物陰に身をひそめる。このトランシーバーの向こう側にいるおじさんの言うことが正しけりゃ、それはコウにとっても願ってもないチャンス。
おじさんのつてで城内に侵入できれば、一歩ユウマに近づくことが出来る。
いま最もコウの侵入を妨げているのは、城の入り口にいる警備団員の門番にトランシーバーによってコウの顔がわれてしまっているという可能性だ。
このトランシーバーのおかげで城内に侵入する糸口をつかむことが出来たが、逆にトランシーバーのせいでその侵入がおそらく不可能なものになっている。
このじいさんの画期的な発明であろうが、今のコウを苦しめているのは間違いない。
『...む。さっきから黙ってどうしたんじゃ? 早くワシの大切なトランシーバーを届けに来てくれんか。』
トランシーバーのむこうからじいさんの声が聞こえる。
コウはもう一度あたりを見渡しひそひそとトランシーバーに話しかける。
「そうはいってもよ。 入り口に門番がいるから入りにくいんだよ。」
しまったか。正直に言いすぎてじいさんに怪しまれるか。
『...む。たしかにそうじゃな。 おぬしもワシにトランシーバーを届けに来たといえば通してはくれるじゃろうが。 あの門番ども頭が固くてかなわんわ。 ワシとほぼ毎日顔を合わせておるのに、毎度入出の申請をさせられる。 いいかげん顔だけで通してほしいものじゃ。』
よかった。どうやら怪しまれずに済んだようだ。城関係者あるあるを話し始めている。
『___そうそう、ワシもとうとう申請がめんどくさくなってしまっての。 この城の設備開発にも携わっているワシが極秘に作り上げた隠し通路がある。 それを使って入ってくるといい。』
「隠し通路!? いいじゃねえかそれ! それ使えばなかに入れるのか? どこにあるんだ?」
『まあまて。ワシがしっかりと案内するぞ。 まずは____』
トランシーバーの声の主による案内により、お濠の周りを約1/4周し、城を横から見る位置にたどりつく。
「ついたぜ。」
『よし。 おぬしの見ている方から二本の塔が見えるじゃろう? 左に高いほう右に低い方じゃ。 その低い方、渡り廊下があるあたりにワシの研究所がある。』
「...ああ、みえるぞ。 あそこに行けばいいんだな。」
『そのためにワシの隠し通路を使う。 まずは目の前の濠をよくみるのじゃ。』
城と町を隔てる大きなお濠は低めの柵によって囲まれている。
コウがのぞき込むと、あまりきれいとは言えない水の中に赤い魚群がちらちらと顔をのぞかせている。
「汚い水と魚しか見えないぞ。」
『おぬしから 数m 離れた水底に、濠の水を循環させるための大きな排水口があるじゃろ。 まわりに赤鯉はおらんはずじゃ。』
よくみると確かに少し離れた場所に鉄格子が見える。あそこの周りは危険だとわかっているのか魚の影もない。
「あったけど、もしかしてあれが入り口か?」
『その通りじゃ。 あれはワシが隠し通路のために用意したダミーの排水口じゃ。 あそこから城の地下の下水道に出ることができる。 下水道から城内をたどりワシの研究所の近くまでこれるのじゃ。』
本気でいっているのか?
ダミーとはいえ排水口にのみこまれるってことじゃないのか。最悪そのまま窒息死する可能性だって...。
「ほんとに大丈夫なのか? 結構やばそうに感じるんだけど。」
『む。天才のワシが言うんじゃから間違いないじゃろ。 百聞は一見に如かずじゃ。 やってみい。 あ、そのトランシーバーは防水性もばっちりじゃから安心せい。』
そのことはあまり心配はしていなかったが。
だが、このチャンス逃すわけにはいかない。千載一遇のチャンスとはこのことだ。覚悟はきめた。
ユウマは俺が助けるんだ。
トランシーバーを懐にしまい、コウは音を立てないように水に入った。
少し濁った水の中を泳いでいくと、さっきはうっすらしか見えていなかったものがだんだんとその形を明らかにしてきた。
かの排水口は人が通れるほどの大きな穴が重厚な鉄格子によって塞がれているもののようだ。
この排水口だよな。どうやって鉄格子を取ればいいんだ?
あまり近づくとなすすべなく吸い込まれてしまいそうなので少し遠くから様子を観察する。
水を吸い込む勢いで、いくら鍛えてきたコウとは言えど簡単には鉄格子を持ち上げ、排水口を開くことはできないだろう。
どうしたもんか。そう考えていると、水中にビーという音が響いた。
その音ともに鉄格子が動き出す。鉄格子は排水口から離れた位置にずれていった。
これ、じいさんの仕業ってことだよな。あのじいさんやっぱすごい人なんじゃ...。
開いて人が通れるようになった排水口が暗い口をあけて、コウを待っている。しばらくたつとまた鉄格子が閉じてしまいそうだ。早くいかなくては。
ふつふつと湧き出る恐怖心をぐっとこらえると、コウは大きく息を吸って排水口へと入っていった。
排水口の中の水の流れはコウが想像していたよりも何倍も激しいものだった。
まさしく身動きが取れない状態が続き、パニックになりそうなのを必死に抑える。
数分間とも思えるような錯覚のなか、おそらくは数秒もしないうちに下水道に放出される。
勢いよく噴出されたコウは運よく水路ではなく、作業用の通路に墜落した。
「ぷはっ! はぁーはぁー、ゲホッゲホッ!ゼーゼー。 .........はあ。まじで死ぬかと思った。」
『その様子じゃとうまく下水道までたどり着けたようじゃな。』
「はあはあ。まあなんとかな。 ......ほんとにじいさんこの隠し通路使ってんのか? これ常人には不可能だと思うんだけど。」
いまさらながらに当然の疑問をぶつける。俺ですら、結構きつかったのにこのじいさんが、どんな人かはまだ見てないから何とも言えないが、無事で済むとは思えない。
『実はまだ隠し通路の構想しかなくてな。 実際にはやっておらんし、道の整備も不十分じゃ。』
「そんなの俺に通らせてたのかよっ! あやうく死ぬところだったじゃねえか!」
『ワシも安全性の実験がしたかったんじゃ。 すまんの。 でもここから引き返せんし、さっきのよりは安全のはずじゃ。』
「じいさんの言葉が一気に信用できなくなってきたな。」
だが排水口が引き返せないから、進むしかない。じいさんの指示通りに進むしかないな。
コウはさらなる覚悟を決めて下水道の奥へと進むのであった。
『___そこの扉を開ければ、城の地下。 用水管理室に到着じゃ。』
黒い石から発せられる声に従い、コウは目の前の重たい扉をあける。
ようやく城の内部、もともと城の下水道に入っていたからさっきからだがノーカンとして、ようやく城の内部にたどり着いた。
黒い石、トランシーバーの向こう側の声の主のいうとおり、あの排水口ほど危険なところはなく、安全とはいかないまでも比較的安全にここまでたどり着くことが出来た。
「で、こっからどうすんだ。」
下水道をたどるうえで何度もした質問をトランシーバーの向こう側のじいさんになげかける。
『そうじゃな。 いまおるところは城の水や電気を管理する施設でな。ワシがおるこの塔の地下に位置する。 つまり、そこからここまで登ってくればよいのじゃが。 不法に侵入したおぬしは城の人間に見つかるわけにもいかんしの。 ......よし、おぬし、天井に排気口が見えるじゃろ。』
コウは言われたとおりに天井を見上げる。
「ああ。あるな。 ......まさか。」
『そうそのまさかじゃ。 排気口をのぼってきてくれ。』
俺このじいさんに頼まれごとをされてるんだよな?これ俺への罰とかでやってるわけじゃないんだよな?
今日何度目かの疑問が頭によぎる。その考えを払うように頭を振り、コウはひたすら手足を動かす。
排水口へ吸い込まれたと思えば、今度は排気口をよじ登る。
こんなこと経験してんの世界で俺だけかもな。
ひたすら排気口に体を突っ張らせ上へ上へとのぼっていく。常人なら筋肉が悲鳴をあげるだろうが、これまでつらい特訓を耐え抜いてきたコウからすれば、造作もないことだ。懐から声が聞こえてくる。
『次の階の分岐でワシのいる階層じゃ。もう少しじゃぞー。』
上を見上げると、少しのあかりとともに横に分岐する道が見える。
体中がほこりまみれになりながらも、ようやくたどり着くことができた。
『あとはもうすぐそこじゃ。あかりがもれている場所があるじゃろ?そこがワシの研究室じゃ。』
すこし、トランシーバー以外の場所からも声が聞こえてくる。おそらくは声の主が近いのだろう。
あかりの場所までたどりつくと下に白衣をきた老人が黒い石をもち座っているのがみえる。間違いないだろうここだ。
「おい。じいさん。 きたぞ。」
「『おお。よくきてくれたな。 今開けるからまっててくれ。』」
老人が机についた何かをおすと排気口をふさぐ鉄格子が音をたててひらいた。
コウは開いた排気口から床に着地する。
見渡すと、部屋中に見慣れない機械が大量におかれており、そのほとんどはごみのように無造作に部屋の隅に積まれている。
部屋の主である老人は椅子から立ち上がるとコウのもとに歩み寄った。
「さあ、トランシーバーを。 おおっとワシとしたことが自己紹介が先じゃな。 ワシはデンジ博士じゃ。 みなからはデンじいと呼ばれておる。 この国を担う大発明家じゃ!」
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