Lv.15 雷に打たれたような
ズッッドォーーーン!!!!!
レンとユウマが戦う地下闘技場に衝撃と轟音が響き渡る。
ユウマを押しつぶさんとしていたキューブはそれとともに跡形もなく消え去り、もげるほどの力で押し返していた腕が力の発散先を失い虚空に刺さる。
「う゛っっ!」
空振った腕がミシッと音をたてる。どうやら左肩を痛めたようだ。
だが今はその痛みを気にしている暇はない。
ユウマは肩を抑えながらその轟音のした方へ体を向けてさっと起き上がった。
音のした方はさきほどまでレンが立っていた場所だったはずだ。
今はその場所に大きな土煙が起こっている。
いったいなにがおきたんだ。今のは、いまの衝撃はレンの仕業か...?それとも別の...
闘技場全体を見回してもレンの姿は察知できない。
土煙とレンの動きを最大限に警戒し、出口の階段を意識したそのときだった。
「いっってぇー--!...けど生きてる!なんかよくわかんないけど助かったー!」
ユウマにとって聞き馴染みのある声が土煙の中から聞こえる。
ユウマは反射的に声の主を悟った。頭がそれを否定したとしても、いままでのユウマの人生が声の主の正体を告げている。
そんな。まさか。どうして。
「どうして...ここに...、ここにコウがいるんだよ...。」
喜びと絶望が混じったユウマの呟きとともに土煙が晴れていく。
そこにいたのは、仰向けに倒れるレンの上に乗ったコウの姿だった。
------------------------------------------
時はコウが穴に飛び込むまでに遡る
------------------------------------------
デンじいから黒い石を受け取ったコウは目の前に広がる穴に視線を戻す。
穴はそこが見えずただ暗闇が広がっているかのように思えた。
研究所に向かう足音が徐々に大きくなる。
ためらってはいられない。
「デンじい!ありがとう!行ってくる!」
コウは小声で親指を突き立てデンジに感謝を伝え、小さく息を吸って穴に飛びこんだ。
う゛
わ゛
あ゛
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
!
身体が闇に吸い込まれて落ちていく。
頭上の穴がみるみるうちに点となり消えていく。
味わったことのない滞空時間。
周りの見えない暗闇で上下左右の感覚が消失し、臓器という臓器が縮み上がる。
いくら塔から地下深く落ちるとはいえ、この国の建築技術では落下時間は10秒に満たないほど。
だがこの10秒は人が死を察するには十分らしい。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
右腕を電気化し、壁があると思われる方に全力で伸ばす。
なんとかなれっ!
伸ばした腕が壁に触れるのを感じる。
どうやら電気化では摩擦もすり抜けてしまうようだ。つるつると指が壁をすべる。
指に壁の凹凸を感じる。
摩擦で速度を落とせないなら凹凸を掴んで勢いを殺す。
肩と腕にありったけの力をこめ固定し指に凹凸をかける。
それと同時に靴の裏を壁につけ、摩擦を生み出す。
次々に凹凸に指をはじかれコウは落下していく。
気休め程度だが、勢いが徐々になくなっていっているような気がする。
ほのかに明るい地面が見えた。
そう思った次の瞬間、強い衝撃とともにコウは闘技場の地面へと墜落した。
------------------------------------------
想像よりは軽めだが、全身という全身から痛みを感じる。
薄暗い空間は墜落の衝撃によって舞い上げられたほこりと土煙によってさらに視界が悪い。
ゆっくりと体を起こすと、徐々に煙が晴れてあたりの様子が鮮明になってきた。
人影だ。
やたら見覚えのある。
「...ユウマッ!ユウマか!」
ユウマに気づいたコウが呼びかける。
「よかった! ...でもなんでここに? 囚われてるって話じゃ...?」
「それは...こっちのセリフだよ、なんで来ちゃったんだよ?僕は...」
「どけ。」
ユウマとコウの会話を遮るように、重く鋭く冷たい声が響く。
コウが声の出どころを探り視線を落とすと、自分の下に倒れる男に今気づいたかの如くぎょっとした表情を浮かべる。
「うおっ!なんだ!?俺が助かったのってこの人のおかげか!?」
「もう一度言う。 どけ。」
「わ、悪い...。いまどくよ。」
声にただならぬ威圧を感じたか、コウは大人しくレンの上からどき、ユウマの方へ向かってくる。
ユウマはレンの様子を警戒し、顔がこわばる。
いったいこれから何が起こる?
レンは起き上がると制服に着いた土を丁寧にはたき落とし、額から伝う血を指で拭って地面に払う。
レンは額の血が止まったのを確認し、こちらに向き直って口を開いた。
「貴様。何者だ。」
どうやらコウの正体について質問しているようだ。
すぐに取り押さえようとしないあたり、礼儀を守っているというか変人というか。
「いやあ、ごめん。下に人がいるなんて思ってもいなくてさ。...ほんとにごめんね。ケガさせちゃったし...。」
コウはどうやら闘技場の上に開いている大きな穴から落ちてきたようだ。
でもどこからどうやってここに落ちてくるに至ったのか皆目見当もつかない。
おそらくこの場にいる誰もがこの状況を理解していない。
「この俺が聞いているのは貴様が何者かということだ。 それに答えろ。」
謝られているのをものともせず自身の主張を推してくるレンの圧に困惑したのか、コウはユウマに耳打ちする。
「これ、どういう状況? そもそも俺もあいつが誰か知らないんだけど。」
どうする。
やはりコウを巻き込むのは心苦しい。
やっていることははたから見れば国への反逆だ。
そんなことにコウを巻き込みたくないのはユウマからすれば当然のことだ。
だが、コウがここまで来てしまった以上、ユウマも含めて二人でここを出るにはやるしかない。
ユウマは腹をくくり不思議そうな顔をしているコウに告げる。
「...細かいことは後で話す。ここから僕たちが出るにはあいつが邪魔なんだ。」
そのユウマの言葉を聞くと、コウの目が鋭くなる。
「...あいつは、敵ってことでいいんだな?」
騙しているわけではない。だが、コウの無償の信頼がユウマの心に刺さる。
今はそれを押し隠す。
「ああ、僕とコウであいつを倒すぞ。」
ジリッとユウマとコウはレンの方へと体を向ける。
闘志が伝わったかレンの顔つきが少しづつ険しくなっていく。
「貴様ら。どういうつもりだ。 質問には答えず、この俺に敵意をむけるなど。」
レンの冷静な顔の奥に怒りを感じる。
「特に貴様。 落ちてきた方だ。 貴様が何者かは知らんが部外者はここに来ることは許されない。 ましてやこの俺のバトルの邪魔をするなど言語道断。 ただちに叩き潰したいところだが、貴様が大人しく投降するのなら悪いようにはしない。」
レンの提案にコウは顔色一つ変えることはない。
覚悟と心はすでに決まっている。
「ほお。つまりこの俺と戦いたいと。そういうわけか。 確かにルールには人数の制限をしていない。 ...ならば、貴様ら二人でかかってこい。 まとめて倒し、仲良く檻の中に入れてやる。」
そういうとレンは再びキューブを出現させた。
「さあ!第二ラウンドといこうか!!」
レンがキューブを出すのを見て、レンが臨戦態勢に入ったことを悟る。
コウはレンの戦い方をしらない。
だがそれはむこうも同じだ。情報戦はこちらに有利がある。
「コウ! 相手はあのキューブをまっすぐ飛ばしてくる。 本体もキューブも力、速さともに僕以上だ!! 僕がキュ___」
「来るぞ!!!」
ユウマがコウに情報を伝えようとした矢先、キューブがユウマにむかって飛んでくる。
レンの能力は自然現象とも人工物とも分類できない特殊な能力だ。
ある程度その能力について理解のあるユウマがキューブをひきつけ捌き、本体をコウに狙わせたい。
ユウマよりコウの方が近接戦闘が得意なこともありレンにはコウをぶつけるのがユウマの狙いだ。
それを伝える前にレンの攻撃によって話を中断された。
ユウマの意図がコウに伝わったことを願って今は回避に専念するしかない。
段々と見慣れてきた攻撃だ。
真正面、直線的、それにこれだけの距離があれば回避することはさほど難しいことではない。
キューブをひきつけ地面を蹴りキューブを躱す。
さきほどもいったようにレンのこのキューブの能力は遠近、攻守に使える戦闘において万能の能力である。
だがこの能力にも欠点はある。それはどちらか片方にしか運用できないことだ。
キューブをレン自身から離せば、レンは生身同然。それどころか能力を使用しているため、未使用時よりも動きが鈍くなるはずだ。
それこそがユウマの狙う勝機である。
キューブを躱し着地したユウマは、すでにレンに向かって突進しているコウの動きに連携するように走り始める。
二人の連携。強者との対峙。いままで特訓だったとはいえ何度も経験してきたことだ。
コウがレンに接近し、インファイトを仕掛ける。
だが身体能力がユウマより高いと言えど、コウはユウマより少し早く、体力がある程度。キューブを操作しているハンデがあっても、近接戦闘はレンに分がある。
だからこそこちらの連携を見せつけるときだ。
二人でかかれば、悪くない戦いができるに違いない。
躱したキューブが背後に飛んでいくのを見て攻撃を仕掛けるタイミングをうかがう。
連携にそなえてコウはまだ電気化の能力を見せていない。
一気に決める。
ユウマがレンに攻撃を仕掛けようとした時だった。
ユウマの視界の端に半透明の何かが映る。
まずい!!
右足で急ブレーキをかけ地面を蹴り、宙返りで後方に回避する。
目の前を通ったのはキューブだ。
ユウマの予想していたキューブでの攻撃のタイミングよりずっと早い。
攻撃は背後からくるものだと思っていた。
直線的な動きをするキューブにとって、背後からの攻撃が最速の移動経路であり、ましてや横からの攻撃は直線的な動きでは無駄な動きが多すぎる。
まんまと連携を崩されてしまった。
コウの相手をしながら。レンは恐ろしい相手のようだ。
再びユウマがレンに攻撃をしかける。
あれ? まさか。
視界の端に先ほど避けたキューブが写る。
キューブはユウマに躱されると、滑らかな曲線を描きながら速度を保ち、折り返してユウマの方に向かってきている。
直線的じゃない。曲線の動き。
予想より早く横から攻撃できたのはこの動きのおかげだ。
キューブの精度が上がってきているというのか!?コウと戦いながら!
避けられない。
踏み込んでしまったから。
動きの鈍い左腕はガードが間に合わず、右腕のみのガードでキューブを受ける。
やはり精度が上がった分、力はさきほどよりないように思う。だが。
「ぐっ!!」
ユウマの体が観客席まで吹き飛ばされる。
「ユウマッ!!!」
「筋はいい。 だがよそ見は良くないな。」
「ガァッ!!」
吹き飛ばさるユウマにコウが視線を向ける。その隙を逃すことなくレンはコウの体にパンチを放つ。
ガードが遅れたコウの体にレンの攻撃がヒットし、ユウマと反対の観客席に吹き飛ばされてしまった。
「どうした。 もう終わりか? この俺を楽しませるにはまだまだ足りないぞ?」
レンはそう言いながら吹き飛ばされた二人を交互に見る。
「?」
ふと、足元に落ちる何かに気づいた。
どうやらくしゃくしゃの紙切れのようだ。
確証はない。
レンはそっとそれを拾い上げ慎重に紙を伸ばす。
「っっっこれはっ!!!!!!」
まさに雷に打たれたような衝撃がレンを貫く。
その紙は。
そのチケットは。
吹き飛ばされたコウのポケットからこぼれ落ちたたった一枚の観戦チケットだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます