Lv.14 戦闘!2番隊副隊長
王国警備団2番隊副隊長、レンの掛け声が闘技場にこだまする。
そのその迫力に思わず体に力がはいる。
聞いていた話では、この青年、かなり腕がたつようだ。それこそ肩書に恥じぬ強さであろう。
決して油断していては勝てぬ相手であろうことは間違いない。
どんな手段でもいい。どうにかこの男を倒し、外へ出る。
それがユウマに残された唯一の道だ。
声が響き終わってもユウマはその場を動かない。
相手がどのような戦闘方法をとるかわからない序盤では、むやみに相手に近づくことは避けるべきだ。たとえユウマが近接の攻撃手段しかなかったとしても。
ユウマがその場を動かない様子をみて、レンはわずかに眉を上げる。
どうやらユウマが仕掛けてこないのが不思議なようだ。
そうユウマが考えた時だった。
目の前にレンがいる。
わずかに気を抜いた瞬間に目の前まで近づかれている。
攻撃がくる、避けなければ。
おもいっきり地面をけって距離をとろうとする。
「!!」
ユウマの死角、視界の下からのレンの蹴りは、間一髪のところでユウマの顎をかする。
蹴りをよけられたのが意外だったのか、レンは距離をとったユウマに少し驚きの表情を浮かべた。
「おどろいた。 貴様、なかなかやるではないか。」
そういうと、再びユウマの視界からレンが消える。
消えっ
うしろからの殺気。ユウマの咄嗟の防御の上からするどいパンチが刺さる。
「ぐっ!!」
身体のバランスが崩れ次の攻撃への反応が遅れた。
レンの追撃の蹴りがユウマの胴体にヒットし、ユウマは観客席の方へ体が吹っ飛ぶ。
固定された観客席の椅子が吹き飛びあたりに散らばり、土煙とほこりが舞い上がった。
「殺すつもりがないとはいえ、まだ無事とはな。 貴様なかなかに頑丈なようだ。」
舞い上がったほこりのなかで、腕と脇腹の痛みを抑えるように深呼吸して息を整える。どうやらまだ戦えることはばれているようだ。
こうも間髪入れずに攻撃されると、あいての戦力分析をする暇もない。
わかったのは、ユウマとレンには物理的な戦闘能力に大きな差があるということだ。
まだ相手の能力もわからない。
思考する時間をかせげ。
「おい。 立てるだろ。 はやく立て。」
いつの間にかレンがユウマの前に立っている。
まずい。
レンはユウマの襟元をつかむと思い切り反対側の壁へとぶん投げる。
「ぐっ!!!」
遠心力で思うように動かない手足を力いっぱい操作して観客席の一つをつかみ勢いを殺す。だが、殺しきれない勢いのまま観客席に体ごと突っ込み、またもや土煙がたつ。
痛む体を奮い立たせ、ユウマは観客席を盾にレンからの攻撃にそなえ全速力で駆け抜ける。
一瞬の猶予。
ユウマの中にある仮説が立つ。
ガンッという音ともに見上げると、目の前の客席の上にレンが立っている。
今度は正面。ぎりぎり反応できる。
レンの蹴りを体をひねって躱し、観客席を跳んで駆け下り、バトルフィールドに再び降り立つ。
蹴りを躱されたレンはフィールドに向かうユウマを一瞥し、ひとっとびでユウマに向かい合うように降り立つ。
「貴様。 どういうつもりだ。 俺は貴様とおいかけっこをしたいわけじゃない。 逃げるのをやめ、いますぐに俺にかかってこい。 さあ!」
さきほどからレンの攻撃から逃げてばかりで反撃をしないユウマに対し、レンは少しのいらだちを覚えたようだ。ユウマの攻撃を受けてみせんとばかりに、腕を広げている。
ここはいらだちを増長させ、冷静さを欠かせるか。
「...僕は逃げていただけじゃない。副隊長様にはわからないようだね。」
「ほお。 逃げるだけで勝てる算段がつくとでも? その理屈が戦闘において通るのは、まさしく賢者ともいえるものだけだな。 俺には貴様がそうだとは見えん。」
「それは君の目が節穴なんじゃないか? 僕にはそう見えるね。」
「ほお。 おもしろい。」
レンは腕を広げるのをやめた。
次の瞬間視界からレンの姿が再び消える。
来た!
これをまっていた。ユウマが散々レンを煽ったのは攻撃を誘うためだ。仮説を検証するために。
僕の仮説が正しければ。
視界からレンが消えたと同時に、ユウマは背後に裏拳を放つ。
ドンピシャ。
ユウマの背後にいたレンの顔面に向かって拳が放たれている。
やはりそうだ。仮説は正しい。
レンが視界から消えるのが能力であろうと技量であろうと関係ない。
レンはおそらく慎重なんだ。どれだけ自身が相手の速さを上回り、先制で攻撃できようとも慎重を期して相手の死角を取るように攻撃するんだ。
だから向かい合った状態では背後にまわる。
視界から消えたとき、それは背後から攻撃がくる前兆となりえるということだ。
ユウマはレンの速さを上回ることはできない。だから相手を視認する前に相手の予想できないタイミングで、カウンターを決める。
この一撃に懸ける。
ユウマの視界の隅に写った光景。
放たれた攻撃はレンのノーガードの頭に一直線でむかっている。
だが、相手は警部団副隊長だ。そう甘くはいかないらしい。
次の瞬間に見えたのは、振りぬかれた拳と、両手で頭をガードしているレンの姿だった。
まだだ。
相手は攻撃を受けた。ガードはされたが衝撃がないわけじゃない。
この隙を逃すわけにはいかない。
ユウマは地面を蹴り、レンのガードが外れた腹部に向かってパンチを放つ。
きまる。
そう思ったのもつかの間、拳は固い感触とともにレンより数cm離れた空間にとまる。
「⁉」
なにもなかったはずの空間にレンを守るように現れたのは、半透明の一辺数10cmの立方体だった。
「これは!?」
「おもしろくなってきたな。」
一瞬腕の奥で笑みを浮かべるレンの姿が見えた。
次の瞬間レンの反撃のパンチが飛んでくる。
ユウマは咄嗟にガードするも、勢いを殺しきれずに後方に吹き飛ぶ。
受け身をとり体勢を立て直し、レンの方を見る。
レンの側には、先ほどよりもいくらか大きくなった立方体がふわふわと回転しながら浮かんでいた。
見て明らか。これがおそらくレンの能力だろう。
最初、隠れていたユウマをフィールドまで吹き飛ばしたあの死角からの衝撃も能力によるものだろうとは予想していたが、はたしてあの立方体、”キューブ”はどのような挙動をとるのだろうか。
カウンターで決めきれなかったこと、相手の能力が姿を現したことで、ユウマの勝利に対する焦りが湧きあがる。
「貴様。 実にいい。 能力を使わずにこの俺に能力を使わせたのは、師匠を除いて貴様が初めてだ。 こちらも全力でお相手しよう。」
そういうとレンは左手をキューブに向けた。
キューブは手を向けられると、ピタと動きをとめる。
次の瞬間、ユウマに向かって一辺1mあるであろうキューブが高速で飛んできた。
「くっ!」
間一髪、地面を蹴りキューブの軌道から体を逃がす。
キューブは勢いのままユウマの横を通り抜けていく。
まずい。
キューブか、レンか。次に注意するべきはどちらか。一瞬で判断を。
レンの方をちらりと見る。動きはない。
!キューブのほう___
「がっ!!」
背中の右側に強い衝撃。
ユウマに躱されたキューブは再び折り返して、背後からユウマに激突する。
キューブの見た目からは判断しかねる重い衝撃。
その力は先ほど受けたレンの力に匹敵するかに思われる。
まるでキューブになったレンと戦っているかのような感覚。それほどまでにこのキューブは速く、そして力強い。
吹き飛ばされた勢いを前転で殺し、体勢を立て直す。
幸いにもこの角度ならレンとキューブ同時に見れる。
レンに以前動きはない。キューブが再びこちらに向かってきている。
キューブに対し攻撃してもレンにダメージが通るとは考えにくい。
ならばまずは、キューブに対しては回避一択、そのなかでレンに近づき攻撃するチャンスをうかがう。
キューブを出してからレンは一度もあの場を動いていない。全力というレンの言葉を信用するなら、おそらく動けないことは能力のデメリットだ。
当然、全力という言葉がブラフでユウマの攻撃を誘っている可能性も考えられるが。
キューブは人体より平面的で直線的だ。
レンの力に等しいとはいえ、レンの攻撃よりはるかに捌きやすい。死角からの攻撃でなければ十分に対処できる。
次々とやまないキューブの突進を躱し続け、徐々にレンに近づいていく。
ここだ。
キューブとユウマの直線上にレンを配置し、迫りくるキューブをすんでで躱し、ユウマはキューブをレンにぶつけようと画策する。
が、あくまでこのキューブはレンが操作しているようだ。
キューブはレンの直前まで迫りピタと動きを止め、またこちらに向かって飛んでくる。
キューブの動きは直線的。真正面からの攻撃は読みやすい。
キューブの上を地面を蹴り体をひねって飛び越え、レンとの距離を一気に縮める。
チャンス!
最初ユウマの渾身のカウンターを防がれたときのように、キューブは攻撃だけでなく防御にも使える。つまり近接と遠隔の両方に対応できる万能な能力だ。
だが、当然キューブが一つしかなければ片方にしか機能しない。レンからキューブを遠ざければ、レンのガードはないも同然だ。
これを狙っていた。
その場から動く気配のないレンにユウマが攻撃を仕掛ける。
だが、その攻撃も通らない。
ユウマの攻撃はレンによって受け流され、ユウマは腹部にきれいなカウンターのパンチをもろに食らう。
「ぐあっ!!」
またもや吹き飛ぶユウマに追撃のキューブが頭上から迫る。
キューブで押しつぶすつもりだ。とっさに腕でキューブを抑えるもののそのまま地面に叩きつけられる。
「グゥゥゥァァ!!!」
地面とキューブに挟まれものすごい力で圧迫される。キューブを押し返そうとしている腕がひしゃげてしまいそうだ。
「全力というのはなにもすべての力を一度にぶつけることではない。 俺の場合、本気で貴様から勝ちをとろうとする、ということだ。 悪く思うな。 ブラフも勝つ手段の一つであることに違いはない。」
レンはこの戦いをあくまで娯楽のバトルの延長線上、少なくともユウマが命を懸け死ぬ気で応戦するようなものだとは当然思っていない。
だが、レンにとって、例え命をとりあう真剣勝負であっても、娯楽の伴うバトルであっても負けていい理由にはならない。
勝つ。相手の実力を上回って。
相手の力を引き出してこその完勝。油断もなければ隙もみせない。
警戒は怠らない。たとえどれほど相手を追い込んでいたとしても。相手には逆転の目があるかもしれない。
このままユウマが戦闘不能になるまで押しつぶす。それまでユウマから片時も目を離さない。
結論から言えば、このときすでにこのレンの考えは杞憂だった。
ユウマの能力は”本を出す”という戦闘においてまったく意味をなさないもの。
四肢は押しつぶされないことに全力を費やし、あとは体力が切れるまで時間を稼ぐことしかできない。
こんな男になんの力があろうか。技があろうか。能力があろうか。勝ち目があろうか。
当然ない。
この状態からユウマがレンに勝つ手段などないのだ。
ユウマが一人で戦うなら。
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