<付 録>(5)最後の日記(解説編)

〔〔 最後の日記 〕〕(特別編集解説編)

 

★『トワ』という人間は、仮の姿であった―――

 素浪人の生まれ変わり『トワ』は、まさに魂だけの輪廻であった。

 魂を受け入れる筈の本当の肉体までは、転生することが許されなかったのだ。


 そんな『トワ』は、夜毎夜毎に『画家の男』の夢枕に立ったのである。

 それは四年前、初めて出逢った日から数えて、1か月半前の夜からであった。


 遊女の生まれ変わり『画家の男』の魂に、呼び掛けていたのである。画家の男は何度も何度も、夢を見ることになったのだ。


『トワ』は、前世の罪(半正当防衛の殺人)のため、本来の輪廻転生はできなかったのである。

 しかし、慈悲深い輪廻の神様は、魂だけの輪廻を、期限付きであるがお許し下さったのだ。愛の輪廻転生制度の特別措置といわれる。


 前世の強い想いが執念となって、素浪人の魂を『トワ』に宿らせたのである。

 仮の身体が下界で過ごせる時間は、一週間の中でせいぜい半日分が限度であった。

『トワ』の体が、普通の人間よりも透き通る程に白かったり、夜中の12時を過ぎると昇天して消えたのも、そのひ弱な肉体のためであったのだ。


 この魂だけの輪廻は条件付きである。なかなか厳しい次の三つの条件があった。

 一つ、女の方からは、男を見つけ出すことは許されない

 二つ、如何なる場合でも、男に真実を告げてはならない

 三つ、現世に留まることができるのは、出逢いからちょうど四年目の日迄

 ただし、真実が知られるような事態に陥った場合、期限内であっても現世を去らなければならない。そして、二つの魂は未来永劫、再び出逢うことは許されない。


 以上のことは、輪廻転生評定所によって裁定が下された。『魂の契約』と呼ばれる特別な許可であった。



◆住まいを明かせなかった訳は――――

『トワ』は、黄泉の国から下界に降りて、『画家の男』に会っていたからである。

 いつも帰宅時間を気にしていた訳は、その日の夜中の12時が門限だったからだ。


 が下界に存在できる限界ぎりぎりだったのである。もしも、夜12時を過ぎると、ひ弱な肉体は消滅し、魂は昇天してしまう。


 魂が転移するときには、『柔い光』が現れた。光も昇天する動きになる。この『柔い光』は、魂が下界に降臨するときにも現れる。その動きは昇天とは逆で、天から降り注ぐ光となる。まさに使なのである。

 初めてトワが男の前に現出した時に、男が背後に感じた光のベールがそれである。

 このようにして、何度か『画家の男』の傍から突然消えてしまったことがある。


 黄泉の国は、下界とは次元が異なり時空の外にあるので、リアルタイムの通信は不可能なのである。

 電話がつながらないとか、メールの返信が遅れるとかは、そのためであった。

 しかし、メールを送る電磁波は、オーロラのように時空の隙間から時々出入りする。そのためタイムロスは大きいが、やり取りはできたのだ。

 


◆ニューヨークでの仕事とは――――

『トワ』がニューヨークに渡って、仕事をしていたというのは口実だった。


 別れを告げに行ったカフェテリアでは、嘘と涙のせいで、『トワ』は言葉が出なかったのだ。

 実際は、ペナルティーとして、『トワ』の魂は黄泉の国に幽閉されていたのである。


 黄泉の国には、『輪廻転生評定所ひょうじょうしょ』がある。いわゆる裁判・執行機関。この評定所についての詳細は後述する。

 その裁定結果は、「半年間以上一年未満の魂の幽閉」というペナルティーであった。人間界でいう留置所のようなものに籠ることになったのだ。


 ニューヨークはマンハッタンで会えたのは、その時だけ特別に保釈さたのだ。

 そして、二日間だけ、それぞれ半日ずつ、黄泉の国から降りることが許された。

 因みに、その二日目のときは、仮の肉体は限界でギリギリだったのである。イエローキャブに乗った後、直ぐに昇天してしまったのだった。


 黄泉の国は、人間の物質世界のような次元の概念は有り得ない。敢えて言うなら、零次元の異次元世界なのでる。

 それから、黄泉の国の階段は、瞬時に何処へでも、繋がることができる。月の裏側でも、火星であっても、その差は殆どない。たとえ銀河彼方の星であっても同じこと。



◆何故そんなペナルティーを――――

 何度もデートを繰り返す中で、『画家の男』の強い想いに、『トワ』は負けてしまったのだ。

 そして、『トワ』は時々堪え切れなくなって、漏らしてしまった言動が多々あった。


『画家の男』が時々感じていた『トワ』の涙の意味が、それだったのである。

 お台場のホテルのベッドで流した涙も。『許されぬ定め』の訳も。

 桜の老木のことや、歌舞伎の舞台のことなども、そうだったのだ。

 これらのことが仄めかしとなって、『画家の男』に真実が知られる恐れがあった。


 更には、一日の時間限界は、夜中の12時が門限なのに、そのギリギリまで、下界に留まることが多かった。

 そして『柔い光』が現れることも度々あった。夜間に『柔い光』を人間に見られるのは、御法度破りになるのだ。


 そして、止めはお台場のホテルの件であった。

 門限の12時を過ぎて、お泊りしたことが処罰の決定打になったのである。

 その時は、『画家の男』の傍から本当に消えてしまったのだ。

 『画家の男』は深い眠りに落ちていたため、幸い気づかれずに済んだ訳である。


 輪廻転生評定所の神様は、警告として一年間の罰を、『トワ』に与えた。

 またそれと並行して、『画家の男』の愛の深さも、実は試されていたのであった。



◆輪廻転生評定所について――――

 黄泉の国には、魂の輪廻転生に関する規定が色々ある。

 普通輪廻転生(六道輪廻)では、前世の業によって、魂の転生先が決まるという。


 黄泉の国から《三つの界》に振り分けられる。

 三つの界とは、天上界、地獄界、そして下界(畜生道、人間道)。

 下界に振り分けられる魂が、輪廻転生を繰り返すという。


 前世の業によって、『輪廻のしくみ』の中で語られた通り、転生する。

 悪業(罪人)は、地獄界行きか、畜生道になる。

 しかし、稀に恩赦や特別措置を受けることもある。


 今回の男と女の魂の『愛の輪廻』では、愛の輪廻転生制度の特別措置を受けることができた。男と女の魂が入れ替わる形で、人間道の転生が特別に許されたのである。

 輪廻転生評定所の主な役目が、このを決定し、執行する所である。



◆輪廻の神様について――――

 輪廻の神様は、輪廻転生評定所では最高裁の判事のような役割である。

 特別措置の魂に対しては、保護観察官の役割も担い、見守りをする義務がある。

 慈悲深く情に厚い神様は、情愛に満ちたはからいをくださる。下界に降りて守護神となることもあり、店長さんはその化身であった。



◆最後に預金通帳のこと――――

 この『ゆうちょ銀行』の通帳は、この四年間、『トワ』が大事に貯めたものだ。因みに、通帳や現金などの『』(物質)は、天界には持って行けないため、いつもコインロッカーに預けていた。


『画家の男』から預かっていた契約料と、ナイトクラブの給料を合わせたお金は、全部『画家の男』の為に蓄えたものである。男の画家の夢を、支援する為のものであった。

 その援助交際の実態は、『画家の男』を援助するためのもの、言うなれば「逆援助交際」だったのだ。


 個展を開く費用には充分足りる金額であった。これで立派な個展を開いたり、良質な画材を買ったりと。『トワ』は男の素敵な絵の為に使って貰うことを望んでいたのである。

 因みに通帳の暗証番号は、『トウ・ワ・サン』で、男が老いてからも忘れないようにと、4桁数字を選んでいる。



★実は(トワの真意は)――――

 これが『トワ』の本当の夢であった。『トワ』の働く目的だったのである。

 決して遠慮や心配はしないで欲しいと『トワ』はくくった。黄泉の国では、お金なんて意味が無いもの、持って行けない『』であるから。


《最後は原文のままで・・・・・・》

 それどころか、貴方からは、この世で一番大切なものを頂きました。

 お金なんかでは、到底手に入れることなどできない、最も気高いものを。


 それは・・・・・・です。

 


    完


 

 

 

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永久日記 スギシン @ss349

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