〈第5章〉 運命はいたずら(1)前

1.突然の別れ(前)


 これまで男が語ったイベント日記の内容を総括すると、それはまさに、魂のリハビリテーションであった。

』を呼び起こすために、色々なイベントが繰り広げられた。しかし、トワが前世を思い起こすことは、まったく無かった。


 さらには、男にとっても、おぼろげな自身の記憶を、確かなものにしたかったのであるが、未だにそれも叶わない。男が抱くもやもやとした想い出は、本当に前世の記憶なのか、ただの妄想だったのか、定かなのもではないのだ。

 そんな男に、波瀾万丈の人生へと押し流す運命の大津波が、新たに押し寄せてきたのである。



夢のようなお台場デートから、早一週間――――

 男の心の中は、渦巻く不安の大嵐に見舞われていたのである。


 一向にトワから返事が来ないのだ。何度メールを送っても、エラーメッセージが出てしまう。いくら電話をしても、お決まりのガイドアナウンスが返ってくだけなのだ。

 まさに音信不通となっていた。


「トワがいない? トワに会えない? トワが、トワが、・・・・・・消えた?」


 男の心は、不安に不安で一杯になった。

 お台場の一日の出来事は、すべてが夢だったのか。それとも、願望が現実のように投影された幻覚だったのか。


 それにしても、愛しのトワはお台場のホテルで本当に消えたのか、そんな馬鹿なこと、あるわけがない。

 もしかして急病とか、事故とかに遭遇して、緊急搬送されているのか。

 まさか最悪の事態、命の危機に陥っているとでも言うのか。

 いやいやトワが時々見せる悪戯なのかも知れない。わざと音信不通を装っておいて、後でサプライズ・デートでもするつもりなのか。


「・・・・・・でも、まてよ、一週間も音信不通は、シャレにならないな?」

 如何なる理由付けをしても、男は不安を拭い切ることが出来なかった。



そして翌週――――

 突然、トワから、待望のメール着信があった。


「トワは生きていた。・・・・・・神様ありがとう!」

 最悪の事態だけは避けられたことを、男は心から神に感謝した。

 男のまなこには涙が滲んだ。何よりも生きていてくれたことに安堵した。


 しかも、彼女から先に来るメールは希少価値なのである。男の記憶では、今までに無かったことだった。しかし男は、待ちに待った連絡なのに、それを喜ぶどころか一抹の不安を感じていた。


  ショウさま こんばんは

  暫らく連絡できなくて

  ゴメンなさいm(__)m

  色々と訳ありで、大変だったの・・・

  それで・・・急な話しで悪いけど

  今日付けで二人のクラブを脱会します

  突然のことですが、私の生活が変わります

  このメールでは詳しく話せないので

  次の火曜日、会った時に・・・ 

  トワ

  ----END----


 男の不安は見事に的中してしまった。

 思いもよらぬ突然の話に、暫らくの間、放心状態に陥った。何がなにやら訳もわからず、いつの間にか涙だけが込み上げてくる。


「突然やめるって・・・・・・。トワに何か・・・・・・。俺、悪いこと、した?・・・・・・」

 男の独り言は、次第にぼやきへと変わっていった。


「いくら考えても、思い当たる節はない。トワ、いったい、何があった?・・・・・・」


(( 生活が変わるって、トワに何か困った事情でも出来たのか。もしかして、持病でも悪化したのか。

 いいや、時々みせるトワの悪い冗談なのかも知れないな・・・・・・。

 トワが何かのサプライズでも、用意しているんじゃないかな・・・・・・。

 兎も角、会って話しを聞いてみるしかないな・・・・・・。 ))


 迷える男は、何度も何度も自分自身に言い聞かせ、次の火曜日に備えることにした。


      ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

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