〈付 録〉(2)輪廻のしくみ(前)
【 輪廻のしくみ 】(特別解説編)
〈〈 時を翔る魂の輪廻 〉〉
この物語の主人公達、愛し合う二つの魂の最初の出逢いは、とてもとても古い。およそ千年前まで、さかのぼることになる。
(( 愛し合う二つの魂の『魂年齢』は、千歳を超えることになる。この千歳は、魂長寿記録のベスト10に入る程である。因みに、現存する最長寿は、二千歳を超えるらしい。
歴史に登場する救世主と呼ばれた神々が該当する。宗教の問題もあると思うので、具体的な名前は割愛させて頂くことにする。ご想像の通りかも知れないが。 ))
平安時代も中頃のこと。時の皇太后の血を引く異母姉弟でありながら、いつしか互いを男と女として、意識し合うようになっていた。
宮中で行われた歌会のある日のこと。弟は、姉に対する恋しい思いを、一首の短歌にしたためたのである。
『忍ぶれど 君に思ひを 寄せなむは 時すでに恋 いとし魂』
これに対して姉も、弟への愛しい思いを、返歌で応えた。
『我ら思ひ いとしい
この日から二つの魂の熱き思いは、
(( 因みに、ここに記した和歌についてであるが、古語を訳して現代語に近い形に書き直してある。 ))
しかし、血のつながった者同士、それは許されざる運命である。姉と弟は人の世の定めを恨みながら、京のはずれの冷たい淀の流れに、その身を投げ入れてしまった。姉と弟は、息絶える間際、来世での再会を固く誓い合ったのだ。
そして時は流れること七百有余年。江戸時代も終わりを告げる頃、愛し合う二つの魂は江戸の外れに輪廻した。この余りにも長過ぎる時間の空白はどうしたことか。それには二つの理由が重なり合った。
一つ目は、前世での絶命が心中だったからだ。つまり自殺と言うことになる。
輪廻転生制度では、如何なる理由があろうとも、絶命が自殺の場合は重罪に問われる。そして、その罰として向こう数百年間は、転生が許されない。重罪の魂は黄泉の国に幽閉されるのである。
二つ目は、罰が解かれる時が到来しても、『輪廻の神様』は、転生させる時代を探すのに、大変ご苦労した。それは、室町の時代から戦乱の世が続き、安定した平和な時代を待つためであった。
そしてようやく、江戸時代という安寧の世を、『運命の時』に選んだのである。
(( 何故、戦乱の多い時代を避けるのか。それは、輪廻の神様の慈悲深さの現れである。もしここで、クライアントを時代構わず輪廻させてしまうと、折角の特別措置が無駄になってしまう確率が高くなる。戦乱の世では、クライアントが生き残るのが困難であり、魂が再会する確率もぐっと下がってくるからである。
・・・・・・などという建前があるが、実は、輪廻の神様にも職務評定が有るからなのだ。
輪廻の神様は、輪廻転生評定所の所員である。どんな世界でも、如何なる仕事でも、やはり実績とか評価とかが伴うものなのだ。
因みに、実績に応じて、神様の世界にも昇格や降格といった人事的問題が生じてくる。輪廻転生が失敗に終わると、輪廻の神の地位を罷免されこともある。ましてや、特別処置に対しては、より厳しい評価が下されるという。 ))
江戸時代の輪廻では、前世の弟は、貧乏百姓の家に、三女として生まれ変わっていた。貧家は年貢も払えぬ程に貧しく、三女は吉原に身を売られてきた。
一方、前世の姉は、旗本として代々続いた由緒ある武家屋敷に、二年早く長男として生まれていた。しかし、その旗本屋敷は幕府への忠義を怠ったとして、長男が元服間もない頃、お家取り潰しの命を受けてしまったのである。その後長男は、素浪人となって貧乏な長屋暮らしをしていた。
素浪人は、夜毎の夢に現れる花魁姿の美しい女を求めて、吉原の遊郭を彷徨い始めた。
そんな日々が、半月ほど続いた春の芽吹きのある日のこと。遊女に転生していた前世の弟と、『運命のめぐり逢い』を果たす。
二つの魂は、出逢った途端にお互いが分かり、転生できた喜びを確かめ合った。互いに女と男が入れ替わっていても、愛し合う宿命の魂は、分かるのである。
黄泉の国では、「真に愛し合う魂は、前世で同時期に絶命すると、来世でも同じ時代に輪廻できる」という、『愛の輪廻転生制度』の特別措置がある。
普通輪廻転生(
例えば畜生道では、『山羊』に生まれ変わる者もいれば、『鳥』や『魚』になる者、『虫けら』にだってなる。つまり、人間道に転生するとは限らないのだ。それどころか、生物の個体数から考えると、人間に生まれ変わることができる確率は、極めて低いと言える。
それから、余談だが、「貴方とは何となく間が合わない」とか、「どうしても馴染めない人がいる」とか。そんな場合は、お互いの前世が、犬猿の仲だったり、ヘビとカエルであったりしたかも知れない。
前世の魂は、潜在意識のように宿るのである。
それは血を分けた親子、兄弟・姉妹であっても同様。生物的な命の繋がりよりも、魂の絆の方が優先するのであろう。
いがみ合う親子とか虐待する親とか、仲たがいする兄弟・姉妹などの話が多いのは、前世の悪い因縁からくるものなのだ。
しかしながら、この『愛の輪廻』の魂では、男と女の入れ替わりという形で、人間道の転生が許される。しかも絶命が同時期ならば、同じ時代に転生できる。
生まれた時から『運命の赤い糸』で結ばれていると言われる男と女は、こんな場合なのである。
俗説に、前世は
参考までに、人間道の転生について少し補足する。
普通の輪廻転生では、先祖代々同じ土地や家柄に輪廻することが多い。いわゆる地縛霊ならぬ『地縛魂』になることが通例になっているようだ。
先祖の人物の生まれ変わりで、よく似た子孫が誕生するとか。代々家業を受け継いで行くとか。その昔から事例は多々ある。
また、稀にだが『因縁魂』になることもある。前世において魂の結びつきがとても強く、因縁の仲だったりする場合だ。ただし、因縁であるから、良い因縁ばかりではない。
中でも特に『愛の輪廻』の魂というのは、兄妹姉弟の魂が根源なので、究極の因縁魂ということになる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
つづく
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