永久日記
スギシン
〈Prologue〉 運命は突然に
運命は突然に
『運命』
それは、何の前触れもなく、突然にやって来た。
それは、奇蹟という名の運命だった。
これまでの平凡な日々とは程遠く、想像を絶する奇妙な世界への
僕は、名も無き平凡な大学生の一人である。
幼い頃から夢見たアニメーターを目指し、難関と言われた芸術大学に、辛うじて入学することができたのだが。受験ストレスの反動からか、本学よりもサークル活動に明け暮れる日々を送っていた。
現代の学生に有りがちな自由楽観主義とでも申しましょうか、すっかり時代の風潮に流されている始末である。
そんな僕が、『運命』という言葉の重さと、その意味の奥深さを、海馬の奥から心の底まで、思い知らされることになったのだ。
『運命』
それは、足音も立てずに突然やって来る
老いも若きも、男も女も、分け隔てなく
もちろん、時間や場所などかまわない
『運命』
それは、未来を切り拓く人生の分岐点
ときには、神様がくださる奇蹟を生むことも
人の一生も、運命の積み重ねで出来ている
『運命の時』
『運命の地』
『運命の人』
『運命の出逢い』
『運命の別れ』
『運命の再会』
そして、『運命の赤い糸』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
度重なる感染症パンデミックを乗り越えた人類は、昨年の暮れ、初の有人火星探査に成功した。そんな科学の時代に、『魂の入れ替わり』や『生まれ変わり』などという荒唐無稽な話を、本気で信じる人は稀だろう。僕自身も、元々そんな非科学的なものは信じない
『運命』についてだって、『運』の一つだと思う。幸運や天運、悪運や不運なども『運』である。
「人の身の上に巡る幸・不幸を支配する、人間の意志を超越したはたらき」と辞書にも記されている。ましてや、運勢などと言う不確定要素に使われている言葉が『運』である。どうも僕には信じがたいというか、100%は信用できないものが『運命』なのだ。
ところで、この物語は、一人の女子学生が届けに来た。
汗まみれの武道着を着替えようと道場を出る時のこと。戸口のところに見知らぬ女子が立っていた。小柄でくりくりとした目の可憐な女子だった。
見知らぬ女子は、僕に駆け寄りにっこり微笑むと、唐突に一冊の日記帳を手渡してきた。突然女子から預かったと言っても、交換日記や恋文の
表紙には、手書きの文字で『永久の日記』と書かれ、色褪せてくすんだ緑色の半透明カバーが掛けられていた。手に取ると英和辞典のように厚く、ずっしりとした重さを感じた。所々に紙を継ぎ足した痕もあり、何度も何度も書き加えられたことが覗われる。
これは、ただの日記帳ではなさそうだ。曰くありげな匂いをぷんぷんさせていた。
この古びた日記帳を届けに来たのは、同じ大学の絵画学科の女子学生で、担当教授から日記帳を預かり、ある男子学生に届けるようにと依頼されたという。
教授の話しによると――――
日記帳は、教授の高校時代の恩師で、二十年前に亡くなった美術教師から、特別に預かり受けたものだった。そして、「自分が死んで二十年経ったら、この日記帳を一人の男子学生に渡して欲しい・・・・・・」と、恩師からの遺言だったという。
ある男子学生とは――――
同大学の剣道クラブに所属する二年生位で、名前は不明とのこと。分かっていることは、冬生まれの二十歳くらいの男子で、剣道の有段者。そして、おそらく痩せ形で、きっとイケメンだろうと。
因みに、「イケメン」なんて今では死語になってしまったが、平成の時代では男前の意味合いで使われていたそうだ。イケてるメンズの略称だという。
その時代では、やたら略称で呼ぶことが流行ったらしい。その中には、JKとかCAとか、KYなどと、アルファベットでイニシャルのように呼ぶことも多々あった。JKは女子高校生、CAはキャビンアテンダントの意は分かるが、KYに至っては「場の空気が読めない?」の略だという。ここまで来ると、言葉の乱用も甚だしい。
美しい日本語の復興が謳われている現代では、あまり相応しくない言葉遣いの数々だ。
さて、この大学の低調なサークル活動の中にあって、最も古い伝統を誇り、全国大会出場など活動も盛んなのが、我が剣道クラブである。毎年優に三十名は下らない部員数も誇る。
そんな中で、条件を満たす人物というのが、奇遇にも一人しか居なかった。
・・・・・・それが自分だったのだ。
僕は、ほんと身に覚えのない話に訳も分からず、軽い気持ちで日記帳を預かってしまったのだ。
しかし、日記を読み解くと、想像を絶する驚愕の事実を、思い知らされることになったのである。それに、こんな日記帳が自分に届いた
このような
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