第41話

 木内に付き合い、また別の店で酒を飲んだ時にも奴は同じ様に僕を咎めた。酔いが回り、口調が少し粗雑となっていた。



「いいかい。女を買うのと女に溺れるのは違うぜ。カモにされてるんだよ、お前さんは」



 こんな調子で、今にも殴りかかってきそうな程身を乗り出して怒りを露わにしているのである。僕にしてみればそうまで言われる道理はないし、なにより女を僕に買い与えた人間の台詞ではないと一瞬口を挟みたくもなったが、感情のまま好き勝手を宣う人間には何を言っても馬耳東風であるかにこにこと笑い、間に合わせて「そうかな。そうかもね」と心ない返答を繰り返すのだった。それでも、木内は喚き続けたのだったが。




「帰ろう」




 散々に喉を潰して疲れたのかしゃがれた声を出したので、「そうですね」と財布を出すと、やはり木内が手を前に出し「誘った俺が持つ」と言って会計を済ませた。


 情けない話だが、僕はこの木内の好意(といっていいものかどうかはさて置いて)を期待しつつ、当然であると思っていた。

 少しでも人の心があれば「いつも出してもらっているから」とたまには金を吐き出して恩に報いるか、あるいは借りを返すと表現した方がいいかもしれないが、ともかく平等に身銭を切ろうとするだろうし、そうするべきである。だが僕は、木内が僕を子分のように思っている事や見栄に固執するのをいい事に、出す素振りだけは見せるもののてんでその気はなかったのである。そうして浮いた金で幾らか得に置屋を利用し、少ない賃金でなんとか食い繋ぐことができていたのだった。木内の事は嫌いだったが奴と酒を飲むのは嫌いではなかった。酒代を払わず酔えるというのは、幸せな事である。



 しかしその終わりは唐突に訪れた。木内が消えたのだ。

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