第22話
初対面で薄々感じてはいたが、木内は自身の矮小さを承服できない人間だった。
そうはっきりと認識したのは働き始めて迎えた最初の週末である。
奴とは仕事を協力し、昼も互いに、こちらとしては嫌々ながらではあるが膝を突き合わせて食事をする様になっていた。
そんな調子で一週間働くと、奴はにやけ面して僕の肩を掴んだのである。
「飲まなくっちゃあね。駄目だよそれは」
強引な誘い文句には辟易としたのだが、それよりも懐具合の寒さが気になり頭を縦に振りかねた。派遣の仕事は安く、日の腹具合を満たすと僅かに残るくらい。幾らか溜め込んではみていたものの、とても外で騒ぐ気など起きない額である。気まずさと情に絆されそうになるが、あまりに軽い財布に我へと帰り、紐を固くさせる決意を促すのだった。けれども、僕が「金がない」と言って断ると、木内は小馬鹿にしたように笑って、食い下がるのである。
「仕様のない。持つ持つ。そんなものは大丈夫だ」
木内とて金を持っているようには見えなかったが、奴の性格を考えると口に出すわけにはいかず、かといって今更別の理由を立てたとしても言い訳がましく、やはり気に入らないだろうと思われた。また、仮にそうでなくとも何かにつけてこちらの方便を塗りつぶすのは想像に難くない。こうなるともうどうしようもなく、大変に乗り気ではなかったが、僕は奴の酒に付き合う事となったのだった。
この時、これまで散々孤独に涙してきたにも関わらず木内を拒絶する自分は随分身勝手であり、器の小ささが明確になったなと思った。けれど、孤独を紛らわすために必要なのは有象無象ではなく、真に心を知る友人ではないか。まるで気の知れない人間と交友を持つ事は、僕にとっては治療ではなく災難でしかない。木内は、僕の友人にはなれないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます