第17話

 隔離されているような状態が続き、暇を持て余す。部屋の中は針の落ちる音だって聞こえそうなくらい静かなのに、壁を隔てた向こう側は人々の話し声でけたたましく、聞き耳を立てたわけでもないのに内容が入ってくる。それがどのようなものかといえば、取るに足らないな噂話や他人の愚痴。仕事への不満など、ありきたりな、戯言に等しいものばかりで、どこに行っても口から出るのは同じなのだなと思った。人を悪し様に言ったりするのは人間に備わった機能みたいなものであるから、悪口や誹謗中傷の類が根絶される事はない。社会では善くないとされていたとしても、そういうものなのだから善いも悪いもないのである。

 けれど、僕はそうしたものを人に言った事がなかった。

 僅かばかりの陰口くらいなら不意にどこかで叩いたかもしれない。だが、意識下では確かに誰彼の欠点や汚点などを並び立てた事はなく、怒りの矛先を第三者に向けたりはしなかった。これは僕が善人だからというわけではない。単に、そうした会話を交わす人間が存在しなかっただけで、他人との縁が希薄であるから、人間としてごく当たり前な行動さえ抑制されていたに過ぎない。欠陥品としては箔が付くが、世間的には無価値な経歴だった。


 部屋の外から聞こえる人々の声を受け、僕はきっと、今までと同じように、こうした人達と交わる事はできないだろうという確信めいた予想を立てた。暗く、舌が回らない自分は、こういう環境の中で仲間をつくる事ができないから……いや、どのような場所であっても、僕は誰とも心を通わす事などできはしない。欠落のある人間はどこへ行っても変わらないのだ。どこへ行こうが奇異の、忌避の、嫌悪の目で見られ、蔑ろにされるか、排斥されるかしかない。しかしそれでも産まれたからには、生きざるを得ない。罪深いものだ。

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