第10話

 それからは寝たり起きたりしていた。

 ただ、寝ていようが起きていようが、僕は布団に陣取って時間を無為にしてきた。

 動こうにも酒の毒が回り、快調となるまで寝そべっていなくては仕様がなかった。時間の感覚はなく朧げで、ただ、寒い寒いと肩を抱くばかり。寄り添う場所のない身体を放り投げて、しばらく丸まる。そしてまた、寝たり起きたりして、ようやく身体に熱が入った頃に薄目を開けると鈍色の空の光がカーテンの隙間から覗いていた。夜が明けたのだ。


 途切れ途切れの意識を紡ぎ、僕は昨日の記憶を拾っていく。派遣会社の人間に面接された事、まずいコーヒーを胃から吐き出した事、居た堪れなくなり、酒を飲み荒らした事。自身の行動が線で繋がっていくと、実に愚かで、馬鹿な真似をしたものだと嘆いた。


 一欠片でも理性があればあんな真似はしなかった。自暴自棄になって感情を抑えられなかった。どうしてもっと真っ当に生きれないのか。哀れだ。


 自己を否定する言葉が積もり胸を圧迫していく。布団に籠る理由が頭痛と吐き気から卑下に変わると矮小な精神がどんどん摩耗していき、人知れず呻き、喉を枯らした。誰かに助けを求めるような、果てる前の断末魔のような呻きは自分の耳にしか入らない。いや、もしかしたら、部屋の壁を越え、顔を見た事もない隣人に聞こえていたかもしれないが、それを確かめる術はなく、故に、孤独であるという事実に変わりはなかった。一つしかない身体を実感すると悲しみから恐怖が生まれ、生きる事への苦しみが明確となる。どうして僕は産まれたのか、どうして僕は不幸なのか、どうして僕だけ上手くいかないのか。取り留めのない思考が渦を巻き、ずしりと、不満の塊を形成していった。

 けれど、どうしても死にたいとは思えなかった。死ねば全てが終わると理解はできたが、僕はどうしても、死にたくはなかった。

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