第14話
この惨めというものが厄介で、自分では満足のいく、所謂人並みの生き方をしたいと願っているのに、時に自身が不幸でなくてはならず、何も与えられていない存在でなくてはならないといった屈折に陥るのだった。本来持つべき物を手にしていない僕はこの世の被害者で、誰からでも哀れまれ、可哀想と同情されなければ我慢ならなくなるのである。それは僕の持つ弱者の仮面の一つで、醜悪な承認欲求を体現したものだった。弱く儚い自分に、気づいてほしい、見てほしいという欲望が露わとなって生じた低俗な自意識で、助けのない現実に対する脆弱な自己防衛でもあるのだが、結局のところ自己完結の域を出ないわけだから救いの手が差し伸べられる事などあるはずもなく、自分自身の中で、自分自身に対して、「可哀想、可哀想」と反芻するしかないのだった。
さて、助けがないと散々述べているが、思い返せば僕自身、何度か救われた事はあったように思う。現に、上長が気にかけてくれたからこそ職を得る事ができたわけであるし、それ以外でも、どこかで誰かに施してもらった事は多々あっただろう。しかし、いずれにしても僕自身がふいにしてしまっている事実があり、ともすればそれは、救いがないのと同義なのであった。要は、都合よく一から十まで尽くしてこそ、僕にとっての救済となり得たのである。親でもなければ友人でもない人間にどうしてそこまで求められるのか。厚顔無恥も甚だしい要求ではあるが、僕はそうでなければ生きてはいけなかった。自身の足でしっかりと大地を踏み自立するなど、とてもじゃないが、できはしなかった。せめて「助けてくれ」と口に出せばよかったのに、それすらできず、僕はずっと、自分は弱者だと独り言を落としてばかりいたのだった。そして、その日もそうだった。足が進まぬ中、長い時間の中、僕は自身に向けて同情を引こうとし、不幸の数を数えていた。その行為は、自慰と同じだった。
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