第6話

 貯えはあったが心許なく、また、無職というのも不安だった。仕事を探す他なかった。


 景気は依然芳しくない。どこも顔色悪く、採用の声はかからなかった。生きた心地がしないまま一月ひとつき二月ふたつきと経ち、金を減らしていく。仕舞い込んでいる僅かな額が失せていくと気が気でなくなり、極力物を財布を開けないように苦心する。食事は日に一食に抑え、時には水だけで過ごす日もあった。毎日が苦しかった。毎日が辛かった。飢えが悲観に直結するのを、僕はこの時はじめて知った。胃の中が空のまま寝転ぶと自然と涙が落ち、どうしてあんな事をしてしまったんだろうと悔やむ。布団に潜って弱音を吐くも、残響ばかりで何も変わらない。筆舌に尽くし難い惨めさが弱者の自覚を促し鬱々としていく日々。衰弱し、悲嘆に暮れる時間は長く、孤独だった。

 いっそ自死も考えたが、死ぬとなると並々ならない命への執着が思考を捕らえて離さず、すぐに無理だと嘆き、また咽び泣いた。それまで死んだ方がマシだと何度も考えてきたはずなのに、いざその気になると竦み怯え、どうにもならない。死を直視すると人はこんなにも軟弱になるものかと、暗闇の中で思った。


 三月みつき経ち、とうとう金が尽きる。後悔は絶頂を迎え、かすれた喉は声を発せなくなっていた。とうとう死ぬしかないのだろうか。餓死するしかないのかと考えると脳が擦り切れ、絶叫が出た。喉が切れて血が出ても痛みを感じなかったのは、恐らく発狂する寸前であったからだろう。感じられるのは恐怖だけだった。それだけが、僕の身体を支配していた。


 そんな折に、一つの電話があった。辞めた工場の上長だった。

 必死に現状を訴え助けを乞うと、彼は「分かった」と言って、しばらく受話器を離れた。無言の時間。僕の心音は安定せず、息苦しく、危うさに涙が滲んだ。

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