第47話
置屋の女の言葉も中年女の言葉も女給の言葉も影のようについて回り、道ゆく人間が皆、同じように僕を非難しているように思えた。そう考える方が、世に対する、女に対する恨みと憎しみを正当化でき、不当に晒されていると被害者の仮面を被って自己の弁護に励めたのだ。何も持たぬ僕は、不毛かつ救い難い、愚かな思慮に至らざるを得なかった。
公演の幕は既に落ちていた。行われていたのは演目ではなく、狂気だった。
また、僕の変調に拍車をかけるでき事が起こる。工場から解雇の通達がなされたのだ。
理由を聞いても明確な答えは得られなかった。ただ一言、「そういう事だから」と、ゴミでも捨てるように簡単に片付けられた。
収入を失った僕は借金を返すあてがなくなった。金を借りようにも、仕事に就いていなければ貸せないと断られた。それどころか、今までの分を即刻返済せよと命じられたのだった。
金のない人間がどうやって払うというのか。僕が無理だと言うと、親に連絡をしろとか、誰ぞ親類を呼べと凄まれ、半ば脅迫のような脅しを受ける。頭を下げてなんとか期限を置いて話を進める事となるも、どうにもならない。親に言うわけにもいかないし、頼る親類もいないのだから。
解雇を言い渡されたその日、僕は部屋に床に潜って声を上げ続けた。喉が枯れ、血が滴ろうとも止める事なく一人の部屋に悲鳴を響かせる。反響する自身の嗚咽が絶望を積み重ね、心臓がジリジリと萎んでいき、呼吸の度に痛みと後悔が走り、僕は悶えた。
何時間そうしていたであろう。昼か夜かも分からず、声も出ず、身体も軋み、頭痛がしたが、どうにもならず、動けなかった。酒も女もいらなかった。安らかな時間だけが、人並みの幸せが欲しかった。どうして自分はこうなってしまったのかとひたすら悔い続け、変わらない現実を前に窮する。僕はどうにもならなかった。僕はどうにもならなかった。僕はどうにもならなかった。
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