「鍵ってなんですか?」

 シャイラが聞いた。

 鍵ってどういうことなんだろう。

「この場合における『鍵』はあくまで抽象的なイメージのそれです。この世界、そして他の隣接世界。そこを繋いでいるゲートを開けたい、という意思の表明なのです」

「それってどんな形をしているんだ。 てか、どこにあるんだ」

 と柿川。

「この世界『パドマル』の象徴は蓮です。あなた方はこれから3枚の花びら……これも抽象的なものですが、それを探してもらうこととなります。 それはあなた方がここで旅をしていくことで出会うでしょう」

 象徴。そして鍵。

 なんのことだか分からない。

「ってことは、なにもせずにここで暮らしていたら、それには出会えないと?」

 僕は聞いた。

「そうですね、そういう選択もまた可能です」

「いやいや、一日でも早く戻りたいんだ」

 柿川は困惑した表情で言う。

 確かに、彼の状況だとそうだろう。


「ここでの時間の流れと、あなた方の世界のそれとは違いがあります。元の世界の時間の流れは、ここからの観測では非常に緩やかになっているので、大丈夫ですよ」

 スリヤがにっこり笑って答えた。

 そうか、どれだけ時間がかかっても、多少の差異で済むってことか。

 それなら……。

「僕は特に元の世界に戻りたいって気持ちはない。この世界で歳をとって、その時に戻りたくなったら鍵を探すっていう手もあるかい?」

 僕がそういうと、シャイラと柿川が驚いたような顔でこちらを見た。

「マモルさん、戻らないんですか!?」

 と、シャイラ。

「んー……。なんだかここで暮らすのもいいかなって」

「その選択も可能ではありますよ」

 スリヤが言う。

「ただ……」

「ただ?」

 言いよどんだスリヤの言葉の先を求めた。

「あなた方は元の世界の時間軸からこぼれ落ちた存在、そこは分かりますよね?もし、ここで歳を重ねた後に帰ったとしたら、若い肉体に老いた精神が宿ることになります」

 それなら……戻らなくても……。

 しかし、少なくともふたりは戻りたいという。

 まずはふたりの手伝い、という形で「鍵」を探し、揃ったところで決断しようか。


 僕がその意思を伝えると、スリヤが静かにうなずいた。

「それでは、これから3枚の花びらを。過去の花びら、未来の花びら、そして最後に現在の花びらを探してきてください」

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