共通点

「蓮かぁ……」

 柿川がエールを片手につぶやいた。宿、僕たちが暮らしているここは「黒猫亭」というこの酒場で夕食を摂っている。

「なんなんでしょうねぇ……」

 そういうシャイラはフルーツジュースをごくりと飲む。

「あ、蓮っていうのは……」

 と、僕がマルシーンに説明しようとすると、彼はなんの不思議もなさそうな顔で答えた。

「ああ、蓮はこの世界にもあるよ。てか、シャイラ、教会で見なかったかい?」

「え、えーっと……」

「僕たちの世界で信仰されている神『パドマ』が化身した姿が蓮だって話なんだ」

「見たような、見なかったような……分かんないです」

 そうなのだ。この世界と僕たちの世界には、ところどころ共通点がある。食べ物などの違いは基本的にあるが、ちょっとしたものがこの世界にもあったりする。僕が確認できた範囲では、馬。あとは、果物がいくつか。

 まあ、それが並行世界ということなのだろう。

「ところでマルシーン、君ってアシャーリ大陸ってとこの出身だったりするかい?」

 柿川が発した聞き慣れない単語に僕は少し戸惑った。

「え? そうだよ」

「まじか……」

 柿川が頭を抱える。

「どういうことなんですか?」

 聞いてみると意外な答えが返ってきた。

 今後、ゲーム「パドマル」に追加する予定だったエリアがそこだという。マルシーンの背格好は、そこの住人特有のもの。アシャーリ大陸は魔術師たちが住むエリアだそうだ。

「俺たちは、あのゲームを『作らされていた』のかもしれないな」

 開発元との話し合いには特に違和感はなく、柿川自身も「パドマル」の世界観に少々の意見を伝えたことがあるらしい。

 それが、今。ここで実際に「世界」として存在している。


 柿川は、それが少し恐ろしい、とつぶやいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る