「仮」と「実」

 そういえば。

 僕はひとつ気になっていたことを柿川に聞いてみることにした。

「柿川さん、『パドマル』の『致命的なバグ』ってなんですか?」

「ああ、それなんだけどね」

 エールを一口。

「なぜかNPCたちが勝手に移動したり、設定していないはずのクエストが発生していたりするんだよ」

「勝手に?」

「ああ、ポーション屋が別のところに移動したかと思ったら、商品の安売りをはじめたりね」

「それってマモルたちが遊んでいた『ゲーム』ってやつのはなし?」

 マルシーンが問う。

「ああ、そうだ。何度修正しても直らなくてね。この世界に紛れ込んで、なんとなく理由が分かったような気がするよ」

 僕たちがプレイしていた。仮想パドマル。(仮パドマルと呼ぶことにした)そこは架空空間ではあったものの、ベースとなる並行世界が存在していた。

 なぜそれが可能だったのかはわからない。狭間にあった架空空間が、何らかの理由で両者の干渉を受けたのかもしれない。この世界、実パドマルの門番たちはそれを予想していたのだろうか。

 

 いずれにしろ、実パドマルはこのままでは「エントロピーの冷却」とやらで消えてしまう。それがいつかは分からないが。現実世界の柿川たちは仮パドマルの再起動に苦戦しているだろう。

 僕たちの元の世界。仮パドマル。そしてここ、実パドマル。この3つの世界の存在を知っているのは僕たちしかいない。

 それならば。

 僕たちが「花びら」を見つけてゲートを開ける。もしかしたら、そこになにかの鍵があるのかもしれない。

「ま、難しい話は置いといて。明日の依頼に向けて早めに寝ようか」

 マルシーンが言った。


 そう、明日は隣町の森に現れたモンスター退治の依頼が入った……というか、もぎとったのだ。

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