コロコロ

「うわぁああああ!!!」

 柿川が叫ぶ。足を取られてすっ転んだのだ。

「そこ! 滑るから取り敢えず座ってて!!」

 そう叫ぶのはマルシーン。例の依頼は森に現れたスライム退治だった。なぜか大量に現れたそれを退治するのが今回の目的。僕は奴らを氷の魔法で凍らせてみた……のだが、次の瞬間砕け散り、そして溶けてこの現状。

「やだぁああああ!! べったべたぁあああ!!」

 シャイラは手ぬぐいを取り出し服を拭っているが、焼け石に水のようだ。 

「マモル、意識を集中して! 蒸発するイメージを作ってみて!」

 マルシーンのその言葉に従って、目の前の惨状に意識を向けた。

 蒸発。

 空へ向かう、水、霧。

 ぐっと「べったべた」たちを見つめた。


 ジュッ


 一瞬そんな音がし、周りが霧に囲まれたが、それはすぐに消えた。残ったものはなにもない。ありふれた森の風景。

「よし、成功!」

 マルシーンがそう言ってハイタッチを求めてきた。

 それに応え、僕はちょっと笑った。

「柿川さん、大丈夫ですか?」

 シャイラが彼に駆け寄る。柿川は少し手に傷ができていた。手荷物にあった薬草で応急処置をする。

「ちょっと『治癒』を試してみます」

 シャイラは柿川の傷にそっと手をあて何かをつぶやき始めた

「オンコロコロ……」

 いや、待て待て。それに続く言葉は聞き取れなかったが、それはどう聞いてもなにやら仏教の真言に聞こえる。

 マルシーンもきょとんとした顔をしていた。

「はい。治りましたぁ」

 なるほど。本当に傷が消えている。

「シャイラ、今ってもしかして……」

「私が転んだりしたら、父がおまじないしてくれたときのなんです」

 寺の住職である父に教えられたというが、まさか本当にこの世界で使えるとは……。

 それにしてもだ。

 シスター服でその言葉とはなんともシュールなものを感じる。

「よし、じゃあ行くか」

 マルシーンが微妙な空気を断ち切るように言った。

 そう。柿川がここについてきているのには理由がある。もちろん「花びら」に出会ったときに備えてというのもあるが、ゲーム世界でのこの森には実は隠しダンジョンがあるらしい。

 僕たちプレイヤーは全く知らなかったそこ。

 柿川の案内で、そこへと向かうことにした。

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