便利なおじさんと仲間たち

「えーっと、この辺だったかな」

 柿川の案内で、先程の戦闘現場から少し森を奥に進む。

 獣道のようなそこから、木々の間に入っていくことになった。

「道、ないですけど大丈夫なんですか」

 シャイラはどこか不安げだ。服の裾が足元を邪魔して歩きにくそうでもある。

 こんなところを入っていくのは、ゲームの世界ではなかった。

 というか、システム的に入れなかった。

 その先に隠しダンジョンがあるとは……。


 柿川曰く、マルシーンの故郷エリアが開放されたら入ることができるようになっていたはずらしい。

 彼はリュックから書類の束を取り出した。

 そうそう、柿川は流石にスーツ姿ではない。

 あの日街へ戻ったあと、古着屋に行って柿川はスーツと持っていた革のバッグを売った。

 この世界では珍しげなそれは結構な高値で売れ、柿川は「この世界らしい服」を購入した。

 

 彼が手にしている紙束は、ゲーム「パドマル」、僕たちが仮パドマルと呼んでいるそれの設定資料らしい。

「ああ、合ってる。ここをこのまままっすぐだ」

「なんか分かんないけど便利だね」

 マルシーンがクスッっと笑った。

 しばらく進むと、崖に突き当たった。

「この表面の蔦を取り除こう」

 柿川の指示に従って蔦や植物を取り除いていると、なにか文様や文字のようなものが少しずつ見えてきた。

 作業はすぐに済んだ。

「はあぁ、なるほどねぇ」

 マルシーンが感心したようにつぶやいた。

「これ、僕たちアシャーリ人の古代語だよ」

「そうだな。ゲームでもそういう設定になっていた。読めるかい?」

「もちろん」

「そこにある丸い文様に手を当てて音読してみてくれ」

「ん」

 そういってマルシーンは文字を読み始めた。


「ガルティ、ガルティ、パルラガルティ、パンラルラサンガルティ、ボンディ、スバーヤーハー」


 彼は文様から手を離した。

 その瞬間、壁が崩れるように崖の表面が剥がれ、どこかへ繋がる穴が現れた。

「なぁ、今のってどういう意味?」

 ちょっと気になったので聞いてみた。

「ああ、かつて魔術を極めようとする者たちが、修行の前に唱えた言葉さ。今はもう使われていないけれどね」

 柿川は紙束をじっと眺めて言った。

「入ってすぐ、コウモリが襲ってくる。毒を持っているから気をつけよう」

「ほんと、便利だね」

 あはは、とマルシーンが笑った。

 

 

  

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