ここは一体なんなのか分かんないです

 穴をようやく埋め終え、マルシーンからの差し入れを食べていると、彼が戻ってきた。

「まあ、見た目は元通りって感じだね。地面がゆるんじゃってるのは仕方ないけど」

 そういって彼は僕の隣りに座った。

「さっきの魔法を見たけれど、君の下地は悪くない。むしろ優良だ。なのに制御もできず、暴走してしまう。魔導の道を選んだのなら、制御の方法は知っていて当たり前。君の師はなにをしていたんだい?」

 僕は答えに困った。僕はこの世界に迷い込んだだけで、誰かに師事したのではない。ただひたすらゲームに打ち込んでいた結果がこれ。しかし、それをどう説明したらいいのやら……。


 考え込んでいると、僕が回答を拒否したと思ったのか、マルシーンは少し不機嫌そうな声で言った。

「まあ。まあね、答えたくないってんならそれでもいいけどね」

「ああああ、そうじゃなくて。どう答えたらいいのか悩んでたんです」

「敬語は使わなくていいよ。君と僕はそれほど年の差はないみたいだし」

「あ、はい……じゃなくて、分かった」

 ひとまず、思い切って一連の流れを説明することにした。ここは僕がプレイしていたゲームの世界のようであること。そのゲームは3年ほど前からスタートしたということ。僕はそのゲームを2年ほど前からプレイし始め、遅れを取り戻すために廃人プレイをしていたということ。

 そして、気がつけば最強ランカーになっていたこと。


 「ゲーム」の概念を説明するのは難儀かと思ったが、マルシーンはすんなりと理解してくれた。

「つまるところ」

 彼は足元の小石を蹴って言った。

「この世界は3年前に誕生していて、僕が生きてきたこの22年は架空ってことなのかな」

「それは……分からないな」

「……だとすると。随分不愉快な話だね」

 それはたしかにその通りだ。自分が生きてきた時間が嘘だっただなんて、僕でも思いたくない。この世界は、ゲームにあったそのままだけれど本当に3年しか経っていないのだろうか。周りに見える木々。月の塔の風格あるたたずまい。それが架空であるとは僕にも思えない。

「ま、いいや。 昼ごはんも終わったみたいだし。訓練といこうか」

 マルシーンが広場に向かう。慌てて僕もそれを追った。

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