いろいろやらかしてたみたいなのです

 シュオンの街へは小一時間ほど。良かった。野営が必要だったら大変なことだった。僕はその手法のイロハを知らない。この世界には以前から「僕」はいたようだが「僕」の記憶は先程から始まったばかりなのだ。


 街へ着き、月の塔へ向かう。ここはゲームの中では序盤に登場したところだ。魔術師としてゲームに登録した際、初期装備をもらったのがここ。設定では魔術の研究をしているとのことらしいが……。一応はここの所属、というのがゲームでの設定だった。受付にいき、そこにいた女性にレイルからもらった紙片とそれに添えられた手紙を渡した。

「はい! マモルさま、お話は私どもの耳にも入っております」

「ん? どういうこと?」

「大変強力な魔法を使うとのこと、お聞きしております」

「まあ、レベルカンストしてるしねぇ」

「はい? とりあえず確認させていただきますね」

 受付嬢はにっこり笑って続けた。

「『コウモリが住み着いている家で駆除を依頼され、家を破壊した』」

 なんのことか分からない……。

「『村を襲ったオークを退治する際、村が半壊した』」

 あれ、これ、なんかそういうクエストの手伝いをしたような……。

「他にも多く伺っておりますが、間違いありませんね?」

「いや、あー……」

 なんと言ったらいいのか言葉がでてこない。なにせその記憶はないのだから。どちらにせよ、僕はここで再修行するしか道はない。ならば答えはひとつ。

「あー、はい。間違いないです」

「では、再修行とのことで、こちらで依頼した魔術師の方を紹介いたしますね」

 ほう、それは大層年をとったご老人なのだろうなぁ。話合うかな……。

「この度の依頼は、私ども月の塔所属魔術師の不手際ということで、再修行の依頼料は特例でこちらで負担いたします」

 にっこり微笑む受付嬢。依頼料との言葉で現状を思い出した。そう、金があまりない。

「担当の魔術師の方には、これから連絡しますので、明日10時にここに来てくださいね」

「えっと……どこかに泊まってここに戻ると?」

「左様でございます。なにか問題でも?」

 ゲームではこの街で「滞在」というものをしたことがない。クタクタの身体で宿の手配をする自信がなかった。

 僕が事情を少々ごまかして説明すると、ここの魔術師が使う泊まり込み用の部屋に案内された。ベッドに腰掛け、人心地つくと、これからの不安が若干押し寄せてきた。

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