町に戻るのです。

 僕がレイルと別れた遺跡はシュオンからはさほど遠くない。

 おそらくは。


 あの遺跡の構造は覚えがあるのだ。僕がこの世界を「プレイ」していた頃。まだレベルが低かったときに攻略したことがある。当時は苦戦したものだ。

 そういえば、あのときも遺跡の奥にいる魔物を倒す、というクエストだったっけ。魔物の歯を証拠として持ってくる、それがクエスト目標だった。


 なるほど。僕が放った魔法は威力が過ぎて、遺跡の奥の広場を崩してしまった。慌ててその場から避難し、安全圏でレイルから告げられたのがくだんの言葉。

 なるほど、なるほど。それは確かに理解ができる。


 レイルから渡された「これまでの取り分」を確認してみると、数日分の食事と寝床は確保できそうな金額のコインが入っていた。とりあえず「明日の食事」はなんとかなりそうだ。


 それにしても。

 レイルと過ごした記憶は僕にはない。

 なんなら彼のことすらよく分からない。目が冷めた時、目の前にいる男を見て「レイルだ」と認識したのだ。

 奇妙なり、奇妙なり。


 他にはおそらくはクレリックであろう人物と、斧を手にした人物がいた。しかし、彼らの名はついぞ思い出せなかった。なぜなら、彼らと行動をともにしたのはわずか1時間。

 「以前から一緒にいた」というような雰囲気の中、改めて名を確認するのが憚れたのだ。


 どうやら僕は、いろいろとやらかしていたらしく。そして引導を渡された、ということであるらしい。僕にはさっぱりなんのことやらわからない。

 ひとまずはシュオンの街にもどり、月の塔へ行く。それが僕にできる、今後の予定ということになる。

 街への道は目をつぶっていたって分かるくらいだ。あの世界で何度も行き来した道。

 それにしても。この金が尽きる前になんとか現状を打破しなければ……。

 

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