メンテはいりまーす

 僕は今、呆気あっけにとられている。シャイラの食いっぷりに。

 

 彼女は結局、僕たちについてきて、同じ宿で暮らすことになった。その酒場でシャイラは肉料理を次々とおかわりしていた。料理の代金はツケになるのだが……今はそっとしておこう。


 あれから何度か練習を繰り返し、60%くらいの確率で成功するようになった。とは言え、暴発することもしばしばで。「依頼」を受けて生活していくのはまだ無理かもしれない。いっそのこと、他の仕事……とも考えたが、この地の一般的な職種はさっぱり分からない。ひとまずは、(恐らく)これまでこの世界でやっていたとおり冒険者として生きるほうが手っ取り早いだろう。


 少し落ち着いたのかシャイラが話し始めた。

「そういえば、こっちにきてから私、変な夢をみるんです」

 彼女の話を要約するとこうだ。シャイラは、僕よりも先にこの世界にきていたらしい。ふと気付くと教会で祈りを捧げている最中で、大層驚いたそうだ。彼女も、ここが「パドマル」の世界だと気付くのには大して時間はかからなかったようだ。

 しかし不思議な現象があるという。

 夜、眠りにつく。すると、元の世界の夢を見るそうだ。

 それを聞いた僕は少し驚いた。なんとなく心当たりがあったからだ。

「それで……昨日みた夢なんですけど……」

 困惑したような、言葉を探すような顔。

「なに?」

「元の世界で『パドマル』をプレイしようとするんです」

「ほお」

「そしたら『致命的なバグが見つかったので長期メンテにはいります』って」

「どういうことだろ」

「あたしも分かんないです」

 そこでマルシーンが口を挟んだ。

「バグとかメンテってなんのこと?」

 それを説明するためには、この世界が架空であることが前提となる。マルシーンには不愉快な話になるだろう。とは言え、仕方がないので説明をした。

「んー……予想外の現象ねー……」

 そう呟きながらマルシーンは考え込んだ。

「それってさ。 君たちが『ここ』にいるってことじゃない?」


 シャイラのみた夢が元の世界で起きていることかは分からない。しかし……。もし、そうなら僕たちは排除されてしまったりするのだろうか……。

 いやいや……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る