第十三節
「次の試合誰が出る?」
「どうしようか」
クラスの人数が30人。女子は...
「男子がんばれ〜」
あ〜はい。ということは、男子15人の中から9人か。ここでしっかり出て図書カー..
「3試合あるわけだから、全員出るとして...」
「6人固定で、3人が交代していけば良いのでは?」
お、学年一位の子。さすがやわ〜
「じゃあ、毎試合で出たい奴いるか?」
「で...出たい」
続く様に、三藤や運動部の子らがてをあげてちょうど6人になった。
「お〜っし。9人の中で初戦の...」
「3組との対戦だよ」
「そう。それ!」
「じゃ...じゃあ」
そう言って、丸メガネくんとサングラスくん。それと、学年一位の子が手を挙げた。
「よしっ行くぞ〜」
「おおおおおおおおぉ!」
「お..お〜」
「がんばれ男子〜」
気圧された...こんな一体感、先生にドッキリ仕掛けた時以来じゃないか。
「打順は?」
「背の順でいいだろ」
「そこは適当なんだな」
先攻後攻じゃんけんで、負けて後攻。
1回の表打席には運動部と思われる子が立っていた。
「守備位置も決めてなくね?」
「こういうのは経験者が外野でいいんだよ。」
「そうなのか?」
「ランニングホームランさえ阻止すればいいからな。」
「そうか?」
せめて2塁には経験者がいた方が良さそうだとは思うけど...
「ピッチャーキャッチャー含めず9人だからな。3人外野、二人ずつ塁を守ればいいかと」
「なるほどね」
下手に内野を固めるよりも外野からの返球を二人係で止めるっていうことか。
「1番 朱宮くん。」
「よっしゃ行くでぇ」
連投の佐藤さんであったが、澄ました顔してマウンドに上がっていた。
球威も特に変わった様子はなかった。
「ストライーック。バッターアウト」
続くバッターもピッチャーフライ、三振に倒れチェンジ。
「1番 杉坂くん」
一球目は空振り、二球目はファウルであった。
「いいよ〜当たってるよ〜」
「がんばれー」
バントの構えをした杉坂くん。
「え?」
「あの構えは...」
三藤くんがそう発した。
「あの構えはとは?」
「知らないのか?」
バントなら知ってはいるけど...
「バスターってやつだ。」
「バスター?」
「杉坂って野球部だろ?」
「そういやそうだったような...」
初めて知った。
「あいつって基本的には、代打担当って話でな」
「へ〜」
「バスターしない時の1割以下なのに、バスターした途端」
「途端?」
「なんと3割増しになるんだ。」
「それはどういう...」
3割ってすごいのかすごくないのか...
「まぁ見てなって」
佐藤さんがおおきく振りかぶって、投げた。
その瞬間。杉坂くんはバットを引きフルスイングした。
その打球はとても速く、左中間を抜けていった。
「す...すげぇ」
でも、3割とはどういう関係性が?
「つまりな、一球目は10%、二球目だとプラス1割で、20%。そこにバスター分の30割、30%が追加され打率5割になるんだ。」
「なんでそんなゲームみたいな設定!?」
「思い込みってすごいよなぁ」
「すごいっていうか」
ほぼ規格外じゃん
「もし3球ともバスターすれば9割じゃね?」
「それがなぁ。バスターは一日1回しか使えないんだと」
「あらまぁ」
「そのくせ、ストライクゾーンの中でなければ意味がない。そういう意味では、コントロールのいい投手とは相性がいいのかもな」
「なるほど。それでも、あんな打球を打てるのも普通にすごいと思うけどなぁ」
そういや父さんと野球を見てる時、
『打球を飛ばすのは力じゃないんだよ。もちろん力なしに飛ばすことはできないけれど』
『なんで?』
『タイミング、バットの芯に当てる、あとは雰囲気が大事ってことだよ』
『そうなんだ!』
『そのどれにも欠かせないのが目だ。』
『目?』
『そうだ。だから目を大事にするんだぞ。これ野球以外にも活かせるからな』
『わかった!』
そんな会話をしたことあったなぁ
「次のバッターは...」
背の順的に言うと、丸メガネくんか!
「2番 佐々内くん」
「頑張れ〜」
「行け〜」
「ノーアウト2塁。ここで点を稼げるとでかいな」
「だね」
「ストライーック。バッターアウト!」
「あちゃぁ〜」
「ドンマイドンマイ!」
「すまなんだ。小生も貢献したかったのだがな。」
ん?
「それがしの次は...貴殿であったか」
このクラスキャラ濃いなぁ
「ここまでは予想通りの展開ですね」
「き..君は...」
「あ〜。僕の名前わからないんですね。僕は柳家。柳家宗輔です。」
「学年一位の...」
「その呼ばれ方は好きじゃないんですよね。なんだか自分を見てもらえていない感じがするので。」
「あ〜。ごめんね」
「いいんですよ。他人は自分以上に見えにくいものですから。では。」
何?あの王者みたいな雰囲気。これはいけるのでは?
「あ〜。そうだといいなぁ」
なぜか、三藤の返事があい..曖昧模糊?に感じた。
今よく単語思い出せたな。
「ストライーック。バッターアウト」
「すみません。予想通りになってしまいました。」
「そりゃそうだろうな。せめてバット振れよ」
「それは盲点でした。」
さっきの三藤の返事がああだったのは、こう言うところがあるからかぁ
「ギャップ!いいと思うよ」
「馬鹿にしてますよね?」
「してないって」
「そうですか。それはさておき、」
「何?」
「次の打者。土田くんですよ」
「お..おう。...え? 俺?」
「はい。そうです」
「行ってこい土田ぁ」
まさか、背の順だと4番なのか...
「そりゃそうかぁ」
後ろを見ると、明らかにガタイの良い。なんなら他のクラスに1人いるかいないかぐらいのガタイの良い人が占めていた。
「バランスおかしいなぁ」
「シャキッとせい!」
「あああ。すまんすまん。行ってくるわ
2アウト2塁。バッターは俺。
「やってみるか」
左目を閉じ、少し先を覗いた。
「よしっ。やるか」
狙いは二球目。ど真ん中へのボールだ。
「芯に当てて振り抜く。あとは雰囲気」
一呼吸おいて、目を見開き構えた。
「なんかうてそうな雰囲気じゃね?」
「そうでしょうか。僕の予想だと打ててもそこまで飛ばないと思うのですが...」
「どうだろうな。かましたれ〜い・つ・き!」
「がんばれ〜」
あ、翼崎さんが応援してくれてる!
「かっこいいとこ見せたいな」
振りかぶった佐藤さん。
「でも、焦りは禁物だから!」
「ストライーック」
「振らなきゃ飛ばね〜ぞ〜」
「ん。しっかり打つから」
「言っちゃダメだろ」
「樹!がんばれ〜」
「見ててよ」
ふっと息を吐き、振りかぶった佐藤さん。
雰囲気は大丈夫そう。あとは..振り抜くだけっ!
「っしゃぁ」
「おおぉ〜」
「予想外なこともあるものですね」
目のおかげで芯で捉え、タイミング良く放った打球はセンターの頭上を悠々と超えていった。
「ななななんと〜4組の土田君が、佐藤さんからホームランです!話によると、彼は未経験者だとか。え?なになに?」
三藤くん。なんで解説席にいるんだよ。
「たった今入った情報によりますとこのホームランの裏には女子高生の力があるようで?」
「三藤くん?何を吹聴しているのですか?」
「樹?そうなの?」
「ねぇなんで修羅場みたいになってんの?俺...」
別に彼女とか居ないのに。ここでただ女子高生の着たジャージだとか、言えるわけないじゃん。
「じつは、あいつの今来ているジャージはですね…」
「おい三藤。これ以上話したら、次のサバゲーで味方にまで気をつけることになるぞ」
「へいへい。まぁご想像にお任せするってことで。」
次のバッターは初球打ちでフライに倒れチェンジ。
この回に2点取れたのは大きい。
2回の表も、相手の4番がヒットを出すも、無得点で抑える。
2回の裏では三藤、学級委員が出塁し、ガタイが1番いい(なぜか9番)のがタイムリーヒットを放ったことで1点追加。
迎えた3回の表。ここで抑えれれば勝利だが、油断はできない。
そっと左目を閉じた。すると、打球が自分のいるセカンドではなく、サード方向に飛んで行くのが見えた。
左目を開き、佐藤さんが投げたのが見えた。
「まずいっ!」
慌てて2塁に駆け寄り、レフトが取りやすい位置に投げてくれたこともあり、なんとか2塁進塁を抑えれた。
次のバッターは9番。
左目を閉じると、バントの構えをし、1塁方向に球が転がっていくのがわかった。
一呼吸して、周りを見渡した。
「奨は2塁に、や...柳家くんは1塁に入って!」
「おう」
「まぁ良いですけど」
佐藤さんが投げたのと同時ぐらいにさっき見たボールが転がる方向に駆け出した。
球は想像どうりの位置に転がった。その球をすかさず掴み取り、2塁の奨に向けて投げた。
「ほい!柳家」
パシッと音が鳴った。
「すげぇ! ゲッツーじゃん」
「あいつら全員野球部じゃないよな?」
「言われてみればそうだな」
そんな会話が聞こえる。ちょぉ〜気持ちええ
「ナイスチームワークですね」
そう佐藤さんが言ってくれた。
「あとワンアウト。気張っていこ〜」
「おおお〜」
ラスト。そう言い聞かせるように左目を閉じると、倒れた佐藤さんが見えた。
慌てて目を見開き、佐藤さんをみるとボールを投げた瞬間だった。
カキーンッという快音とともに、鋭い打球が佐藤さんを襲った。
「佐藤さん!」
慌ててみんなで駆け寄ると、掠れ声が聞こえた。
「だ..大丈夫。しっかり...取ったから」
「佐藤さん?佐藤さぁぁあああん!」
ボールを握りしめたまま、返事がなかった。
「ほ..保健室に! 早く保健室に連れてかなきゃ!」
打った朱宮くんや、近くの体育教師も慌てて駆け寄り運び出した。
タオルを敷き、保健室のベットに寝かせると、息を吹き返したかのように
「アウト取れてたかい?」
「そりゃ..もちろん」
「よかった。でもすまないね、どうも腰も悪くしちゃったみたいでね」
「ゆっくり休んでください。こういうのもアレかもしれませんが、すごく楽しい時間でした!」
「そう。それが聞けてよかったよ」
そう言って、落ち着いた顔して寝息を立て始めた。
「寝入りはや!」
にしても、こういうときの三藤は明らかに別人だ。
「なんで大人相手の会話が流暢なんだよ」
「さぁ?」
素でこれなのかもしれない。
「なぁ〜次の試合とかどうなるんだろ」
「野球部の誰かが投げるんじゃね?」
「そうか?」
「ふっふっふ。話は聞かせてもらいましたよ」
こ…この声は!?
「この私。4組担任の髙木美波先生が代わりを務めてあげましょう!」
「せ...先生がですか?」
「草野球界の紅一点。無敗のエースとは私のことなのですよ」
「は...はぁ。知らなかったです」
「そうでしょうそうでしょう。この私が投げれば誰にも撃たれることはないと保証しましょう。」
実行委員が臨時で話し合いをした後、先生がマウンドに上がった。
「なぁ奨」
「なんだ?」
「なんかこうなる気がしてた」
「俺もだ」
そう、先生がほぼ完封してしまった。結果として52奪三振とかいう生徒の反感しか買わない結果となったのだった。
「せ..先生は、みんなの為に公平にやろうとしただけなのにぃ」
最終的に先生はシクシク言いながら、自ら保健室へと向かった。
このためか、球技大会で野球をしてはいけないという暗黙のルールができた。
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