第十五節

迷路状の道を進み、発砲音と一際目立つ段ボール箱を目の当たりにした。

さっきの戦闘で弾が枯渇気味だったが、スタートエリア付近に自チームカラーである白のBB弾が山ほど落ちていた。回復手と思われるのが二人、攻撃手は四人。

「倒しにくいなぁ」

回復手、攻撃主ともに女子だった。翼崎さんの友達かな...

「あ〜樹くん?その子達やっていいわよ」

「ちょっとゆ〜ちゃん!」

「ふっふっふ。形勢逆転なのだよあすみん」

「ほんとに倒しにくい...」

「大丈夫。その子達は普通だから」

「わかった」

男女の違いというだけで油断してはいけない。女子は時に男子より強いからな

親父の言ってたような気がする言葉も、今ならよくわかる。

左目を閉じた途端集中砲火されたのを感じた。

さっきの会話中にも白いラインの色が消えていたから、多分安全圏はないのだろう。

パーンッ

「じゃあ撃つよ?」

「どうぞ」

左目の方では3たい1になっていた。

銃を直接向けるのはやっぱり気が引けるので地面で反射させて相手のお腹付近を狙いつつ、玉を避ける。

「ねぇ当たんないんだけど?」

隙を見て拾ったBB弾の袋をぶちまけて3人ダウンさせた。

「樹..なかなか卑怯ね」

左目含め、なんとなく気にしてることなのに...

「怪我したらこっちきなね。やり方わかんないけどなんとかしてあげるわ」

「ねぇ。せめて取説読んで?」

「わかったわ」

そんな会話をする余裕はできたが、どうも一人倒すのはきつい。回復手2人で攻撃手1人は一種のゾンビ戦法な気がする。

さっき倒せた人は回復より早く無数のBB弾が被弾して倒せたけれど...

ちなみに、倒された判定になるとゼッケンの色が透明になり実行委員に先導され退場していった。

「翼崎さん。そろそろ段ボールから出てもらってもよくて?」

「段ボール?私はここだよ」

「うわっ」

気がつくと真横にいた。

「なんかね、一定時間透明になれるみたい」

チートじゃん。ってかそれあるなら普通に生き残れたんじゃ...

「残機?って言うのが2個あるけど..一個いる?」

「まさかの残機譲れるん!?」

「まぁ嘘だけど」

「嘘かよ」

彼女は知っていた。あげると言っても土田は受け取ってくれないと言うことを。土田樹とは、自信が思っている以上にまっすぐであることを。

こんなふうに思ってしまうのは昨日読んだ暦レグという漫画の影響であることを。

「まっ最後まで楽しもうぜ! 樹くん」

「な〜。 そんなキャラだっけ?」

「あ〜うん。昨日読んだ漫画に影響された」

「わかるわぁ。このゲームやってるとついつい歴レ..なんでもない」

多分歴レグ知らないんだろうな...

彼女は彼女でいろいろ察したかのように笑みを浮かべた。

「お二人さん。作戦会議は終わったかい?それともデートの日程かい?」

「翼崎さん。ちょっと僕撃っていいですか?」

「いい..わよ?」

上に向かって一発。壁に向かって一発。最後に相手に目掛けて一発。計三発を発砲

3発目を避けたと同時に後ろと左右から狙撃。

「ナイス奨」

なんか言いずらいな...すすすむ

「なんで合わせられたんだよ」

「第六感ってやつ?」

「微妙に信じれるのが怖いわ」

どうやら奨は単騎でスナイパーを狙ってたらしい。そのために初手から全力疾走してたから弾の雨からは免れたとか。

「こう言うの好きそうだもんな」

「おう。まさか中学の球技大会でここまでガチのやつをやるとは思ってなかったけどな」

翼崎の回復キットにより完全復活した奨含め、3人一組で動くことにした。

「なぁ、あそこの回復手はどうする?」

することがわからないのかアタフタした様子の回復手が2人いた。

「ここでダメージ数かせぐのもねぇ...」

「樹はゲスいこと思いつくのね」

「そんなつもりじゃ... 」

「まぁ一思いにやってしまうのが1番か」

流石に射撃はできなかったのでBB弾を鷲掴みしアンダースローで当てた。

退場したクラスメイトのBB弾と回復キットを集め終え、3人ともフル装備になった。

「ところでこのゲームの終わりって何時か知ってる?」

「確かに何時だろうな」

「今3時間目が終わったぐらいね」

「あと小一時間ってとこか」

「とりあえず敵を倒しに行く?」

と三藤が聞いてきた。

「多分ここにいるだけでかなりの敵と交戦できるかな」

「そうなの!?」

翼崎さんが驚いたように聞いてきた。

「まぁ..ほぼ100%そうなる」

「それまた大きく出るなぁ」

「自分でも良くわかんないんだよね」

「でも100%?」

「うん」

「あ、7秒後後ろから二人組」

「はいはい」

そう言いつつ背後に構えて少ししてから発砲

「ヤッベェ」

「全滅したんじゃないのかよ...」

「一旦退くか」

「だな」

そんな会話が奥から聞こえてきた。

「ほらね。やっぱり来てた」

「すげぇな。その調子でうまくかわしつつ...どうするんだ?」

「図書カードのために頑張る」

「でも戦況は?」

「最悪...かな」

「樹くん!」

「ん?」

「私はセーブポイントでぬくぬくしてたいです」

「よしっ前線目指すか」

「というと?」

「地下一階の扉の向こうにいく。」

「わかった」

「ええぇ〜」

今回は階段で足止めを食らうことなく地下一階の迷路ゾーンに侵入した。

「にしてもこんなゼッケン一つで空って飛べるんだね」

「まぁ実際見たことはないけどな」

「ならやってみてよ」

「だそうだ奨」

「あ、俺?」

「まぁ..」

「飛んで大丈夫そうか?」

先読みしていた左目を開け、再度閉じた。

すごく不恰好に飛ぶ奨が見えた気がしたので

「いけると..思う」

とだけ伝えておいた。

案の定、誰かに摘まれているかのごとく飛んでみせた奨。

「ほんの少し浮きながら歩く動作できる?」

先読みでできることから、分かってはたが...敵陣で飛べる人数。つまり10人のうち一人でも戦わなくていいっていうだけでだいぶ楽になるからだ。

「おっ! いけたぞ」

「おお〜。それと翼崎さんの透明化の持続時間は?」

左目で感じれることではあるがかえって面倒くさいことになりそうで、話がダブったように感じるのはなんとなく疲れる。

「え?無制限だよ?」

「バケモン級のチートじゃん」

「条件次第だけど」

「って言うと?」

「さぁ...でも条件はクリアしてるっぽいから大丈夫よ」

本当は残機が1になったらという条件ではあるが、なんとなく言いたくなかった。

「ただ、回復手ごとに条件は違うみたい」

「他の条件はわかるの?」

「被弾しないとか、動かないとか、声出さないとか?」

「なるほど!?ってか、なんでそっちだけはわかるんだよ」

「取説に書いてあったから」

「あぁ〜」

「透明って言うのは実態も透明化っていうか消える状態なのか?」

「どうなんだ?」

奨の抱いた疑問も言われると気になるところである。

「さぁ...とりあえず透明化してみるね」

「す...すげぇ」

完全に見えなくなったが、流石に足音まで消えたわけではなかった。気配はあるのにみることができないと言ったところだろうか。

「つついていいか?」

「お巡りさん呼んでいいならね」

初めから身についているものは透明になるが、後から触れたものには適応されないこと。

実によくできてらっしゃる...グスンっ。特に夢、広がらず...(夢については深く言及しないこととする。)

「それはそうと、見えたよ」

扉の向こう側からは銃声が聞こえる。にしても大掛かりな設備な気がする。

「作戦ってほどじゃないけど、俺と奨は初っ端から飛ばしていく。翼崎さんは透明化状態で侵入」

「オッケ〜。なんだか楽しいことになりそうね」

「だな」

「それ以降の指示はその場で出す。」

そう言って左目を閉じ直した。

「入るよ〜」

「なんで左目閉じてるの?」

「それ今聞く?」

「まぁ...気になっちゃったから」

「...そのほうが調子がいいから」

「ってきり厨二病かと思ったわ」

「ちゃうわ」

グダグダしながらも扉に手をかけ、息を吐き、侵入した。

入る前にわかっていた通り、空中の9人のうち3人に向かって発砲。

「奨はとりあえず撃ちまくってて」

ぱっと見この中には30人ちょっとの男子がいた。

「オブジェット起動」

「はい?」

大体30秒後に無数のBB弾の雨が降り注がれることがわかった。

ただ、そのBB弾はあくまで光の塊で、物理的ダメージはないようだ。

「奨!一回こっち来て欲しいかも」

「わかった」

さっきのゼッケンや回復キット同様、触れてから左目を閉じれば...

いまだに、見えたというか感じたというかよくわからない感覚のそれだが、オブジェットとかいうのの直撃で奨は退場になりそうだった。

だが、触れたことで自分と同様相手が起動させる前に避け切ることができるのではないだろうか。そして、なぜ自分以外に適応されないのかは今もってよくわからない。

「結果から言うと、オブジェット起動を事態を阻止できそうだ」

「は?」

「数十秒後にBB弾が雨みたいに降ってくるから、それ自体を止める」

「なるほど?」

「空飛べないけど、裏コマンドってこれか?」

「すっご。ほんとにあったんだ」

「使っていいと思う?」

「使うべきだと思う。それに、俺にも教えろよ〜」

「手にしたはいいがどう使うんだ?」

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