第十九節

昼飯を食べて学校前に戻り奨と一緒に、ブラックボックスとやらに向かった。

「久しぶりだな。」

「と…父さん!」

「おう。父さんだ」

「前々から変な人だとは思ってたけど..なぜにスーツ?」

「先生コスだ」

「わけわかんねぇよ」

「それよりもだ」

「な..何?」

「友達とか彼女は増えたか」

「友達は増えたけど..ってか彼女増えるわけないでしょ。それに…ゼロだよゼロ」

「俺はもだち1人..いや2人か。それと妻一人だから一勝一敗だな」

「土田のお父さんて面白いのな」

「変わってるとは思う」

「そちらは?」

「あ、僕は三藤奨です。中学一緒で、高校も一緒の仲です」

仲良くなったのすごく最近だけどね…

「そうか…お! 確か君は優雨ちゃん」

「なんで優雨覚えてるんだよ。ええええ!?」

なんでいるの?ってかいつからいたの?

「あ、どうも。たまたま見かけたからきちゃいました」

と言った翼崎さんがいた。この人あのゼッケン着なくてもステルス性能ついてるんじゃないか?

「あれ?樹くん気づいていなかったの?」

なんとなく奨の方を見ると、

「俺は気づいてたよ?」

と嘲笑された。

「だったら言ってよ〜」

「ここまではニナの言う通りだな」

「え?母さん?」

「今起きてること。俺のこと。これからのことを話す。覚悟しておけよ〜」

「う…うん」

説明された、父と知らない世界の話、俺の母のこと、僕の左目についての考え。

父は知らない世界のことを研究していた。そのことに驚いたが、なぜだか納得できた。

ネナのことも俺の左目のことも、俺がたまに見る夢のことも全部僕の母..そして、向こうの国には一人一人この世界では考えられないような事象を引き起こせる人がいて、その中で、未来に必要な物と者を伝えることができる存在。それがニナ。それこそが俺の母さんであること。

水面下では加藤と父さんが協力してその場所の解明を進めているらしい。

ネナが来ているのはわかっていたことだが、なぜきたのかは今のとこ不明。

左目が使えなくなったのは向こうの世界とのつながりが弱まっているから。

しかし、不透明で不完全な未来、向こうの技術をこの国で応用しようとしていることもわかった。その一例が加藤のゼッケンらしい。ほんとに加藤くんの父と俺の父って関係あったんだ。

この裏には話しきれないほど、たくさんのことが詰まっていることも教えてくれた。

「なんか…すごいね」

「今までこのことを伝えられなかったのは、ニナの見た予知夢に出てくる物との関係を他もつためなんだ」

どうやら、未来とは繊細ですぐに変えられる物らしい。まぁ、実際に分岐しているのを知ってはいるが…

「まぁまだわからないことの方が多いから…」

「そうなんだ…」

「ああぁ〜スケールが大きすぎてよくわかんないのに…なんか納得できちゃうのよね」

「それも未来にまつわる不思議の一つでな…」

それから今後のことを話した。とりあえず左目のことはわからないことが多いので、加藤のとこのゼッケンで計測したデータで解析するとのこと。

ネナのことは一旦保留。高校の勉強は大変かもしれないから春休み中にたっぷり予習すること。いや、これは….はい。

今わかっている大きな問題があって、そのことを春休みぐらいに伝えられること。それには鷺宮さんも関わるから、ネナ含めた5人でもう一度ブラックボックス。つまりは今いるところにきて欲しいとのこと。そんな会話をして、俺たちはブラックボックスを後にした。

「そういやブラックボックスのことなんも話さなかったな」

「そういえばそうだね」

気がつくと学校前まできていた。頭が追いつかなかったからか、帰りに話すことが多すぎたからか、なんも会話せずにたどり着いてしまった。

「じゃ」

「おう。またね」

「またな〜」

なんとなく学校前で別れた3人。とりあえず丘に向かった。

今日いろいろありすぎて何が何だかわかんなくなりそうだわ

そう思いながら、丘に背を預け横たわった。

「あ、図書カードで本買いにいこ」

ほんとは3000円分全てラノベにするつもりだったが、一冊だけ高校のためのワークを買うことにした。

「ただいま」

本を買って帰るとすでに日は落ち夕飯時だった。

机にはご飯が置いてあった。

「ありがと」

いつも通りさっと手を洗い、着替えをし洗濯もした。

「いただきます」

帰った時にはすでに母は寝息を立てていた。

怠け者の節句働き…解せん。

そうは思うも、たまに食べる母の手料理は美味しかった。そして、いつも食べたいものが並んでいた理由もわかった。

今日はお味噌汁っ!最高。

これが予知によるものか、母の勘なのかはわからなかったがとにかく美味しかった。

食べおわり、食器を片付け、無理矢理シャワーをし、寝た。

もう何も考えられなかった。


もう朝…か。

昨日のことが嘘だったのかと思うほど静かな朝だった。

それから朝飯を食べ、カバンに昨日買ったラノベを入れ登校。

歌練して、給食食べて、帰る、

別段これと言って変わった出来事もなければ、会話して盛り上がることもなかった。

別に誰とも喋らないわけでもなく、奨とは昨日のことを話したりもした。

でも….

「一度充実を知ると…退屈が染みるな」

以前にもまして話すこともあるし、周りへの見方も少しは変わったと思う。

でも、退屈は退屈なのだ。ラノベ読んで、アニメ見て、時には自分を重ねて、一人で盛り上がって…。ああ、やるせなさが拭えない。退屈ってこういうことなんだって実感した。

そんな気持ちのまま卒業式を迎えた。


その間に一度ネナちゃんと鷺宮さんに会った。

「おっ。ネナちゃん」

「あ〜つちくんだぁ〜」

「こんにちは」

「こんにちわぁ」

なんか発音が違うんだよなぁ…

それからねなちゃんの持っていた絵付き辞書を使って言葉の勉強をお手伝いした。

「お..つちくんとネナちゃんでお勉強してるの?」

「あ、鷺宮さん。お久しぶりです」

とりあえず、球技大会のこと父のことを話した。

「とりあえずゆっくりしてればいいのね」

「まぁそうなりますね」

その後、この単語が死語だとか、この絵なんか古い作風だとかの話をした。

ここ最近で1番退屈を忘れた。


案外卒業式とはあっという間だった。

9年も通った学校、泣いてる子もいれば寝てる子もいた。

土田樹は、ただ呆けていただけの子だった。

思い出がないわけでもないが…虚無、寂寥、虚脱。

そんな言葉が両肩に乗っているかのような今のせいかもしれない。

そうして、何事もなく終わった。打ち上げというものがあるらしいが行かなかった。

翼崎優雨も、三藤奨も彼の状態が気にならないわけではない。

だが、あえてと言っておこう。あえて、彼自身を受動的に奮い立たせようとはしなかった。

ただ知っていたのだ。楽しいことがあるからつまらないことがある。

退屈があるから、ひとときの楽しいを増長させてくれることを。

土田樹とて、その言葉を知らないわけではない。そんなことはアニメでなんでも見てきた。

だが、その経験はなかった。ただそれだけなのだ。百聞は一見にしかず、とはよく言ったものだ。

「帰ろ…」

そんな感じで迎えた春休み。なんとなく英語のワークを開いては閉じ、ラノベを開いた。

そうして、1日、2日と過ぎていきとうとう買いだめたラノベも読み終わった。

読んでる時は没頭したし、楽しんだ。だがまただ、読み終わるとそこには退屈にに文字がへばりついていた。


そんな彼にもしっかりと転機が訪れた。前触れはあったが突然に。

ピンポンが鳴った。

「樹く〜ん。いる?」

「あ、はい。…いますよ」

「デートしよっか」

「….ほへっ!?」

そんな..急に..どうして?

翼崎さんがそう言いながらうちにやってきたのが1時間前。

「久しぶりに来たわぁ〜」

そんなこんなで僕の部屋に来て本を読み漁り始めた。

「へぇ〜こんなの読むんだ」

「彼女みたいなことするね…」

「そう?まぁ春休み暇だったし。 せっかくなら前みたいに樹の家にでも来ようかと」

「幼馴染フラグかよ」

「何それ?」

「…なんでもないです」

小学校からの付き合いを幼なじみと言えるのかは分からないが、なんとなくそんなシチュエーションだと妄想してしまった。

「中学入ってからあんま関わらなかったじゃん?」

「そうだね」

「でも最近になって急に距離近づけたじゃん?」

「ほんとそれな」

「まぁ…私もよくわかんないんだけど…気になったらとまらないっていうかなんというか…」

「それでうちに来たと」

「まぁね。私も漫画とか読むようになって、そういえば樹は何読んでるんだろうなぁ〜って」

「思ったわけだ」

「そうっ!」

「じゃああの時の美術室でのことは?」

「それ…聞いちゃう?」

「いまいち..つかめないっつうか…」

「じゃあヒントだけ…ね」

「お…おう」

「動かなきゃ始まらないって思ったから」

「…それって当たり前のような気がするけど?」

「そう。当たり前だよ?でもね、始めようってすると早々うまくいかないものなの」

「…なるほど」

久しぶりの急展開に頭が遅れて動いている気がした。

「それに、あのままじゃ退屈でしょ?」

あ…そっか。

言葉にしてはっきりとは言えないけど、歯車が。至ってシンプルな歯車がカチャッと音を出して重なった気がする。

「こんなこと言うのも…多分あの時..あんなこと言ったから。あれでも頑張ったんだよ?」

「そうなの?」

彼女もまた、言葉にできないが土田樹という男に対して言いたかった。

そしてそれは今もだ。

すごく掴みづらいし、一見何言ってるのかわからない…かもしれない。けど、それが本心だった。

「さっ行こ!」

「え?どこに?」

「デート」

「おうちデートってやつじゃなかったの?」

「今のは…漫画みたいなことをしてみたかったの」

「なるほど?」

ついでに、前に約束していた本を貸し、そのあとさらに本屋に行って本屋デートをした。

母さんに卒業祝いのお小遣いもらえていたので、気になってた本を大体買った。

あの日わかった気がした一歩踏み出してみることの面白さ。

けれども、依然として何もない春休みを謳歌していた。17時間以上アニメを見る日が1週間ほど続いた。

「英語のワーク…あれ?終わっちゃってる」

唯一やることにしていたワークも終わり、気づけば入学式を迎えた。

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