第二節

♪♪♪♪♪〜

朝から軽快なアニソンを目覚ましに起床。

「...ん?今何時だろ」

目を擦りながら見た先には8時を示す時計が。

「そうかこれは夢か。...きっと昨日のも夢だろう」

と言っている時にはすでに遅かった

「ぐがぁぁ〜ゴォ〜」

聞き覚えのあるイビキとカーテンの隙間から差し込む光。

「これ..夢じゃなくね?」

でなければ、ゆめのなかが神作画すぎるわけだが…

あ..危なかった。

チャイムと同時に到着とかいう、人生史上稀にみるヤバさであった。

流石に2時寝は堪えた。

カバンを置いて一息。

「あれ?今日土田遅かったじゃん」

「んん?ああぁ。な〜」

この失礼そうな…前の席の...誰だっけ?あ、

「…い…伊藤くん。おはよう」

「おいおい。伊藤じゃなくて三藤な。いとみって発音似てるけどさぁ、卒業式一週間前になってもまだクラスメイトの名前覚えとらんの?遺憾千万やわ〜」

「んなわけ。もちろん知ってたとも」

ってか遺憾千万とか普段の会話で聞くの初めてだよ。

というか、クラスメイト5、6人ぐらいしか名前と顔一致しない絵vなんて口が裂けても言えないな…

正直、人の名前と顔を一致させるとか難しすぎると思う。みんなアニメみたいに個性と見た目が際立っていればいいのに。

「いくら会話苦手でも、せめて名前ぐらいは覚えようよ」

そう。あんまり会話ってのが得意じゃない。

小さい頃からの付き合いならまだしも初対面、それも年上で女子高生になど普通であれば会話など進まないはずなのであって、1時間も会話したなど、自分でも驚きで顎外せるレベルだ。

「お〜い。土田聞いてるか?」

「えぇっと...三藤くん。もし、俺が女子高生と話してたって言ったらどう?」

「先生〜!土田が、寝ぼけて女子高生とか戯けたこと抜かしてます。病院連れていきますか?」

「では♯7119番に電話…ですね!」

ご…ご丁寧に救急安心センターなあたり…さすが先生!

なのか?

「いやいや!いくらなんでも…。確かに名前間違った俺が言えるはずもないけどさ」

確かにおかしい。いつもはそんなに会話もしないはずなのに現に今もいつもの数倍は話している。

もしわ失恋もまた、人を成長させるの...


「土田が女子高生ねぇ〜。対義語じゃない?」

どこかで馬鹿にされたような気がしたが、気にするのはやめておいた。

「で〜その女子高生様がなんだって?」

「夜中に電話で話してたら寝るの遅くなった」

「幻聴かなんかか?」

「違うよ!って言うかさ…あの…失礼かもしれないけど、俺とお前こんなに喋ってた仲だったっけ?」

「ん?言われてみればそうだな。今日のお前は話しかけやすい

ぶっちゃけ、ヲタク文化を否定するわけ時じゃないけど、暗いイメージあったしなぁ」

「俺ってそんなオタクチックな感じ出してる?」

「..言われてみればそうでもないんだがな」

「どっちだよ…」

「で、なんかあった?熱でもあるのか?」

「ねぇどうしても俺を病院送りにしたいの?」

「だって心配になるやん?隣の人が気づけば別人になってるみたいなもんやぞ」

素で心配してるのか、馬鹿にしているのかはわからなかったが。

...考えれば考えるほど後者に群牌が上がりそうだ。

なんか話すっていうのは存外悪くないもんだと思えた。とはいうものの、普段して来なかったからかすごく疲れた。

「まぁいいや。そういや今日は卒業式の予行だっけ?」

「多分そうじゃね?」

3月初旬。どこもかしこも卒業ムード真っ盛りな時期だ。

年々早く開花する桜は入学というよりも卒業の香りのようにも思えた。

「卒業つってもなんか実感湧かないなぁ」

ちらっとクラスを見渡すと昨日美術室で話した子が窓の向こうを見ているのが見えた。

ほんの少し茶色がかった髪色で、ポニーなんとかって言うらしい一つ結びの髪型。

白い肌が一瞬見ただけでも目にこびり付く。

「やっぱ恋っていうのは人間を変えてしまうんだろうか」

ボソッと出た言葉にはやはり寂しさがあったのだろう

言った言葉がよくきえば恥ずかしいセリフもなんだか悪い気はしなかった。

机に目をやり、卒業式なにやるか思い出そうとした。

「...なんかあったっけかなぁ」

「どうした?元気ないみたいだけど」

「うわっ」

突然話しかけたきた。さっきまで外を見てたはずの彼女が。

「えぇ〜こっち見てる気がしたから話しかけてみたら、びっくりされるって」

「いやいや、考え事してる時に急に話しかけられたら誰でもびっくりするでしょ」

「そう?まぁさ、なんか悩んでることあったら相談のるよ」

と言って目の前の椅子に腰掛けた彼女。

わざとなのか素なのか。どうも今日のクラスメイトは自分を精神的にぐいぐいくるらしい。

「お、おう。まぁ悩みというかなんというかだ。」

「え〜よくわかんないや。相談乗ろうか?」

「それには及びませぬ」

「ふ〜ん。ところでさ、今日の樹はなんか雰囲気違くない?」

「そう?まぁ昨日色々ありすぎて疲れているのかもな」

「ふぅーん。まいっか」

「あ、言い忘れてたけど、男子みんな行っちゃったよ?」

「あっ」

見渡すと何個かのグループを形成する女子しかいなかった。

「そう言うのは早く言ってくんないとさぁ」

軽く愚痴をこぼしつつ体育館履を持って急いで教室を出た。

まったく、マイペースというかなんというか...


「おっ 来た来た。」

おせぇよと言わんばかりに三藤がこっちに手を振ってきた。

「お前…翼崎さんと仲良かったんやなぁ」

「まぁ小学校から同じってだけだけどな」

でも、普段教室では話さなくなっていた。少なくとも中学校の間は。

それに小学校から一緒っていう人も決して少ないわけではなかったし…

「幼馴染っとも言い切れん関係だが羨ましいじゃねぇか」

「そこまでの関係はないよ」

「で?付き合ってるん?」

「そんなわけないだろう。と言うかむしろ...」

「え?」

「な…なんでもない」

どうしてだろう。忘れようとか、なかったことにしようと思ったことであればあるほど、思い出させられる感。

「へー」

少しニマリとした表情をされてどうも、見透かされてる気がして儘ならないというかなんというか。

「それはそうと、卒業式の曲覚えたか?」

「あ」

一週間後には卒業式だと言うのに、卒業の実感がわからない。

そのせいか、なんも考えずここまできていた。

「そういや…曲名なんだっけ?」

「おいおい、そこからかよ」

曲名も覚えてないレベルでここ最近、ぼーっとしていることが多かった。

会話に関しても普段だったら、“え“とか“あ“とか“うん”で済ますところではあるが、気づくと1対1での会話はそこまで億劫ではなくなっていた。別人と言われるのも納得である。

そんなことを思っているうちに体育館へ着き、予行が始まった。

なんか不思議な感覚だな…

特に何もなく予行が終わって教室に帰ると、三藤がまた話しかけてきた。

「ところで土田さ、ブラックボックスって知ってる?」

「なんだそのなんでも入りそうな箱は。ゴミ箱に良さそうだな」

「違うわ。元々は内部をよくわかんなくても外部を使える的なアレなんだがよ、その趣旨を少し変えた未来的?実験っていうのがこの学校の近くでやるらしいんだよ」

「唐突に何?と思ったがそんなことかい」

つい思ったことが口に出てしまった

馬鹿にしているつもりはないが、宗教染みた何かぐらいに思えた。

「そう思うのも仕方がないかもしれない。だがお前は違うぞ土田」

「はい?」

「興味本位で建設予定地を見に行ったんだがよ」

「よく場所知ってるね」

「まじでコンクリートが敷かれただけの土地しかなかった。」

「やっぱ俺としてはコンクリの床よりなぜお前が場所まで知ってるかの方が気になるわ」

「それはいいんだよ」

いいのかよ?とは思うがまぁいいか。

「じゃぁコンクリの床になんかあったってことか?」

「あるのは看板一枚だ」

「それに何の俺との関係性を見出したんだよ」

君はまるで看板のようだってことか?

「その看板に土田って書いてあったんだよ」

「は?」

どうせ他人事だろうとは思うが何故か妙に引っかかった。

「それで?」

「今日午後空きだし一回行ってみないか?」

「いやなんで、苗字が一緒ってだけで行く理由になるんだよ」

「逆になんで行く気にならないんだよ土田ぁ〜」

すっごい落ち込んでるように見えたが今日忙しいからと言って断った。

というより逃げた。これ以上会話すとややこしくなる。そう直感が進言してきた。

「つっても、午後何しよ」

そういえば明日は球技大会とかいうものがあるとかないとか。

それも、明日のことだしなぁ。

ふと瞼が重くなった。小さい頃からたまにあった、急な抗い難い眠気が襲ってくる現象。

学校に入ってからはこの現象で悩まされることも少なくなってきていたが、この一年急に増えてきた。眠くなるというより、寝なければならなくなる。そんな感じだ。

「ま、いっか。」

物事に集中していたり、楽しいと思えている時には起きないのが不幸中の幸いだった。

夢を見た。苦しそうな少女と何かを訴える人。窓の外は黒い。本当に黒かった。

『もう少しだから。あと少しだから。@/[/[;:@&$%“(:.』

なんだろう。あと少し?何かの終わりかなんかだろうか。

何か聞こえる...


「お〜い。生きてる〜? はぁ〜にしても寝顔は昔からあんまり変わってないなぁ」

ん?寝顔が何だって? それにこの声...

「はっ!」

「おぉ。びっくりした。 次音楽室移動だよ〜」

「あぁ。 ところでどんぐらい寝てた?ってか寝言言ってないよね?」

「さぁ?それはどうかな。あ、でもちょっと顰めっ面だったかも。」

「ええっと、だからどんぐらい寝てたん?」

「知らないわよ。それに寝てるの気づいたのだって今からちょっと前だし」

「そっか。まぁ特に何もなくてよかった。」

「気になってるんだどさ、なんで寝てる時いつ..」

「ん?」

「少し悩んだというか顰めっ面というか夢見てなさそうに寝てるわけ?」

「え?そんな変顔してた?恥ずかしいわ〜」

「まぁいいわ 音楽室さきいってるかんね」

「お..おう」

翼崎は内心、聞かれたかどうか不安であった。

「小さい頃から変わってないだなんて、まるで私がずっと見てきたみたいじゃない。」

その日の音楽の時間、翼崎の歌声は過去一良かったのはまた別の話。

一方、翼崎に起こされたてホヤホヤの土田はカバンの奥底に手をやった。

一応歌詞を覚えておこうと思い、楽譜と睨めっこしながら音楽室へ向かった。

「今日はここまで。明日は球技大会だから体育着忘れないように。」

練習が終わると音楽の先生がそう言った。

「気をつけ 礼」

「さようなら」

小学校から数えてもう9年同じような挨拶をしてきた。正直ここまで続けると、多分聞かずともタイミングでなんとか出来る気がしてきた。

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