第三節

「明日は球技大会かぁ」

特に何も考えてなかったが、三藤の話によると球技大会は外で行われるんだとか。

「あれ?ジャージ着てこなきゃ寒くね」

三月初旬とはいえまだ朝は寒いしあいにく今日はくもり。

明日の朝家から出ると、ジャージないからか腹を痛めて一日中苦渋を舐めまわすことになること間違いなし。

「帰ったら電話してみるか」

などと言っては見たものの女子高生に電話するというのは少々気力が必要であった。

終業の挨拶を済ました後、いつも通りに家に直行し家電の履歴を確認した。

「電話番号は...」

夜中にかかってきた番号を折り返し、勇気を振り絞ってかけてみたが

「やっぱりかぁ」

家に帰ってきたのは大体1時半だから、授業中とかでつながらないだろうとは思っていた。

「留守電残しておくか」

明日球技大会があるのでできればジャージを返していただきたいので昨日の丘の上にいます。という旨を残し本と時計、手持ちの全てを詰めた財布、駄菓子。それと、なんとなくカメラを持って丘へと向かった。

家から徒歩10分。そんなところに普段は一人でゆっくりできる、まるで自分のセーブポイントのような場所。そんな気がするほどに俺はその場所が好きだ。

たどり着くと、少し汚れたベンチを手で払って腰掛けた。カバンを置いて取り出した本。通称ラノベというジャンルの本に俺自身どっぷりとハマっていた。

「異世界人か..」

夜中に話したことが今でも衝撃だったというか意外だった。

宇宙人、未来人、異世界人もちろん夢見ることだってあるがそれはないと思えるようになってしまった。

「せめて夢でも..」

そう思い本を開いた。途端眠気に襲われてしまった。集中すれば眠気も無意識になくなるはずだった。まさか本を開いた時に来るなんてな。

「本で夢を見るのも憚られる時代なの..か...」

夢の中で夢を見た。見たことない髪色と一語ずつ話す億劫さを持った子だった。

はっきりとわかるのは最近夢に出てくるのはみんなこの子を中心に動いているということだ。

ただ、今回は違った。その横に先輩がいた。

「とうとう夢にまで出ちゃったよこのお姉さん」

心の中でそう呟いた気がした。

夢を堪能していると、ふとした時からか違和感が強く反応した。

「なんだろう」

その正体。それは夢の中のはずなのにまるで夢じゃない気がした。

それれもそのはずだ、自我がはっきりとした夢だなんておかしい。そう思えば思うほど違和感は強くなった。

現実味のないはずの、叶うことは無いであろうものを見る夢。でもそこに自分は存在しない。そこまではいつもの夢だった。でも、確かに意識がはっきりしすぎていた。景色が鮮明すぎた。その正解の窓の外が真っ暗すぎた。

「走馬灯の対義語というか予知夢というか...」 


「ねん..少年...土くん! おぉ〜い」

...んん?今日はよく呼ばれるなぁ

「起きてってば。少年」

うっすらと目を開けた先には昨日…いや、夢の中で会った先輩であろう人物。昨日とは違い髪型をツインテールと呼ばれるものにしていた。

「...おはようこざいます。えっと..誰さんと呼べばいいですか?」

「鷺宮よ、鷺宮小菜。そういや自己紹介まだだったね」

「さ…鷺宮さん..はひゅ?」

膝枕されていた。おいおい。出会って2日目のはずですよ?
最近の女子高生様の距離感はこんなものなのだろうか

「どうだい?現役女子高生に目覚めさせてもらうってのは。土くん」

「さ…最高です。 あの…ところでその土くん?ってのはなんですか」

「苗字が土田じゃん?」

「はい」

「寝顔がツチノコっぽいじゃん」

「はい?」

「女子高生の直感ってやつだよ」

それ全然理由になったないのに何故か納得できてしまいそう。

「ほら?」

と言ってスマホを突き出してきた彼女。

「この瞼というか、目元がなんとなく…ね?」

「こんなつった目をしているのか...」

自分の寝顔なんて初めて見たわ。ってか盗撮されてんじゃん。

「はい、これ」

ジャージが入っているのであろう袋を手渡された。

「いくら女子高生が履いたからって匂い嗅ぐなよ〜」

「嗅ぎませんよ」

「全く?」

「..全く」

別にこの間に深い意味はない。ないからね?

強いていうなら、明日着るのが楽しみってだけで。

「ふ〜ん」

「なんすか」

「このマセがきめ〜」

「な..な訳ないじゃないですか。学校でも評判の紳士ですよ?」

「誰からの評判か言ってみぃ」

「...」

「ヘンジガナイ。タダノシカバネノヨウダ」

「なんでしょう。カタカナ語だと思うと無性に腹が立ちますね」

人の心にアテレコされるとは

「へへへ〜うまいでしょ」

知り合いに教えてもらったとか…どんな知り合いだよ。

「はいはい。」

それからほんの少し間が空いた

「そそそそういえば、歴レグ見てるんすね」

「そうだよ〜意外?」

「意外というかなんというか。同級生の女子で見てるって言ってる人、聞いたことないから」

「え?土くん彼女いるの?」

「いませんけど」

「というか女子と喋れるの?」

「あんたも女子だろ」

「あ」

「というかなんでしゃべれないやつだと思ってるんですか」

そんな負のオーラみたいなの出てた?

「いや〜なんか喋るの得意そうじゃないな〜って思って」

「男女ともに2、3人は話せる人いますよ。まさに真の男女平等と言っても過言ではないでしょう。」

「そ..そうね。でも、男女平等というより、軽くコミュ障じゃない。むしろ2、3人話せる人がいるなら増やせるでしょ」

「今日1人増えました。」

「まさかの今日!お姉さんびっくりだわ。ということは中学で話せるのはもともと6人に満たないと」

「いいえ、小学校から数えてです」

「どんなコミュ障でも小学校の時なら話せそうだけど…」

「いや…基本的に1対1の会話以外は荷が重いので」

なんなら、一対一でもなかなか話してこなかったけど…

「会話に荷が重いとかあるのかぁ」

「逆にないんですか?」

「多少周りを見さえすれば荷が重いとかはないかな」

「それができないから荷が重いんすよ」

「そんなもん?」

「そんなもんっす」

その後、彼女のユーモラスなご学友たちを紹介された。

アニメを見過ぎたからか毎日服装がコスプレの人に超有名声優、年中半袖の学年一位、毎朝10キロの道のりを走って登校している人、銀髪碧眼で大人しくて、人当たりもよく文武両道、銃の腕前も高い(ゲーム内)もはやリアルヒロインと言っても過言ではない人。

プライバシー保護の観点から名前は今のとこ伏せるとのこと…。

でも、その口ぶりだと今度わかるのかな。え..期待しちゃうな…超有名声優とやら

「ってか合わせて五人じゃないですか」

「友達百人いても一緒に会話するのはせいぜい3〜4人でしょ。後はたまに会話するってだけでいつも一緒にいるのはそんくらいじゃない?」

「そんなもんすか」

「あ、もしかして土くんもそんな感じだった?」

「ままままぁ、そんな感じといえばそんな感じですけど?いやほんとに」

「うん。わかったわ」

ちくしょう見透かされてる気がする。

「それに、男子というか異性がいない感じじゃないですか」

もちろんハッタリだ。ここまで言われているんだから…少しぐらいおちょくれそうなところ攻めてみてもね?

「そそんなわけないじゃない。だだだ男子とも会話できますし?」

「そうでしょうね。だって僕も男子ですし」

よっしゃぁあ。彼女、リア充でもなく仲良い異性も確認できない。これは...じゃなくて言われっぱなしじゃなくなったと言ってもいいだろう。なんかスッキリした〜

「土くんだって彼女いないんでしょ」

「そ..それはそうですが」

「それって、昨日の思い耽ってたのと関わりが?」

「そんなわけないじゃないですか」

なんだろう。そのものありげな笑みは…

「振られた?」

「告る前だったんでノーカウントです」

「お線香いる?」

「一把ほど欲しいですね」

「そんな君にこれをやろう」

渡されたのは電話番号と、この国で多用されているチャットアプリのニャルグのIDが書かれたものだった。

「なんとなく君には教えておきたくなったよ」

「そうっすか。怪しいやつじゃないですよね?」

「そんなわけないじゃん。ただ、君はなんとなく話しやすいってだけだよ。それに..」

「まぁありがたくいただくとします。」

内心嬉しくて飛び跳ねそうだったのもあり、多少の裏は気にしないことにした。

ふと感じた、どこからかきた風。それは、ほんの少し甘い風だった。

「この匂い...」

「なになに?そんなに女子高生臭が嗅ぎたいとは余程の変態か、かなりの変態だなぁ」

「紳士だって言っているでしょ…じゃなくて、なんか甘ったるい匂いしません?」

「否定しないんだ...それにそんな匂いしないわよ」

「いや、絶対してますって。」

「最近の子供には女子高生のオーラは刺激的だったかぁ」

「あんたも十分最近の人でしょ」

「そうとも言えるわね」

まぁいいか。そういうことにしておこう。でもどっかで嗅いだことある香りなんだよんぁ…

「お詫びって言ったらアレですが、何か奢りますよ。」

「お家とか?」

「男子中学生のお財布でも耐えられるものにして欲しいというか…」

「半分冗談よ。じゃあ、おやつでも食べ行く?」

半分本気だったの?

「まぁそれぐらいなら」

「じゃぁデートだね」

....え?

「うそうそ。冗談だよ〜」

「はは」

冗談きついぜ。

「擬似デートだね」

やっぱデートじゃん

「そそそんなこと、いいい言ったっててててそんなにたたた高いところは奢れませんよ」

「初々しいねぇ」

「うるせぇやい」

「まぁ、商店街でも練り歩こうじゃあないか。それぐらいで許したる」

「それぐらいなら...」

どうかクラスメイトに会いませんように。

「じゃ行こっか」

「うっす」

ベンチから立ち上がり丘を下った時のことであった。

「スースースー」

...寝てる。

「少年この丘まともに下れないの?」

「流石の僕もびっくりしてますよ。今度ばかりはかつぶしもあんまり効果なさそうですね」

「変態」

「ちょっとよく思い出せないですね」

「ど変態」

「焼き鳥1本追加で」

「よく言った」

これから向かう予定の商店街で1番人気は焼き鳥屋さんとの見方が強い。そこのつくねの味と言ったらもう...

「そうじゃなくて、これどうします?」

「え?あぁそうねぇ見たところ日本人って感じもないし」

少しばかり不思議そうな顔をしていた。

「確かに」

どこかで見覚えが...

「うぅぅ。おなぁか減たぁ」

「しゃべった!?」

「しかも日本語。ちょっと発音が気になりますが」

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