第十節

校庭につくと簡単な柵で囲まれれた4つのコートがあった。

10分1試合で間5分の計3回戦の総当たりで行われるそうだ。

「俺らは4組だから、初戦は3組とか

「そのようだな」

息を切らせている三藤がいた。

「お前体力ねえなぁ」

「なんで...6階から体育棟まで..全...全力疾走して..息一つ..切らせてないんだよっ」

「そりゃまぁ、中三の夏までは毎日走り込みしてたしな」

「なんでだよっ。どうりで...持久走で汗ひとつ...かいていなかった..わけだ」

「ほんとよく見てるよな。もしかして俺に気があるのか?すまんな」

「ばかか?クラスで一言も発しないようなやつが...体力おばけだなんて...それだけで注目の的になってるんだよ」

「お、やっと息整ってきたみたいだな」

「ってか.なんで走ってたんだよ。体力お化けになるぐらい」

「言われてみればなんでだろうなぁ。強いて言えば父さんとよく外で走ってたからかな」

「へぇ。ますます土田も土田父も気になるな」

「そう?別に普通だと思うけど」

「普通だなんてそんなものは存在しないと思うが?個人的にあれほど不鮮明なものもないと思うぞ」

「まぁそれもそうか」

小さい頃から父さんに連れ出されては河原を走ってはいろんな話をした。最初はすぐ疲れるし足痛いし嫌だったが、それでも一緒に走り終わった後の達成感と食事はそれ以上だった。

何より、ぐっすり眠れるのは何にも代え難い幸せだった。


「お、土田。準備体操始まるみたいだぞ」

「ん」

にしても寒い。ほんとにジャージ着てきてよかった。

準備体操を終え、ドッジボールの準備に入った。

「なんか今日はいける気がする」

いつもは最初外野やる枠。通称“元外“に志願する自分だが今日は違った。

「お? 珍しく土田やる気出てんじゃん」

「図書カード欲しい」

「物欲ですか...」

「投げるのはあれでも避けまくればいける..筈」

「確かにドッジボールの語源は巧みにかわすみたいな感じだけど」

「そうなの!?」

「知らなかったんかい」

「てっきり当てるのがメインとばかり...」

「漢字で書くと避けるに球とかいて避球だからな」

「なら避けるが勝ちもあながち間違いではない!?」

「そうなるな。じゃ..俺が外野行くよ」

「オッケ〜後三藤以外にいきたいやついるか?」

そう発するのはこのクラスのリーダー的な..誰だっけ...

「そういうなら藤沢やれよ〜」

そうそう。藤沢君だ

「わかった。じゃあお前も巻き添えな」

「ええっ?わ..わあったよ」

この口悪いのは...まぁいいか


「3組VS4組の試合を開始します」

そう審判役の実行委員の子が言うとともにタイマーが進み始めた。

お互いに内野の人数は12人。じゃんけんで負けたから相手ボールから...

その時だった。

「痛っぁああああ」

初球でまさか顔面ヒットされるとは思わなかった。しかもこの肌寒い中で微妙に左目をかすってきたのが本当にやばかった。

「ああああああ」

「大丈夫!?」

「す..すまん」

「だ..大丈夫」

正直、あまりの痛みで左目を開けれなかった。血も出てないし、失明してるってわけでもなさそうだったからよかったけど..ほんとに当たりどころが悪かったのだが....

「な..何これ」

「珍しく声大きいと思ったら..大丈夫か?」

「...」

「珍しく声大きいと思ったら..大丈夫か?」

「いや、なんで急に2回言うし」

「言ってねぇよ」

「...」

「言ってねぇよ」

「ほらまた...」

「何言ってるんだ?」

「...」

「何言ってるんだ?」

おかしい。一回めは直接頭に響くというか....2回目の方がリアルというか

「ふぅ」

呼吸を整えて左目を開けてみるとその違和感は消えた

「どうした?急に2回言ってとか」

「..いや。なんでもない」

「そう?まぁ大丈夫そうならいいや。にしても、そんな大きい声出せたんだな」

「ああ。びっくりだ」

気になったので、もう一度左目だけ目を閉じると

「大丈夫そうだし、このまま試合再開ってことで。それでいいよな?」

「...」

「大丈夫そうだし、このまま試合再開ってことで。それでいいよな?」

「お..おう」

やっぱりそうだ。左目だけ閉じるとほんの少し未来がわかる。そして考えられる程度のラグがある。

「よしっ再開!」

「もしかして..」

あえて、左目だけ閉じてドッジボールを開始した。

すると...

「なんだろう。次に来る球のの位置が直感的だけどわかる。」

足もと。右肩。暴投。続く3球の位置も、次に当たる人の顔も、少し前にわかった。

おかげで、球に当たることはまずなさそう。

「ヤベェ。なんか気持ちぃい」

「なぁ.土田めっちゃ元気そう」

「ほんとだね三村君」

す..すごい。外野の会話まで先読みできてるっ!


5分がたった。残りの内野はうちのクラスが自分含め2人、相手側が5人と、かなりの劣勢を強いられていた。

「すげぇ。うちの土田ったらしっかり生き残ってる」

「いつ入ろうか...」

これは。逆転して狙えるかもしれない..

「図書カード。待ってて」

「やっぱいつも通りマイペース君だ」

「だねぇ」

外野がなんか親目線!?ほんとに..勘弁してって

そう心の中でほざきつつ、どこに玉が来るのかも、相手のパスミスを事前に把握できるのも相まって、負ける気はしなかった。体力的に問題もないし、決定力に欠けるものの、味方のボールを回せていた。

「ただ、このままだと人数的に負けるなぁ」

一旦呼吸を整えようと両目を見開いた。

「おい土田ぁ〜」

「な..何?み..三村君」

「三隈だ。泣くぞ?」

「も..もちろん知ってた。で、何?」

そういうことにさせてもらおう。本当にごめんなさい..

「俺ボール投げるのは得意だぞ」

「それ先言えやぁ」

別に俺が当てる必要はないじゃないか...

「おっっと」

考えてるとすかさずボールが飛んできた。

危なかった。住んでのところで左目を閉じていたおかげで避けれた。にしてもなんでわかるんだろうか...

「ってかなんで左目閉じてるし?」

どうしようか

「ってかなんで左目閉じてるし?」

この状態だとまともに会話できそうにないな...

「ん」

「え?」

決めた。多分これが最善手

「え?」

「わかった」

「それはともかく次ボール渡すから、右奥狙って」

「わかった」

まじで会話しずれぇ。

次来るのは今の足元だから...

そう見えたので、2歩下がって下に手を伸ばすように構えた。

「すげぇ」

「うしっ」

結構いい威力だった。少し手がヒリヒリする。まぁ頬ほどではないが...

「すげぇ」

「はいよっ。先行った通り狙ってみて」

「わかった」

とりあえず、ボールが自陣にある時は両目でいれるのは気が楽だった。

「ん」

「次は、パスをもらって同じとこ」

「ん」

この数十秒で見えたのはこうだ。

ボールが手元に来る。そして、右奥で敵が当たる。そのまま弾かれた球が三藤のとこに行く。

次に同じ位置で別の子が当たる。

ラグは大体7秒ってところか

「あっ」

考えを整理していると、まさかの三隈くんが『まじだぁ〜』と言いながら当てられてしまったのが見えた。

ほんとにこの目はよくわからん。

「多分次当たるよ」

「まじ?」

「うん」

さてどうしたものか

「まじだぁ〜」

あ、やっぱりそうだ。自分以外の先が見れる。というか感じ取れるのだろう。

現実で聞く方がはっきりしてるし、目に見えてわかる感じがする。

じゃなくて...このままだとまずい気が...する。

「どうしようかなぁ」

正直左目閉じっぱなしも頭痛がする...

「ふぅ」

なら結論は簡単だ。短期決戦を決めるしかない。

残り時間は100秒ちょっと。後少しで元外も来る。それまでに生き延び、3人は倒すっ!


足元。一歩引いてワンバウンドさせて捕球。相手が避けそうなところに投げ当てる。相手のボールがいくも、そのボールを回避。すぐに身を翻し捕球態勢に転じる。

補給後すかさずに、相手の動き先の足元を目掛け投げる。後一人

「いけっ」

「残り1分です」

元外野が入ってくるタイミングでパスわましで戻ってきた球を使い当てて

3人対3人で同点。

「お..おう」

「あ、三藤くん次来るから」

「お..おう」

目を開けたり閉じたり、会話が被ったりして頭はすでにいっぱいいいっぱいだった。

「あと..一人」

無事三藤も捕球し攻撃に転じる。

「おおけい」

「高めの釣り球」

「おおけい」

想像通り、釣り球を取ろうとして捕球ミス。これで逆転。

「後は、避けるだけっ」

本当にこの40秒は長かった。体感10分っといったところだろうか。神経をここまで研ぎ澄ますのなんて、楠野さんの囁きASMR聴く時以来だ。

楠野さんとは、今人気上昇中の高校生声優だ。年齢が近いのも相まってか一声でファンになった。ああぁ。尊い。

じゃなくって

「つ..疲れたぁああ」

そう言いながら校庭で大の字になっ寝っころがった。

「土田すげえじゃん。なんかこの場を支配してます感がパなかったぞ」

「ってなんだその厨二感あふれる感じは」

「いや、単純にカッコよかったってことだっての」

「お..おう」

「次も頑張ろうぜぇ」

「う..うん」

ぶっちゃけ体力はあっても心と頭の疲れは簡単に取れそうになかった。

それ以前にだ。なんだ?さっきの変な感覚。すげぇ気持ち悪い...

それに、普通に考えておかしい。今思えば昨日からおかしい気もする。

謎の少女や、変な夢。少し先の見えるような感覚。

だめだ、考えても全然まとまらない。

だが、なんかかっこいい気がするのはわかる。

「次は2組VS4組です。頑張ってください」

「やべっ次の試合はじまる」

「ここで女子チームの状況説明です。先程の試合は1組VS2組は1組の勝利。3組VS4組は熱戦の末引き分けでした。」

「そういや奥のコートは女子だったか」

「みたいだな」

「おおっ三藤。いつもぬるっと現れるな」

「おう。ってお前左目赤いぞ」

「え?まじ?」

「まじってレベルじゃねぇぞ」

どうりで、なんか左目がヒリヒリするわけだ

「まっ閉じてれば大丈夫だろ」

「そうは見えんけどな...」

「大丈夫だって」

そういって左目を閉じると、急に床が近くなったみたいだった。

「大丈夫かっ?」

「はっ」

慌てて左目を開けると少しフラフラした。

「ちょちょっと様子見たいからトイレ行ってくる」

その時だった

「あ、やっぱり...」

感じ取った通り、床が近くなっていた

「大丈夫かっ?」

「う...うん」

「保健室行くか?」

「そ..そうだな」

「すまん。ちょっと土田保健室連れてくる。先やっててくれ」

「す..すまん」

さっきの3分休憩で結構落ち着いたと思ったんだけどなぁ

「なに。気にするなって」

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