第十一節

保健室に着くと先生がいた。

どこか怪我しましたか?

「彼なんですけど..左目がすごく充血してて」

「まっとりあえず安静にしておきましょう。ものもらいってわけではなさそうね」

「あ〜さっきの試合で目にボールが掠ったみたいで」

「ぬるま湯で顔を洗っておきましょう。ありがとうね、連れてきてくれて」

「いえいえ」

「ほんとにありがと」

「おう。じゃあ先戻ってるわ」

ふぅ〜助かった。試合中に倒れると大勢に見られて恥ずかしいだろうからなぁ。

「あれ?樹じゃん」

「ああ翼崎さん」

今日はやたらと会うなぁ

「なんで保健室に?」

「救護担当だからよ」

「運動好きなのに。珍しい」

「あ〜代理よ。この時間だけどうしてもって言われたから」

「そうか。お疲れさん」

「特に何もしてないんだけどね」

「あ、ちょうどいいし翼崎さん。彼のためにぬるま湯用意してもらえるかしら」

「わかりました」

「手伝うよ」

「怪我人は安静にしてなって」

「うい」

看病されるってのもなんか小っ恥ずかしいな。

「じゃあ私一旦席離れるから。すぐ戻るからね」

「わかりました」

保健室の先生も案外忙しいんだなぁ

なんかゆっくり椅子座って生徒来た時だけ働いてるのかっと思ってた...

「はい。樹。」

「おっ、ありがとう」

「あれ?保健室の先生は?」

「用事で出るって..すぐ戻るらしいけど」

「そう..わかった」

「おう..」

「じゃあ今は二人っきりだね」

「へいへい」

「何よその冷めた態度は」

「期待したら負けってやつかと」

「はあ?」

「え?」

「二人切って小学校以来だなぁってだけよ」

「う..うん」

アニメでよく見るお約束展開からの結局は何も起こらないあれかと思ってしまった。

「にしても、ほんとに中学生はあっという間だったね」

「だね。別につまらなかったってわけでは..ないけど」

顔を洗い終わって落ち着いた。気がする。

「ん。さっきよりだいぶ良くなった顔してるわね」

「そうか?さっきの自分の顔見てないからなんとなくでしかわからんかったわ」

「一瞬引くレベルよ」

「そんなにか」

「ほんと何やってんだか」

「あはは」

「ちょっと..未来見てた」

ここで未来見てたとか言ったら絶対恥ずかしいやつだってことは言うまでもなくわかってた。だが言いたかったのだ。

「相変わらず変わったこと言うのね」

「そうか?」

ガラガラガラガラ。

扉が開いてので二人で見ると保健室の先生がいた。

「なんで、男女二人っきりの保健室で会話してるだけなのよ!?」

「え?」

「は?」

「恋に堕ちろヤァ」

「ちょっ保健室の先生が何言ってるんですか!?」

「そのまま失恋して欲しかっただけなのにぃ」

「ほんとに何言ってんのよっ!」

「翼崎さん...」

「何?」

「いえ...なんでもないです」

「そう?」

今の発言聞く限り..脈あり..なのか?

保健室の先生グッチョブ

「で..なんでそんなに病んでるんですか」

「振られたのよ..」

「あ〜はい。」

その後、馴れ初めならぬ失恋の話を聞かされた。


「あ、僕試合あるんで戻りますね!」

「わ..私もっ!」

「後、ぬるま湯ありがとうございます」

「そう..グスンッ失恋したらいつでもいらっしゃい」

「してないいっ!多分」

「何言ってるの?樹」

「な..なんでもない」

このままだと失恋の波に飲み込まれるところだった..てか卒業前に何期待してんだろう。あの人は


「おっ戻ってきた」

そう言って三藤くんがて振ってきた

「すまん、試合負けたわ」

「こっちこそ間に合わなくてすまん」

「じゃね..樹」

「おう。頑張ろうな」

軽く手を振って別れると

「やっぱできてるのか?」

「あ〜その手のやつはもうお腹いっぱいだからパス」

「はい?」

「違うってことだ」

「よくわかんねえなぁ」

「なんでだよっ」


「次の試合は1組VS4組。2組VS3組です」

「なお。さっきの女子の結果はどちらも引き分けでした」

「視界の人たちは参加しないのかなぁ」

「あ〜多分種目ごとに分けてるんだと思うぞ」

「なるほど」

「で、次の試合は行けそうか」

「もちろん。図書カードのためには負けられない」

「おう。元気そうで何よりだ」

「ところで、保健室の先生はなんか言ってたか?」

「なんかって?」

「あの運びにきてくれた子なかなかいいじゃない!みたいな」

「特に...」

「一言も?」

「むしろ、失恋話聞かされた」

「ってことはまだ可能性あるか」

「なんのだよ」

「めっちゃ美人じゃん?」

「まぁ..多分」

性格に難ありって感じだけれど..

「一緒にお茶したいなぁって」

「はぁ」

「付き合いたいとかは?」

「特にないかな」

「お前変わってるなぁ」

「それお前が言うか?」

「え?」

「やめやめ。この話は」

「お..おう」

一周回って似たもの同士ってことか?別段自分が変わっているとは思わないが...

「次の試合もなんかわかるのか?」

「なんかって?」

「さっき右とか当たるとか言ってたから」

「あれは..勘っていうか、少し先の出来事に気づけるっていうか」

「はぁ..」

「俺もよくわかんないんだよ」

「というと?」

「自分だけはわからないっていうか...」

「うん?」

「とにかく、気持ち悪いっていうか、掴みにくい何かなんだって」

「ほほう..?」

「妙に食いつくな」

「なんか面白そうな匂いするからな」

「アロマ検定士すげぇ...」

「だろ〜。まぁアロマ検定ってのは嘘だが」

「今更嘘だったなんて...どっちを信じたらいいのやら」

「ハハハ」

ほんとに掴みづらい人だなぁ...気持ち悪いわけじゃないんだけどさ。


「よしっ行くか」

予想どうりジャンケンは味方が負けた。まぁ何出すかわかっていたけれど、多分同じような結果になっていただろう。

自分に対するものには立ち回れる。また、発言によって影響が他者に及ぶが、その結果も既に反映されて感じる。ラグは結構ガバガバで、会話するのには向かない。めっちゃ頭使う。

ざっくり言うとこんなところなのだろう。

「土田くん。目大丈夫?」

「お...おう」

とりあえず、普段は両目で対応。時折り左目を閉じて体に感覚を馴染ませる。

残り1分近くなったら常時片目で行こう。

「おっと」

試合は初戦と似たような流れで進んでいった。


「佐川っ」

「白熱のドッチボール。試合も大詰め。選手たちのおでこも汗で輝いている!

さぁこの戦いに終止符を打つのはいやぶつけるのは誰だぁ〜!?」

急に司会本気出すじゃん。すげぇ調子狂ったわ

「土田。お前の球はそんなものかっ!?」

先読みして避けるのは簡単でも、当てるのは至難のわざだ。いいとこ投げても撮られてしまう

「いや..司会の熱量が..」

「おっとぉ〜。早くも2組vs3組は決着がついたぞ〜。はてさて、1組VS4組。こちらの試合の結末はいかに!?」

「だ..だな..まぁいい。次はもっと本気でっ」

「なんで取れる前提だよっ」

「長い付き合いだからだ」

「そうだけどもっ」

「この二人。熱い言葉を交差させながらも、彼らの投げる一球一球に魂をかんじますっ。これは目が離せない!」

「懐かしいっなぁ」

この会話の中で、も投げ合いが続いた。

「あ〜もうすげえ調子狂う」

「なんか土田雰囲気変わったな〜」

「一足先に高校生デビューか?」

「ってかあの佐川と仲良かったんだな」

「確かに〜」

司会と外野が精神的に攻撃してくる。これはわかってても回避できない...

「にしてもそうだなっ」

中学の間はお互いに謎の距離感があった。

「俺もっ何か話そうと思っても..うまくいかんかったわ」

「同じくっ」

「ところでさ、今日のお前はなんか昔みたいだな」

「急に何さ」

「なんとなくだ。少し若返った気分だ」

「なんでだよっ。ってかまだ15だろ」

「一体何を話してるのかぁ〜。なんだか二人だけの世界が構築されていってますっ。」

「ふうっ。次で決める」

「おう。こいっ!」

時間があと1分を切った。zと1分全力で動けばっ。

「佐川っ!」

「ってどこに投げてんだ〜」

「あ、地面に焼き芋っ!」

「え?」

「今だ!三藤くん」

「よしきた〜」

「痛っ」

ガラ空きになった背中に三藤が投げたボールで当てた。

「ひ..卑怯ダァ」

「昔から変わってないって言うから...」

「にしてもさぁ」

「僕だって成長するのだよ」

「おっと..」

相手ボールになってしまったが難なく補給。

残り45秒で、3vs2。まだ、三藤くんが外野にいるから実質4対2

「すまねぇ」

「佐川どんまい」

「しゃーなしだって」

あっちの外野はなんか優しさが飛び交ってるというのに..

「あれほんとに土田か?」

「小学校の時あんな感じ..でもなかったような」

「なんかあったのか?」

なんか心配が痛い。自分でもそう思う節があるからこそ一層刺さる...

「後30秒です。頑張ってください」

「急にテンション戻るやん」

再び左目を閉じ

「あとは適当にパス回しして...」

「甘いっ!」

「見えているからこそ全力で!」

「甘いっ!んなっ!?」

今度はラグなく想像できた。無理に外野から飛び出した佐川の手に思いっきり当たり、弾いた。

「三藤くんっ!」

「任せろ」

パスボールを取りに行った敵の子に届くことなく、逆に前に出てきたところを三藤くんが仕留めた。

「勝者4組。お疲れ様でした。」

ふぅ〜。やと終わった。でも今回はそこまで疲れなかったな。

ひと段落つこうと人工芝でくつろいでいると

「土田ぁあああああー」

「うわっなんだよ佐川。」

「なぁ下の名前覚えてるか?」

「恒己だろ?なんだよ彼女みたいな質問して」

「う..嘘だろ?土田が他人の名前を覚えてるなんて」

「知ってるわ!」

「俺のは?」

ガヤ..外野..なんだろう...まぁいいか

「じゃあ逆に俺の名前当ててみろよ..恒己」

なんか今更下の名前ってこそばゆい...

「樹だろ?ってか返事しなくていいの?」

「あーうん。まぁ..ね?」

「あの佐川くんに名前覚えてもらってるなんて羨ましい..」

ん?なぜに佐川はVIP扱い?

「もちろん僕だってみんなの名前知ってるよ」

「おい。お前さんそんなキャラだったか?」

なんかキラキラした瞳で優しさ振り撒いちゃう顔していた。

「ん?違うよ?気がつくとなってた」

「なんなんだよっ」

「っしゃあ〜佐川くんに名前覚えてもらってるっていう言質とった〜」

ん?

「にしても、佐川くんって、そんなにも、慕われていらっしゃるようで?」

「さぁ...」

「まさか..女子にも同じ感じか?」

「まぁ...」

あの司会の元気っぷりはこいつかぁ...

「おっ土田が他のやつと話してるのって珍しいな」

「あ、三藤」

「あ〜俺の背中襲ったやつ」

「そういうお前はどこかで...」

「まぁ同級生だしどこかであってるんじゃ...」

「ああ〜星ヶ咲高の受験会場か」

「お前もかよ」

「そうだよ〜。まぁ俺は知ってたんだけどね」

「なんで?」

「隣だったし...」

「なんか..ごめん..」

「あ、でも空ヶ咲に行くんだよね〜」

「え?」

「緊張しちゃったからか星ヶ咲落ちちゃって...」

「あらまぁ...」」

「にしてもさ土田変わった..いや戻った?ね」

「そうなのか?」

「こいつ、昔はもっとアグレッシブだったからね?さっきみたいに」

「へぇ〜」

「中学入ってから落ち着いたって感じだな」

「よく見てたんだなぁ」

「正直、お互い話さなくなってはいたけど気にはなってたからな」

「そっちの気があるのか?」

「ちょっと何言ってるのかわかんないですね...」

久しぶりに話せてなんだか嬉しかった。

「次のゲーム開始時刻は9時40分です。各地方を温め待機しておいてください」

次は..野球か。よく父さんと見てたなぁ

「なぁ樹って野球得意か?」

「どうだろ...一通りルールは知ってる程度には好きかな」

「すごっ。野球って結構難しいんじゃないの?」

「まぁ小さい時よく見てたから」

「へ〜。そんな趣味が...」

「恒己はないの?」

「どっちかというとサッカーかな」

「知らんかったわぁ」

「だろうな。ハマったの中学だし」

「サッカー部だっけ?」

「いや。○碁サッカー部」

「へ〜...え?」

「ん?」

「アニメ見るタイプだっけ?」

「たまには見るけど...」

「○常っていうのご存知だったりする?」

「存じないかなぁ」

まさかそういう部活がうちの学校にあったとは…

「ちなみに作ったの俺」

「部員数は?」

「俺入れて..6人」

「試合できないじゃんっ!てか思ったより部員いるじゃんか」

「全国大会決勝まで行った」

「もうよくわかんねぇよ」

「そうか?」

「そういや三藤ってなんか部活入ってたっけ?」

「俺?土田と同じ部活だが?」

「んん?」

「き・た・く・部」

「あぁ〜なるほど」

そろそろ野球の開始時間か

「じゃ、またな恒己」

「おう」

「なぁ土田」

「何? 三藤くん」

「そろそろ俺も下の名前でもいいんだぞ」

「あ〜さっきから少し複雑そうな顔してたのってそういうわけね...下の名前なんだっけ」

「す..奨」

「じゃあ奨。俺のことも下の名前で呼んで」

「お...おう。樹」

「出来立てのカップルかよ」

「下の名前で呼んでくれるの漁師hんだけだったから」

「結構な人気者なのに?」

「クラスで話す人は多いけど....一緒に遊んだことあるやついないからな」

「意外っ!」

「俺としては樹と佐川くんが仲良かった方に驚きだわ」

「そうだよね...俺友達いなそうだもんね...」

「あ、すまん...」

「否定しろよぉ」

「...や..野球楽しみだな」

あ、逃げた

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