第八節

「ほんとにこの二日間いろいろありすぎました」

「そう?」

「はい。でも、まだまだ続きそうですね」

「あら、君がそういうならそいうなんでしょうね」

「何で僕の感が割といいかもしれない疑惑知ってるんですか?」

「え〜見ればわかるよ」

「ほんとに、最近の若い人はハイスペック過ぎですね」

「一応君も最近の人だよね?」

「まぁ年齢で言えばそうかもしれませんが、もう老いを感じますよ」

「年齢以外も..ね」

「え?年齢以外も老けてるってことっすか?」

「いやいやそうじゃなくて、むしろ年齢で言うなら他よりも若い部類になるはずだろ?」

「そりゃまあそうでしょうけど、とは言っても1年ぐらいしか変わらないですよね?」

「精神的にはそうかもねぇ」

「...そうですか」

よくわからなかった。生まれたのも一年ぐらいしか変わらなさそうなのに、精神的なものだけがそうってことだろうか。

「まぁ。今のモヤモヤもそのうちわかると思うからさっ!」

そう言って肩を叩かれた。

「え」

そう言いつつ振り向こうとしたら彼女の指が頬に刺さった。

「えへっ。引っかかったぁ」

「んな子供な」

「おうおう。童心にもたまには帰りたくなるのさ。」

「はいはい。」

指先からもいい匂いしたぁ。

「ねぇ、今いい気分だったでしょ」

「どんだけ男子中学生の心覗き見るんですかぁ。もう」

「ありゃ、バレちったか」

「バレるもなにも...あ」

「え?なになに?そんなにドキドキしちゃって」

「なんでしょう。いやなんでもないですよ?ほんとに」

ふと、前の方に目線をやると日中学校で会っていた翼崎さんがいた。

「樹くん?こんなところで珍しい」

「や..やぁ翼崎さん」

「ここからは若いお二人で楽しめい!じゃあな〜!」

「あ、鷺宮さん。」

なんか言おうかと思ったが特に何も思いつかなかった。ってか、この人の王道はほんと読めない。

「へ〜さっきの人、鷺宮さんっていうんだ」

「そう。昨日なんかあって、色々あって今に至ってます。」

「へぇ〜。ほんとに樹くんが女子高生様?とねぇ...年上派?」

「なんでそうなる」

「えーだって。なんか昨日から樹、少し変わったから」

「いや、変えたのは...」

お前が〜なんていうのは野暮だろうか。

「え?なになに?」

「色々あって、これからお父さん探しに行くことになった」

「婚約の許可取りに行くの?」

「違うよ?そんなにくっつけたいの?」

「んなわけ..ないじゃない」

「そう?まぁ、お父さん見つけないとならない用事ができちゃって」

「なにそれ、面白そう」

「おもしろかねーよ。中学入ってから一回も会えてないし」

「中学かぁ。そういやさ、あんまり樹と話せなかったね」

「1、2年は学年違ったし、3年は受験だったしな」

というより、小学校から一緒で中学校も一緒だとはいえ話してたのは小3ぐらいまでだろうか

「で、樹どこ高行くことにしたの?」

「星ヶ咲高校」

「へぇ〜私、空ヶ咲高だから隣じゃん」

この近くには学園都市が形成されており、二つの高校と一つの大学と幼稚園が隣接し、行事などで共同になったり、近く合併する説があったりと割と親密な関係の高校同士だ。

「そっか、流石に高校まで一緒ではなかったね」

「一緒に中学受験して、落ちた仲だったもんね。でもさ、行事とかは一緒になるかもね」

「っすね。あの時は二人の得意教科教えあったりしてましたしね」

星ヶ咲と空ヶ咲、どちらも名門進学校なのだが、大きく違うのは理系と文系どちらが得意であるかというところである。

「にしても、気がつくと得意教科が入れ替わったのは今でも謎だわ」

「そうでしたね、もともと、算数とか理科の方が得意だったのになんでだか」

「あ、でも英語は今でも苦手そうね」

「お互いさまだと思うんだけど,…」

「うっさい」

「もう一つ気になるとすれば器用なくせに家庭科だけはからっきしなのな」

「というかなんで不器用なあんたの方が料理得意なのよ」

「できない方が不思議やわぁ」

「はぁ?ってかなんで私の苦手なことまで知ってんのよ」

「ちょ..それをいうなら俺お前に作ったことあるのフレンチトーストぐらいだろ?なんで料理好きなの知ってんだよ」

「...知らないわよ。」

「は?」

「知らないって言ったら知らないんだっての」

「お..俺だって知らないし」

「でも、」

「ん?」

「運動会の時くれたフレンチトースト美味しかった」

「お..おう。また今度レベルアップしたの作ってやんよ」

「ほんと?楽しみにしてる」

よし、帰ったら作る練習しよう。

「でもさ、急に話するようになったら案外いつも通りって感じがするものね」

「だな。昨日美術室で二人きりになって、絵の具貸したら急に彼氏作らない宣言するんだもんな」

普通考えると身勝手というか、よくわかんない出来事だ。

「いや...なんか話そうと思ったらそれしか出てこなかったから」

「それにしてもびっくりしたわ」

「だって、もう話す機会も少なくなっちゃったと思うと..ついそんなことも言いたくなるのよ」

「そうか...」

「それにほら、この時期って別れるカップルも多いっていうか、そんな感じの友達もいたからっていうか...なんか出てきたのよ」

「お...おう...どうせ俺は大学行っても出来なさそうだけどな。っというか大学いけるかな」

「樹くんは誰でもいいから彼女欲しいとか思うの」

「んなわけなかろう。というか仲良くて話しやすいと思えないと多分無理だろうな」

「と言いますと?」

「知っての通り、俺は話すのはあんまり得意ではないからな」

「私とは、結構喋れてると思うけど?」

「...翼崎は話しやすい。」

「へぇ〜。そっか」

「なんだその意味深な笑みは?」

「え〜なんでもないよ」

「いやあるだろっ」

「まぁさ、なんやかんや樹とは話しやすいし私的に唯一話せる男子だし?」

「...おう」

「高校に行ってもたまには話にきてね」

「その時、化学とか教えてもらってもいいか?」

「もちろんよ。代わりに古典は教えてね」

「任せとけ」

「じゃ...また明日」

「また明日な」

あぁぁ。すげぇ経験値貯まった気がするわ。ってかあの時のあれ、間接的に告白してんじゃね...

「言っちまったぁぁぁ」

とは言っても、高校が近くでたまに一緒になることもあると思うと嬉しいな。

帰ったら古典の勉強は..まあいいとして、フレンチトースト、それと焼き鳥屋さんでもらったタレを活かして鳥の混ぜご飯...今日の充実具合、半端ねぇな。


「ただいまぁ」

「おかえりぃ〜。鳥とバターとフライパンは出しといたから、私寝るね。」

「なに?僕の心って盗聴されやすいの?」

「おやすみぃ」

「へいへい。」

待て待て、鷺宮さんのといい今のといい僕の心の声漏れてたりするのか..?


「言い忘れたんだけど、完成したら起こしてね。私も食べたい」

「わかった」

「んじゃ」

「どんだけ寝るんだよ」

飯どきとか、たまに学校行事の時は起きて来ることもあったが、ここ数年は前以上に寝ている気がする。体調でも悪いのだろうか

「とびきり美味しいのを作って、元気になってもらうか」

まずはご飯を研いで、人参やら葱やらを切り最後に鳥を一口大に切る。

ご飯を入れた炊飯器の中に具材を入れ、タレを入れた後水を入れる。

「鳥混ぜご飯はこれで終わり。次はフレンチトーストだな」

棚の上からフランスパンを取り出し、厚さ2センチぐらいにカットする。

両端はラスク風に焼くと美味しいから使わず、次に漬け込むタレを作る。

牛乳をコップいっぱいぐらいと卵一個、その中に砂糖を入れる。

よく混ぜたらフランスパンを入れ、中までタレを浸透させる。

一度全部入れておき、フライパンにバターを入れて点火。

バターが全体に広がったらタレが染み込んだフランスパンを投入。

後は狐色になりそうなぐらいでひっくり返し再び焼く。

「この作り方お父さんに教わったんだっけな」

いつも変な服着ていた。白衣とか軍服とか水着とか..

「ブラックボックスか」

幸いにも明日は球技大会でいつもより帰るのが早くなる予定だ。

「やっぱ行ってみるって言うか」

お、両面とも綺麗な黄金色になった。小さい時はなかなか綺麗にいかなかったからなぁ

♪〜

鳥混ぜご飯もナイスタイミング。早炊きにして正解だったかな。

適当に野菜も切って、盛り付けフレンチトーストは大きいお皿に広げた。

二人分のコップに水を入れナイフとフォークを置く。横に蜂蜜を満たした専用のディスペンサーを置いておき、母さんを起こした。

「あら、良い匂いね。前に作った時より美味しそうにできてる」

「鳥混ぜご飯も美味しくできたよ」

「そのようね。では、いただきます」

「いただきます」

焼き鳥屋さんのタレのおかげか、給食で出てくる混ぜご飯よりも美味しい。

「香りといい、味の深みといいとっても美味しいわ」

「そう?焼き鳥屋さんのタレさまさまだな」

「あら、もう食べ終わっちゃたわ。ではお待ちかねフレンチトーストね」

まだ温かいであろうフレンチトーストに蜂蜜を垂らし、さらに美しい黄金色になった。

「この見た目、もうお父さんを超えたんじゃないかしら」

「そうかな?まぁ肝心なのは味だから」

「ん〜美味しい」

「そう?よかった」

「うん。とっても美味しいわ。これはお店出せるレベルよ」

「就職できなかったらそうしようかな」

「うんうん。鳥のご飯といい、フレンチトーストといい。ほんと料理上手くなったね」

「おう。家庭科の成績はいつもいいからな」

「うんうん。さすが私の息子ね」

「あのさ、お父さんを探そうと思う」

「そう。やっぱりそうなのね」

「なんで知ってたような口ぶりなの?」

「その答えお父さんに会って話せばわかるわ」

「そう...わかった」

「大丈夫、明日にでも会えるわ」

「母さんがそう言うなら...多分会えるんだろうね」

「今日は早く寝なさい。なんなら添い寝してあげようか?」

「とっとと風呂入って自室で寝ます」

「あらそう?ならいいわ」

「ご馳走様でした」

「今日はいっくん作ってくれたし、洗い物ぐらいは私がするわ」

「ありがと」

「ん。まぁゆっくり考えることね」

「そうする。あ、明日球技大会なんだけどスポドリあったっけ?」

「冷凍庫に凍らしたのがあるよ。明日の球技大会頑張るんだぞ、いっくん」

「わかったって。お母さんも早く体調良くなるようにね」

「心配かけちゃってたみたいね。大丈夫、お母さん元気だから」

「そう?なら良いけど。でも、寝過ぎても疲れるだろうからほどほどにね」

「ん。たまには図書館にでも行ってみるかな」

「それがいいんじゃない?近くにできた図書館、結構静かで良いよ」

「そう?今度行ってみるわ」

「じゃ、明日の準備でもして風呂入ってくる」

「はい。おやすみなさい」

「うん、おやすみ。ってまた寝るんかい」

「眠らなきゃいけないからね」

「せめて歯は磨いて寝てね」

「はーい」

どっちが母親なのか文面にするとわかんなくなりそうだな。

「明日はスポドリと着替えぐらいか。あと、タオルも2、3枚いいやつ持ってこ」

いつものかばんに明日の荷物を入れ、念のために湿布と救急セットを入れた。

小さい頃からよく転けて膝を擦り剥くことがあったのもあり、消毒液とか絆創膏とか入ってる救急セットはどこに行く時も常備していたからだろう。逆に持ってないと不安になる。

「少しして腹も治った、風呂入ろうかな」

「ぐーぐースピー」

「また寝ちゃった。ほんとネナちゃんもだけどよく寝るなぁ。」

まぁ、自分も寝落ちする事が多い人である自覚はあるが...

「母さんみたいに大人になっても夢って見るもんなのかな」

今度聞いてみよう。...夢?そういえば今日変な夢を見た気がする。

薄桃色の少し銀が入ったような髪色。寝込んでいる少女。そんな夢を見た気がする。

「疲れてるのかな...早く風呂入ろ」

シャワーをして湯船に浸かるとさっきまでの有耶無耶が嘘みたいにスッキリした。

「母さんも有耶無耶は父さんに聞けば解決って言ってたし考えるのやめよ」

結論何も考えずに寝ればなんとかなる。悩みなんてだいたいそんなもんでいいんだと思う。

暖かめのパジャマを着て明日着る体操着を枕元に置き葉を磨いた。

「おやすみ。母さん」

そう言って消灯し、ベットインした。

「なんだろう..頭上からいい匂いする...体操着と一緒に置いておいたジャージからだろうか...」

いい夢見れそうだ。

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