第七節
「でね、その地図を頼りに行ってみるの」
「ほうほう」
「で、探していた扉を見つけるんだけど、開けようと手をかけたその時!」
「その時?」
「続きはCM2の後で」
「そんなぁ」
「なに、愛しのドッくん人形を目にも止まらぬ速さで取ったるから見てなさいって」
「は、はぁ」
「ほら、ぬいぐるみにアーム触れたわよ!さすが私ね」
「タグはどうしたんですか?」
「なんかね、ずるいかなぁって」
「...そ..そうですね!」
「でね、扉を開けようとした兄の目の前に1人の男が現れたの。あ、女の子も一緒にね」
「その男の名前がヒロシってとこでしょうか?」
「ほぼ正解よ。というか、その男の名がドタヒロシなのよ」
「名前だけでなく苗字も一緒。でも、苗字が一緒ってだけでよく僕の父が土田普だと言い切れましたね」
「それはね、この話の続きが関係しているのよ」
「そ…それは興味深いですな」
「でしょぉ」
「はい」
「じゃぁ続けるわね」
その続きはこうだ。ドタヒロシと名乗る男に会った王女の兄は、その人かそれとも別の何かかと思われる存在に対して助けを求めた。そして、その王女の元に向かった。
その、ヒロシという者は王女の容態を見てすぐに理由がわかった。
でも、それを治すためには薬が必要であるということも。
だから、その薬を届ける代わりにこの国で先生をしたいとそう頼んだのだ。
『それに、この世界のことに興味があるからだ』
ただそれだけ言った。
「で、その話のどこに僕と、僕の父の関係を見出す要素があるっていうんです?それにその話方だと、僕が知りもしないような世界線ぽいんですが」
「まぁおとぎ話みたいなもんだし、多少盛って伝わってるだろうからね。でも安心して、しっかりと続きがあるわ」
どうせ、扉っていうのは空港で薬が必要ってのは、多分お金がなくて、学生なのに見ただけで病気がわかるだなんて、どうせ風邪かなんかなのだろう。
「それでも、お姫様のお兄さんが困惑した顔をしてたのね。それに気づいたその人はなんて答えたと思う?」
「...想像もつきません」
『いつかできるかもしれない子供に見せたいほど、面白い。少なくとも、僕が今いるところよりもね』
「彼はそう言ったそうよ」
「そのできるかもしれない子供が、僕っていう証拠は?」
「それは、彼にできる未来の妻が言っているわ」
「つまりは、僕のお母さんってことですか」
「細かくは言えない。でも、一つ言えることは彼にできる子供は樹にするってことがその物語の最後に書いてあるの」
「そこまでの流れってのが1番大事そうじゃないですか」
「その通りなのだけれど..ね」
「言えないってことですか」
「言えないんじゃなくて、私も知らないの」
「知らないと、言えないはちょっと違うと思うのですが」
「言えない理由は知っている。そういうことよ」
「な..なるほど」
「でね、そのお話にはあとがきがあるの」
「そんなメルヘンチックそうな本にもあとがきがあるんですね」
「樹の名は枝分かれしていく未来を楽しめるようにっていうのと」
「のと?」
「多分、樹懶(ナマケモノ)みたいになるからっていう理由らしいよ」
「ナマケモノ...俺というより母さんじゃないか」
「あら、怠け者の節句働きっていうぐらいだし、君の知らないところで頑張っているのかもよ?」
「えぇぇ。いや、寝ているか料理しているのしか見たことないんだけどなぁ」
「とりあえず、私がお母さんに聞かせてもらってた『ヒロシ先生の秘密の冒険譚』っていうお話はこんなところよ」
「すごい名前のお話ですね」
「このタイトル考えた人の顔が見てみたいと思うわ」
...クシュッ。どこかで誰かがくしゃみをした気がした。
「僕のお父さんがなぜかそちらの国の伝承になってる可能性があるとして、僕ここ3年ほど父に会ってないんですけど」
「え?」
「あ、目撃情報?はあるっちゃあるんですけど...」
「まぁ、その情報を手がかりに探してみることね」
「そうですね。こんなこと言っていいかわからないんですけど」
「ななな..なんのことだい?」
「熱弁している裏でちゃっかり500円入れて、挙げ句、全部ぬいぐるみに擦りもしないなんて逆に才能あると思いますよ」
「だって、ドッくんぬいぐるみをネナちゃんにあげたいじゃない」
「すごくわかります。僕もプレゼントしてお兄ちゃんありがとうって言ってもらいたいですよ」
「う..うわぁ」
両手で口元をおさえ目を細めてきた。
「冗談ですよ。冗談。全く先輩は間に受けっちゃってぇ」
「ははは...冗談か、冗談ねぇ...」
「そんなことより、このままじゃ埒が開きませんよ」
「そうねぇ。どうしよう」
これは本格的に困った。当時た額が額なだけに引きたくもない。
かと言って、このまま散財するってのも限度があるし。
「ふっふっふ。お困りのようだねなっちゃん!」
「その声はまさか!?」
「そう。私はうゆゆ。なっちゃんの彼女よ」
「よくきてくれたわね。私の大事な友達のうゆゆ」
「なに。君がお困りならどこからでも駆けつけるさ」
「そうね。次にうゆゆから困ったことがあれば助けを求めるわ」
「んな!?」
「半分冗談よ。ところで、あなたゲームセンターとかでやったことあるの?」
「当たり前じゃない。だって、私はこの商店街で育っているようなものよ?」
「なら期待していいのね」
「え?フラグ...」
「少年。手持ちゼロだから、100円だけ頂戴。後でこのぬいぐるみと一緒に返すから」
「まぁ、いいですけど」
「やったるでぇ〜」
ゴクリ。
「ふむふむ。見えたわよ!か・ち・す・じ」
「す..すごい。なんか凄そうだ」
「はぁぁあっ!」
♪♪♪♪ゲームセンター中に景品獲得のBGMが鳴った。
「やるじゃん」
「何年私が通ってきたと思ってんのさ〜」
「かっこいい。惚れちゃいますね」
「ありがと。通いすぎて、私この店で取っていい数が月に3つまでって制限されてるほどよ」
「プロじゃないですか」
「うゆゆにそんな才能があったとは」
「いやぁ。照れちゃいますな〜」
何だろう。サラッと来てカッコよく景品を取り、それでもなお、取ることを楽しんでいる。憧れるなぁ
「はい少年。これ景品ね」
「おぉぉ。ありがとうございます!きっとネナちゃん喜んでくれるだろうなぁ」
「なら、私もなんか取ってこうかな」
「おぉ〜」
「すまんが少年もう100円貸してくれないかい?」
意気揚々に肩慣らしをする明日井さん。
きっと楽しくて仕方ないのだろう。
「はい!いいですよ」
「ちょっと土くん。この状態のうゆゆは危険よ」
「何が危険だっていうんですか?」
「見てなさい」
何でだろう?どれ狙うか迷ってるように見えるけど...
「どれにしよっかなぁ」
「もしかして、コンビニとか行くとどれにしようか結構考えるタイプですか?」
「ええ〜そうかなぁ。直感で行くから3分ぐらいだとは思うけど」
今の彼女にどんな危険があるというのだろうか...
「よし少年。これにしようと思うんだ」
「こ...これは!」
明日井さんが指さした先には、イロイロのヒロインと一緒にいる人工知能ネコのまるっとぬいぐるみがあった。
「この猫可愛いね」
「あぁーイロイロの猫ちゃんじゃん」
やっぱり、鷺宮さんも知ってるとは…
「へー有名猫さまなのかぁ。名前は?」
「それがね、まだわかってないよの」
「吾輩は猫である。名前はまだないってことですかい」
「せやでぇ」
「じゃぁいきますか」
なんだ。全く危険そうじゃないじゃないか。
「ふむふむ。これなら目を瞑ってもいけるわね」
んん?
「はじまったわ。うゆゆ、すぐ調子乗っちゃうのよ」
「まぁ目を瞑るぐらいなら、危険にはならないでしょ」
「ちょっと離れてなさい」
「はい?」
ほんの一瞬、感覚的なものだが。いいことがある気がした。
「じゃぁ」
大きく息を吸った明日井さん。
「いっきま〜す!」
バッチーン
「痛ぁっ」
彼女が思い切り叩いたのは狙いのボタンからずれて、ゲーム台付属のスピーカーのフレームだった。
「え?ちょ...」
彼女がのたうち回った果てに、鷺宮さんのスカートを掴む明日井さん。きっと鷺宮さんのスカートには何かの引力があるのだろう。
「あ、ちょ、ひっぱんな!うゆゆぅ〜」
「あぁ〜ひんやりして落ち着くわ〜」
言ってることと動きに大きな違いが生じているのですが。
「ちょ。離してよぉ〜。そんな力入れちゃうと..」
「あ」
「え?貸してくれんの?優しいなぁなっちゃんは」
ものの10秒もかからない間に、目を閉じたままのたうち回り続けた明日井さん。
「ふぅ〜。目を開けて歯を食い縛りなさい」
その前にはブレザーを腰から巻いている鷺宮さんがいた。
「え?」
目を見開き、半分冷や汗をかきつつ、ニヤニヤしている明日井さん
「偶然、ブレザーを腰から巻いていたからギリよかったもののっ」
そう言ってデコピンする鷺宮さん。
「返しなさいっ!それと、調子乗らない!」
昨日の一件のせいもあり、直したてのスカートだったのだろう。
昨日のような状態で、デコピンの痛みでおでこを抑えつつ、それに顔を近づける明日井さんの手に収まっていた。
「匂いでも嗅いだりなんかしたら怒るわよ?ただでさえ、昨日からスカートがボロボロなんだから」
「ほほう。その話だと昨日も同じようなことがあったようで」
「うるさい。返せっつうの」
悔しそうな顔をしながら、明日井さんは鷺宮さんにそれを返した。
だが...
「ねぇうゆゆ。スカートがとうとう壊れちゃったんだけど」
「….さなさま。パフェタダ券でどうでしょうか」
「3枚ね」
「仰せのままに」
流水の如く美しい土下座と、店の制服と思われるエプロンのポッケから取り出した紙に、手書きでタダ券を書いたものを渡していた。
「鷺宮さんのスカートなんかの引力があるんでしょうかね」
「んん?カフェ代チャラになるかどうか、よ〜く考えること。いい?」
「あぁなっちゃん。少年には優しい。」
差別だぁ〜と言わんばかりにこちらを睨んでくる明日井さん...あんまり怖くはない。どちらかというとですね…
「少年のは不慮の事故だったから。それに中学生からたかるのもあれでしょ?」
「どんな事故があったていうの!?」
「ひっ..ひ秘密よ秘密。恥ずかしくて言えるわけないじゃない」
「エ?ハズカシイ?イエナイコト?」
「そうよ。それと少年、その時のこと思い出そうとしなくていいから」
ぐきっ。
「エスパー...」
「そうね。近からず遠からずってところかしら」
「なっちゃん、いつも私が思ってること言い当てるんだもん」
「やっぱりそうですよね」
「見ればわかるでしょ。普通」
「わからないですよ」「わっかんないよ」
明日井さんと僕は思わず息ぴったりの展開であった。
それから、ぬいぐるみ二つを持って喫茶店に戻った。
「ネナちゃん?!」
眠っているが少し顰めっ面というか、小声だが寝声も聞こえる。
「そうゆうこと?うゆゆ」
「2人がどっか行ったあと、ネナちゃんと2人で話をしていたんだけど」
「それで?」
「急にびくってなって、『思い出した』って言ってその後よくわかんないことぶつぶつ言ってたわ」
「それで私たちを呼びに来たわけね」
「...そう」
とりあえず、ネナちゃんを寝かしつつ冷えないように汗をタオルでとった。
「なぜそれを先に言わないの!」
「言い出すタイミングなくて」
「調子乗って2個目とか行ったうえに忘れてたんでしょ?」
「ごめん。本当にごめん。私にできることなんでもするから」
僕たちが来たからか、すぐにネナちゃんは落ち着きを取り戻しスヤスヤ言い始めた
「ほんとに、大ごとになってたら大変なんだよ?それに、電話してくれてもよかったのに」
「それなんだけど、私なっちゃんに5回は電話したよ」
「え?」
急にしゅんとしてしまった鷺宮さん
「あの〜」
「なに?」
「2人の責任ってことで、責任持って当分の間ネナちゃんを預かって欲しいというか..その間に僕はお父さんを探すので」
「もちろんよ。全財産を持ってもてなすわ」
「はい!少年。」
「何でしょう、明日井さん」
「預かれるっていうのはむしろ嬉しい話なんだけど、預かる理由っていうのが知りたいんだけど..」
「それについては私から話すわ」
そう言い、僕に話したことをそっくりそのまま鷺宮さんは話した。
「なるほど。つまりは、異国の地から来た子となっちゃんの知っている御伽噺みたいなものの登場する子、少年に関係がありそうで、異国の地に返してあげるまでは預かればいいってことね?」
「そうよ。うゆゆ、理解力は高いのに行動がおバカちゃんなのよね」
「ねぇ、それって褒めてる?貶してる?」
「まぁ、多分褒めてるわ。」
理解力があるならわかってるんじゃ?という野暮な疑問はやめてくことにしよう
「そうと決まれば...」
「まずは資金集めね」
「え〜パーティーじゃないの?」
「それもしたいところだけど、やっぱりネナちゃんと当分過ごす予定だし、まぁ、ネナちゃんが嫌だって言えばまた話は変わっちゃうけど」
「それもそうですね。とりあえず起きるまでは当分の予定を決めましょうよ」
「賛成ね。資金は私とうゆゆが集めるためにも、ここでバイトするわ」
「やったぁ!じゃあお父さんに言ってくるね」
「待って!それともう一つ。」
「え?」
「どこで寝なちゃんが過ごすかについてよ」
「それならいっそ、ネナちゃんが良ければ3人でここで働きつつここに住むといい」
「お父さん!?いつの間に...」
「ありがとうございます。うゆゆのお父さん」
「いいってことよ。とは言っても、ネナちゃんがなんていうかによるけどねぇ」
「そうですね」
正直、ネナちゃんでなければ即刻警察沙汰にしていただろう。でも、何かが引っかかっていてそれをしたくはなかった。だから、起きたネナちゃんがここにいたくないって言われるのが怖い。
「うゆゆの家って全員理解力が鬼高いのかしらね」
「明日井家恐るべし...」
「なに。長年の勘ってやつよ。それにチラホラ話を聞いておったら、ネナちゃん住むところがないみたいだからのぉ」
不法滞在というわけでもないし、どちらかというと..迷子?ってことになるのかな。
「では、ネナちゃんが目覚めるのを待つ間にパフェでも食べますか。タダ券もあることだし」
「何だって?」
「お父様。今度立て替えさせていただくので、なにも聞かずになっちゃんたち3人にパフェをお願いします。それと、200円も貸してください。」
「いいだろう。ただ、今年一年はゲームセンターに行かないように。」
「...はい」
すごい理解力というか推理力だ。ここまでアグレッシブな明日井さんをここまでしゅんとさせるなんて。
それから15分ほどしてパフェを食べてる時、ネナちゃんは目を覚ました
「なぁにこれ?」
「お、起きたかネナちゃん。これはパフェって言うおいしいデザートだよ〜」
それと同時に、明日井父がお皿二つに分けられたパフェを持ってきてくれた。
「い、いただきますっ!」
目を輝かせながらネナちゃんはパフェを頬張っていた。
慌てて食べたからか、出てきたばっかりのパフェに乗ってるアイスで頭をキーンとしている姿がとても愛らしい。
「ねぇネナちゃん。もしよかったらここで過ごさない?おうちに帰るまでの間だけでもさ」
「うん!多分おうちに帰るの大変だってお兄ちゃん言ってた!」
「どうして時間がかかるのかって聞いてる?」
「えぇっとね、わかんない。でも、なんか言ってたんだよ」
「そっかぁ。じゃあ思い出したら教えてね」
「うん!」
僕たち3人はパフェを頬張った。
「ねぇ、ネナちゃん。おうちにきたお祝いにこれあげるね」
と言って、ドッくんと名前のない猫のぬいぐるみをプレゼントした。
「おぉ〜ふかふかってやつだぁ!」
「喜んでもらえたみたいでよかったわ」
満面の笑みを浮かべるネナちゃんを見ていると、まるでさっきまでの少し辛そうな顔をして寝ていたのが嘘みたいだった。
「ネナちゃん、どこか体で痛いとことか辛いところとかない?」
「たまに頭が痛くなるの。でも、ネナ寝ちゃえば痛いのなくなるの」
さっき辛そうにしていたのは頭痛のせいなのだろう。まずはお父さんを探して、それとネナちゃんの不調を治すのが当面の目標かな。
「じゃあ当面はこのうゆゆの家で過ごすけど、いい?」
「んで、私がうゆゆだよ〜」
「うん!ここにいればパフェエ食べていいの?」
「良いぞぉ。でも、ちょっとおじさんのお手伝いしてくれれば嬉しいのぉ」
「ネナお手伝いする〜!」
「いい子じゃ。なんで、こんなところで一人ぼっちでいなければならんのやらのぉ」
「ネナ1人じゃない!いつきも、さなも、う…うゆゆもいるから」
「そうね、学校が終わったら音速で会いに来るから心配しなくていいわ」
「私も、もっと働いてたくさんもの買ってあげるからねっ!」
「物で釣るんかい」
「あんなに喜ぶ姿見たら、もっとしてあげたいと思うのは当然でしょぉ」
「そうですね!」
「だからお父さん..ね?」
「うむ、シフト増やすのは良い心がけじゃな。」
「そうじゃなくって」
「もちろんゲームセンター以外でなら、どんなぬいぐるみ買ってきてもいいに決まっておろう」
「...ですよね」
げんなりとした表情を浮かべる明日井さんだった。
それから、僕と鷺宮さんは6時もすぎたことだし家に帰ることになった。
「じゃあネナちゃん。また明日ね」
「うん!」
「それでは」
そう言い残し、僕たちは手を振りつつ帰り道についた。
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