第二十一節

「とりあえず私から。私は鷺宮小菜、ちょっと前に土くんとは会ってるわね。一応部長よ」

「明日井鵜結です。得意教科は体育、苦手科目は数学です…あ、副部長です」

「志摩波佳奈です。好きなことはゲームと読書とかかな。一応もう一人の副部長です」

「私は、楠野あき。一応..声優です。」

「楠野さん。ファンです。サインください」

気づくと体が勝手に動いて、生徒手帳とボールペンを渡していた。

「もちろんいいよ!」

「樹くん?」

あ…翼崎さんがじっとこっちをみてきた。

「…なんでしょう」

「なんでもないっ!」

この声どっかで…いや気のせいか。

そのあと、楠野さんにウインクされました。尊死寸前とはこのことを言うのだろう…

「一旦話戻して続きから…ね?」

「…此方未三。よろしく」

明らかにコスの格好の人がいた。このキャラ…ゲームの広告でみたような…

ちなみに、星ヶ咲高校は制服がなく、逆に空ヶ咲高校は制服があったりする。

「..高2チームは私が最後か…どうも、水野灯です」

明らかに高2とは思えないような可愛らしい容姿…もしかして天才系なのでは?

「ご名答だよ土くん。私がどうしても学力で勝てない友達さ…」

「へ..へぇ〜」

ま〜た心読んできた。もうなんかの能力だとしか思えない…とりあえず気をつけねば。

…何読まれているかわからんからなぁ。

ん?と言った表情でこっちをみてきた鷺宮さん。これだから女子はほんとわかんない。

「じゃあ俺から…だよな?樹」

「そうじゃね」

「えっと〜。三藤奨です。趣味は、天体観測ですね」

「し..知らなかった」

「なんなら、観測全般好きだぞ」

「え?」

「とりあえず、次は私だね」

晋の発言は深くは考えないことにした。

「えっと…翼崎優雨です。隣の空ヶ咲高校です。趣味は料理と..あと最近は漫画読んでます。」

中学とは違う制服姿の翼崎さん…なんか新鮮だった。

「ねぇ、ゆうちゃんって呼んでもいい」

明日井さんがいつも通りのテンションで、翼崎さんに接していた。

「いいですよ!まぁ…長い付き合いでも、いまだに下の名前で呼んでくれない奴いるんですけどね」

「そうなの?まぁそのうち呼んでくれるって」

「ですかねぇ〜」

なぜか、はぁぁと息を吐いていた翼崎さんだった…

「えっと..最後になっちゃった。僕は土田樹です。趣味はアニメとラノベ鑑賞です。」

まぁ無難に…ね?

「え〜息子が最後になっちゃったとか言ったせいで、出にくくなった土田普です。あぁ一応この高校の化学教師ね」

「おっ…そろそろだね。じゃあお互いのこと知ったところで…行こうか」

「え?」

扉を開いた鷺宮さんの後ろから、青白い光が差し込み、その奥の真っ黒に染まっていた。

「第4回目の視察兼第一回親睦会、開催ですっ!」

「す…すごい」

鷺宮さんに続くように歩き出した。

そこは、真っ黒な空、青白い灯とほんの少しの暖色。アニメで観たような中世風異世界とは全く違った。

いつも思っていた、どうして異世界というだけで、RPGというだけで似つかわしい世界ばかりなのかと。

どうして、人間だけは共通認識になっていることが多いのか…と。

それこそ奇跡に等しいではないか。奇跡…ではないだろうか。

「…なぁ樹。お前はこの世界をどう感じる?」

「奇跡みたい」

「え?どこが?」

翼崎さんが不意に尋ねてきた。

「なんて言うんだろ..宇宙服なしで月に来ている上に、そこではすでに文明があり、さらに自分たちととても似てる…みたいな」

「なるほどね…

そのあと彼女は少し考えを巡らせているのか、じっと手を見つめていた。

「なんとか足元は見えますけど..目的地とかってあるんですか?」

「とりあえずネナちゃんを連れて行くところからね。あ…一応左目閉じといて」

「え?」

とりあえず閉じてみると、あの球技大会の時みたいな感覚になったが、特に風景は変わっていなかった。

「多分あっちの世界に戻っても、多少は使えちゃうから気をつけてね」

「そうなんですか?」

「そうよ。前使えたのは多分ネナちゃんとの接触と、あの丘の影響だろうね」

「へ..へぇ〜」

「なぁあの丘って言うのは?」

確か鷺宮さんと最初に出会って…

「下手なこと話しちゃだめよ?」

「あ…えっと..自分が変わるきっかけになった場所..みたいな?」

「へ〜」

「で、ほんとは何があったんだ?」

小声で奨が聞いてきた。だが、もし言ってしまったらと考えると死んでも言えるわけがない。「….ご想像にお任せします」

「ヒント」

「パンt」

「土くん?それ以上話たら….楠野さんに」

「私がどうかしたの?」

「く…楠野さんっ!?」

ヤッベ…耳溶けそう

「土くんってねぇ〜」

「鷺宮さま。何なりとお申し付けください」

「その言葉忘れるなよ?..ってことで、楠野さんこの話は後でね〜」

え?結局話すの?ってか何を?

それから少し歩いていくと何やら近づいてくるのを感じた。

「なんか青っぽいものが近づいてくるんですけど」

ざっと1分ぐらい先の出来事だということは、感じられた。

左目を開けると、、父と鷺宮さんが、何かを察したように表情が変わっていた…

「樹一旦左目を開けて聞いてほしい。零式と叫んで、棒を2度強く握りしめろ」

「え?何?」

「早くっ!」

言われた通りやってみた。すると、棒の両端のうち片方が四段階分伸び、もう片方が一段階分伸びた。

「やば。かっこよ」

ってか明らかに三脚というより警棒の形だった。

「さっきお前が感じた青いやつが来たら、迷わずそれで叩け」

「..はい?」

「息子に戦わせるのは父親的に不甲斐ないが、今はお前の体力と目が頼りなんだ…」

そう言ってついでに、加藤のゼッケンも渡された。あ、また測定するつもりだ…うちの親。その横で、鷺宮さんが、楠野様に耳打ちをしていた。

「土田くん!頑張ってください!」

楠野さんから声援をいただきました。勝てる気しかしません。

「任せといてください。何がなんでも倒して見せます」

「ついでに言うと、相手を倒すには塵ひとつなくなるまで戦い続けるほかないからな」

無理かもしれないけどやるだけやるか。

推しを前にしてカッコつけると、主人公になった気分になれそうだ…と思えた。

「来たっ!」

そこからは長かった。オブジェットで飛びつつ、ただひたすらに頑丈な棒で見えたり見えなかったりする物体を先に感じ対処する。

肥大化した微生物..それはもう微生物ではないけれど。そんな感じの何かをただひたすらに、硬さが取り柄の棒が自分の目に対応しているような反射的行動で叩きのめしている気分だ。

よく見る作品だと、核を潰せば〜とか、弱点を=か、消し炭にしたりとかしてたけど、そんなのはできる気すら起きなかった。

そんなこんなで、一見すると棒を降り回しているだけの戦い擬きをかれこれ10分以上は続けたと思う。

「にしても、このクッキー美味しいですね」

「最近読んだ料理漫画どうりに作ったら、すっごく美味しくできたんですよ」

「え?今度それかしてよ!」

「いいですよ。なんなら一緒につくりません?」

「それいいね!」

「私も混ぜてよーっ」

…足元では、放課後ティータイムなるものが行われていました。

ちゃっかり、ランタンを置いてそれを囲むようにしてみんなして楽しんでいました…

うっかり、流れ弾が飛ばないかなと一瞬思ってしまったが、さっきの楠野さんの声のおかげで踏みとどまった。

「がんばれ〜樹。終わったらクッキー…あ、ごめん食べ終わっちゃった。」

「そんなこと言うと、うっかり手が滑って流れ弾が..」

「え?楠野さん?生歌唱してくれるの?」

ま〜た鷺宮さんがこれみよがしに楠野さんと結託して…

「3秒で片付けます」

3秒後。すっかり塵一つなくしてやりました。

「歌うのは後でいい?というか、行くならカラオケがいいなぁ」

「だってさ、土くん」

「わ…わかりました。

今聞けないのは心苦しいけれど、カラオケに一緒に行く予定ができただけでも幸せだ…

「はい。クッキー」

「お..おう。ありがと。ってかなかったんじゃないの?」

「…ああいうシチュやってみたかったの」

「こんなタイミングで?」

「いや〜。今しかないかなって」

「…あはは」

なんだろう。複数の女子と喋るのなんて生まれて初めすぎて、多分今日寝れない。

ちなみに、クッキーは、挟まっていたリンゴジャム含め、めっちゃ美味しかった。

「よく戦ったな..」

なぜか、薄暗いところから、奨と確か..水野さん?と一緒に父が話しかけてきた。

「ねえ父さん。今のってなんだったの?みたこともなければ、すごく掴みにくかった」

「あれは…バベルと呼ばれているものだ。というか、俺が名付けた」

「…なるほど?」

「そして、俺のせいで生まれ、俺たちのせいで影響を及ぼしている存在だ」

「そんなのが放たれているってどうなの?」

「愚痴るなら、神にでも言ってくれ。まぁ、いるかは知らんが」

「あんなのみたあとだからか、神いるって言われても信じれそうだわ」

「俺の仮説が正しければ、神は存在しないがな」

「…はい?」

そこから、普先生の謎授業が始まった。

バベルの話。言葉が分けられていた中には、言葉自体がなくなった人類がこの地に住んでいるものの祖先に当たること

しかし、父がこの地に言葉を教えてことにより、突然、あの実態の掴めないものが生まれてしまった。ということらしい

「プラスマイナス0になる結果みたいな?」

「そうだな」

「それと、当分はバベルも出ないだろうから、普通にしてていいぞ」 

「とりあえず、目的地に向かいましょう」

少し歩くと、異質に丘が見えた。その上には、近くで見たような煉瓦造りの建物があった。


『ここは、終息の都。地球であって、地球にあった、地球でない場所。

その土地に言葉はない。というより。言葉を失った者達の星である』

食べ物はなくとも、活動に必要な栄養素は勝手に体に吸収され、子供を残すのも一人か、誰かと手を握るだけ。

家はあるものを繋ぎ合わせたような形…数少ない資源の寄せ集めでしかなかった。

その星の人は涙をとうの昔に忘れ、感情はあれどそれを出す術はなく、ひたすらに生きるのみであった。生と死の繰り返しに、服を着せたような生活だった。

何もない空を見ては、目を閉じ、心許ない灯りのもとに集まっては、身をよ押せて目を閉じた。何十年。何百年…元々は、どこに行っても誰かしらはいた。

言葉はなくとも、生まれつきもつ不思議が支えであり、生命線だった。

意味はわからなくとも感じ取れる絵。声はなくとも意図が伝わる心。これから必要になるであろうものを届けるものもいれば、よく眠れるようにしてくれるものがいる。

そんなある日、一瞬光が空を舞い一人の男が現れた。

足音か風の音ぐらいしか入ってこなかったはずの耳に声たる物が入ってきた。

その男に続くように、以前見かけたことある女の子もいた。驚くべきことに、その子もまた声を発した。

「こっち。ここが私のいた…家」

「え?これが家?」

「…うん」

「あっちでこちらを見てくるのは?」

「…絵の先生」

何を言っているのかわからないはずなのに、あと一歩でわかるような..そんな気がした。

「そうかならまずは俺が先生になって、言葉を教えなきゃな」

「..それがいい..会話..楽しい」

「おっ。ほんとに覚えるの早いなぁ」

「…なんとなく..掴みやすい」

「それは俺が教えるの上手いからか?それとも感覚的なものか?」

「かんかくてき?」

「あ〜えっとだな。心はわかるか?」

「..わからなくは…ない。なんか…言葉に..しづらいけど…ここに..あるもの」

そう言った彼女は胸に手を当てていた。

「..そうだな。その、心から出てくるものを感性..或いは感覚的と思ってくれていい」

「..わかった。さっきの質問…多分感覚的に近い..が…答え」

心…感性…感覚的…耳に入ってくるのは初めてなはずなのにすごくしっくりきた。

「おおぉ!そうなのか。ということは、ここにいるみんなも言葉を覚えるのは簡単そうだな…ってかその感覚がこの星の秘密を暴く手がかりになるかも…」

その時彼が発した“ひみつ“その言葉がなぜか私の耳に“心”に残って離れなかった。

「さぁついたぞ。この場所はな、まぁ向こうとこっちとの門みたいな場所だな。まぁ図書室裏と違い、建物は人工でも門自体は天然ものだがな」

見覚えしかない、その煉瓦造りの建物の中には、映画のフィルムのような絵が描かれていた。

「この絵はだな。この星における神絵師の先生が書いているものだ」

「神絵師の…先生?絵もすごいけど肩書きもすごいな」

神絵師の先生ってことは、超神絵師になるのか?

「あ、いらっしゃい先生」

え?先生の先生?でも、うちの親父は絵師ではなく画伯だったはず…

「おう。元気そうで何よりだ」

「はい!先生」

ってか先生って副業できんの?しかも、絵ではなく、この星の先生って..え?聞き流してたつもりだけど、この星で言葉を教えてた先生っていうのが…

「だから言ったじゃない。私のお母さんも土田くんのお父さんにお世話になってたって」

「え?ってことは鷺宮さんも!?」

だとしたら、心の声が筒抜けっていうのは、本当だったりするかもしれない…のか?

「なっちゃんそうだったの!?」

「まぁ知ってはいたけどね」

「..やっぱり」

「すっご〜い!」

「へ..へぇ〜」

さぁ、今の驚きの間に一人笑顔だけで対応している天使がいました。誰でしょう。

答え。志摩波さん。こ…これがヒロイン力っ!?

「それはまぁ一旦置いておいて…あと活動限界まではせいぜい15分だからな」

「そ..それを過ぎると?」

「一ヶ月は戻れんだろうな」

「じゃあ早くさっきのとこ戻らなきゃじゃないですか!」

「さっきも言ったが、出口はここだから大丈夫だ」

焦ったぁ…

「ねぇ土くん。探検しよっか?」

「わ..わかりました!」

「わたしも行くっ!」

翼崎さんもっ?..今日俺死ぬのか?

「じゃあ俺も」

す..奨?邪魔してくれるなよ..俺は死んでもそのシチュを叶えたいんだっ!

「と言いたいところだが、俺は待機してるわ。どちらかというとここで色々調べたい気分」

は?神いないとか父さん言ってたけどここにいるじゃん!…ありがとう奨神。

…なぜか最近、心の声が活発になっている気がします。

予備に持って来たというランタンを借り、探検に出た。時間を確認しようとスマホを開いたがなぜか開かなかった。

「言い忘れてたけど、この世界とあっちの世界じゃ普段は時間と磁場がずれてるからな」

「それ携帯壊れない?」

「そのケースつけとけば大丈夫だ」

あ、横で明日井さんがスマホ見つめて落ち込んでいる…

請求は父にお願いします。

次の日、スマホが最新型になったことに舞い上がって落として割ったのは別のお話。

そういえばネナは…あれ?

「鷺宮さん!ネナがいない!」

「何言ってるの?私の後ろに…えぇ?」

とりあえず早く見つけないと!

左目を閉じ、いろんな方向に進んだ先を感じてみたが、全く見当たらなかった。

そういえば出発した時は…あ

最初に集まった部屋で爆睡していたことを思い出しました。

「と…父さん。次にここにこれるのはいつ?」

「大体一ヶ月後だろうな」

まじかぁ。そういえば、次戻れるのも一ヶ月後とか言ってたっけ…

「え。ネナちゃんともっと一緒にいれるの?」

なんで明日井さんは嬉しそうなの? 気持ちわからなくもないけど

「そ…そうなるわね」

「あのチビ助もつれてくるつもりだったのか?」

そう言った水野さんだったが、どうしても、チビ助という単語に違和感を覚えずにはいられなかった…

「土くん?何を考えてるの?」

「と..とりあえず探検に行ってきます」

「…ロリコン」

そんなことを言われた気がするが..。反応しないでおいた。というか、それに反応した未来で、やっぱり?と言われて冷たい視線を浴びてしまうのがわかってよかった。

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