第二十二節

「とりあえずあそこの一際明るいところ目指しましょうか」

「いいですね」

「私もいいと思います」

3人で、近くの暖色系の明かりがちらほら見えるところに向かった。

「…なんだか不思議な空間ですね」

「綺麗ですね」

さっきの話を聞く限り、こんな明かりをもたらしたもが父さんらしい…意外だ

「あ、ここにもあそこにあった綺麗な絵がある!」

多分あそこっていうのは、あの煉瓦造りの建物のことだろう。

…にしてもすごい絵だ。

「絶対ラノベの挿絵担当とかになったらすごいんだろうな〜」

「それの画集があったら絶対買うわね」

「最近の小説って、なんかお話だけじゃないのね」

最近漫画を読んでるらしい翼崎さんだったが、前も言ってたけどラノベにも本格的にハマってくれるのか!?..なんか、うれしいな。

自分の尊敬する人が、相手から何か物をもらうなら、相手の好きなものが欲しい。だって、その人を知れるから。って言ってたけど、なんとなくわかるような気がする。

「まぁそうだな。どちらかというと漫画に近い..というかどちらものいいところの掛け合わせって感じだな」

「へ〜面白そう。ってか、前に樹から借りたやつ、最初の方ブックカバーかかってたから見てなかった…」

「…学校であらぬ誤解を受けないために…ね?」

「へ〜。そうだったんだ。でも、教室でニヤニヤしてたよ?」

「…み..見間違いじゃない?」

「そういうことに…しとくわ」

「それはそうと、挿絵でおすすめなのは多分、志摩波さんが手に持ってるやつと同じジャンルのやつかな」

「ジャンルごとにって感じなんだ!」

「まぁ、ラブコメだと癒し系、感動系、ギャグ調ごとに絵の雰囲気は変わるかな」

「それなら、私が読んでいるようなジャンルの本、今度私からも何か貸しましょうか?今持ってるのは借り物ですけど…」

「いんんですか!?」

「もちろんです」

あたりには暖色のランタンと、ほぼ黒い球体と四角でできた建物らしきもの。目の前には、父の名前が彫られた、水ではなく氷が舞う噴水ならぬ噴氷。

..鷺宮さんの言っていた、父さんが息子に見せたかったのはこれかはわからないが、幻想的というのを初めて感じたと思う。

それだけ綺麗で、魅力的で、どこかゆかしく思えた。

「..あの..そろそろ戻らないとですね」

「ほんとにっ!?」

二人揃っていうあたり、すぐに打ち解けたのだろう。入る隙がなさすぎて探検前のワクワクなんて、とうに感じられなくなっていた。

「では、戻りますか!」

「ですね..ちょっと惜しい気もしますが」

「大丈夫、また来るから」

「そうなんですか?」

「多分というよろ、絶対ね」

「す..すごい断言しますね」

「まぁね〜」

最後にもう少し見て帰りたいと思い、近くの建物をぐるっと回ってきたところを折り返す形で戻った。

丘に戻ってから少しすると、白と赤の光に飲まれ、気付けばあの時の丘についた。

時間感覚がおかしのか夕刻だったからかみんなで丘に背を預け空を見た。

「この空を見ると..なんだか落ち着く」

「だなぁ〜」

「おっ!三藤」

「なんか久しぶりにあった気がしちゃうな」

「だなぁ。どこか、忙しかったと思っていたのに呆気なく感じてしまうよ」

「だよなぁ〜」

この二ヶ月弱でほんとに目まぐるしい日々だった。

それまでは、ただ遊び、楽しくアニメ見て、我慢でくなくなってラノベ読んで。そんな生活に満足していた。でも、いとんな他人と関わり、自分のことを少し知るきっかけになって、それが相手を知ることにもなることを直に体験したように思う。

『たった一つでも歯車を動かせば、それだけであらゆる動きが、流れが、違って感じれる。そういうふうに感じられるようになったのかな』

…だめだ。この丘に来るとついつい自分の心を覗き見してるみたいに感じるなぁ。

「まぁいいんじゃない?自分が好きなことを見つけるまでの手がかりにすればさ」

そう言って鷺宮さんが肩を叩いてくれた。それに返事しようと体を起こし目を開けるとなぜか翼崎さんと目があった。

「…何よ」

「いや?別に…」

「本当は?」

「なんか...久しぶりに優雨ちゃんと話した後から、急に変わったなぁ〜って」

「久しぶりにゆうちゃんって呼んでくれたね」

「あ」

「…なんか..ごめん」

「何言ってるの? これからも前みたいに優雨ちゃんって呼んでよ」

「わ…わかった」

急に馴れ馴れしいかと思ってしまってたから避けてたけど…なんかしっくりくるな。

___やっと呼んでくれた。ってっきりもう呼んでくれないかと思っちゃってた

「どう?仲直りはできた?」

「べ..別に喧嘩してたわけじゃないっすよ?」

ネナと合流し荷物を取りに学校に戻る途中、鷺宮さんとそんな会話をした。

いつになったらネナは帰れるのか…というか、なんでこの世界に来ていたのだろうか。

未だ謎ばかりだ。

「あ、そうだ!」

そう言って明日井さんに耳打ちする鷺宮さん。

なんかすごく楽しそうだ。

それから15分ぐらい歩いて、高校に戻った。

校門で父さんが警備員に軽い校外活動をしてたと説明し、校舎内に戻った。

ってか、軽い校外活動だったとは思えないが…

とりあえずネナが寝ている部室と思われるところに戻ってきた。

ネナは涎を垂らしながらすやすやとねっむっており、自分たちがいなかった間時に何もなかった感じだったので一安心だ。

「じゃあ今日は解散かな。って言ってもこれから優雨ちゃん含め、うゆゆのとこで女子会しま~す」

「男子の皆さんお疲れ様でしたぁ」

「またね〜」

「それでは〜」

ふと今日のことを思い出していた。ちなみに奨は調べ物の続きがあると言ってすぐに走って戻ってしまった。

ネナに関しては、当分の間、明日井家で預かることになったそうだ。

別れ際に、SNSにおけるグループなるものが作られ参加した。

自分はよくわかっておらず名前以外は空の状態に等しかったが、他人のを見ているうちに自分も何か書き込んだり、写真を貼ったりしたいな…と思えてきた。


次の日、両親が朝飯どっちが作るか言い合っている中、おにぎり一つ作って頬張り学校に向かった。教室に入り荷物を机に置いて、なんとなく窓から隣の高校を見ると、なぜかすぐに翼崎さんが見つかった。

どうやら、すでにグループを形成していて、その中には一際綺麗な金髪少女もいた。

ただ、これ以上見てはいけない気がしたので空を見上げると繊月が見えた。

なぜだろう。日中に見える月というのはどことなく儚い。

それは、反対に見える月が眩しすぎるからだと思ってた。

だけど今日は..いや今は、輝いて見える。

「…今日こそは誰かに話しかけてみようかな」

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