第十七節


このまま迷路をすすんだ時、相手もまたその後ろを慎重に追ってきた。なら一際くらいところにBB弾の床を作り足場を悪くした。

思った通りの動きだった。

「痛っ! こんなん誰でもこけるじゃんか」

ラッキーなことにリーダー格がこけてくれた。

「オブジェット起動しとけ..」

まじか...こけた瞬間を狙い撃ちするつもりだったが返り討ちに遭うことがわかった。

「残り時間は14分を切った。多少のダメージ覚悟で行くしかないよな...」

何度目かの呼吸を整える動作をした。

「オブジェットは遮蔽物を最大限活用。あとはBB弾の反射を使うか」

迷路を進むのをやめ全力疾走で相手に向かった。

「来たぞ...」

「オブジェット二重展開!」

逆にありがたい。無差別に破裂するよりも確実に追える方が避けやすい。

相手が展開したのを感じとり発砲。

展開するのをあえて阻止しなかった。

あとは撃つだけ!

何発撃っただろうか。迷路を戻ったり進んだりしながらなんとか倒し切った。

BB弾を装填するところからはカラカラと音がなっている。もうそんなに弾数がないのが聞いてわかる。

チキが近くにいないことを確認しつつ、スタート地点に向かった。

「お..倒したの?」

「まぁね〜」

「回復欲しい?」

「ものすごく欲しい」

「じゃあ私を見つけたらね..左目つかわずに」

「ええ?」

「ここだよ〜」

気配を頼りにスタート地点付近を探した。

「ねぇ。もしかして移動してる?」

「そうね」

「無理じゃん!左目閉じちゃダメですか?」

「はぁ〜最近の若い子は全く」

「同い年という認識でいいんだよね?..ね?」

「冗談よ。もう回復も済ませてるわ」

「...ほんとだ」

ゼッケンの被弾箇所の白マークが消えていた。

「あと10分くらいだけどどうしよ」

「樹はこの試合勝ってると思う?」

「奨次第じゃないかな」

「そうだよねぇ...にしても樹強いじゃん」

「昨日までの僕ならこうなはらなかったかな」

「ちょっと前の樹とは雰囲気から違うわね」

「...やっぱり気になるから聞くんだけど」

「なになに改まっちゃって」

「前に大学まで彼氏が〜とか言ってたじゃん?」

「うん。言った」

「なぜ俺に言ったの?」

「む…難しいこと聞くね」

「そうなのか?」

「そりゃそうよ。下手にいうとキープしてるみたいに捉えられるじゃない..」

「それって...」

「はい! 考えるの終わり! いいね?」

「んな!?」

「図書カード取りに行くんでしょ?」

「そうだけど」

どうしても気になる...

「とりあえず..左目でも閉じてみたら?」

あ..焦ったぁ〜。ついつい言いそうになったわ

「そう..だね」

なんかはぐらかされてるような…

そっと閉じた。だけど何も映らなかった。何も感じなかった。

「何も感じない...」

「っていうのは?」

「さっきみたいに少し先を感じ取れない..俺死ぬの?」

「ええぇ?」

「先が見えないってそういうことかなって...」

「いやいや、それ普通じゃないの?」

普通?できてたことができなくなったのが普通なの?

「普通、先が見えるわけないじゃない。だってそうでしょ?普段ジャンケンして買ったり負けたりするように一寸先は闇っていうじゃない?」

「そうだけど...」

「ホントは言うつもりなかったけど...一つだけ教えてあげる」

「なんか知ってそうな口ぶりだなぁ」

「なんでもは知らないよ?」

「委員長?」

「ちょっと何言ってるかわかんないわ」

「...気にしないでくれ」

「ちょっとそれちゃったけど言うことは一つ」

ゴクリ...

「未来に頼ってはダメ。未来なんて幻想と同義。だからって捨てていいものじゃないから」

「...はい?」

「誰に教わったかも、なんで言ったかも言わない。でもこの言葉は忘れないで」

未来に頼ってはだめ?未来と幻想は同義?正直わからない。でも、未来を捨ててはいけないって言うのはよく親父に言われてたし、自分も深く共感できる。

「それが今関係あるのでしょうか...」

「未来が見えない?感じない?だからって未来が無いなんて思っちゃダメってこと」

「な...なるほど」

「根拠のない言葉だけど、樹は大丈夫」

それは翼崎が樹の母に言われたことだった。今だからわかる。きっと樹のそれは樹の母も知っていることだと。

「でも..これからどうしよう」

「本気で楽しむんでいいんじゃない?」

それと同時に階段から足音が聞こえた。

赤のゼッケンを着た男子が2人。その後ろに何かがあるかはわからないが、ここで攻めない手は無い。

「じゃ..私は生存優先でいるわ」

「ちょ..翼崎さん?」

残り7分。左目は閉じても変わらない

「走って撃つの繰り返しだ... 」

決して短距離が速いわけではない。だけど、体力はある。それに迷路は大体把握済み

「2発食らいながらも迷路ゾーンにこれた。一旦さっきのBB弾が散乱したとこに行けば...」

先読みは使えない...けど

「着いた! あとは」

一つ横の道から狙いを定めた。本当にひっかかってくれるだろうか。ゲームなのに…

否!たかがゲームだからこそ胸が高鳴った。

待つこと5分ぐらいだろうか.....

「こ...来ない」

もう帰ってアニメ見ようかな。なんか5分も待っている間になんか今日の自分が自分じゃ無いように感じた。

「うわっっ!」

ひっかかったか?にしては高い声...聞いたことあるような...

「んん?」

「ここどこぉ〜?てか何この床」

「よ..翼崎さん?」

「その声は...樹くん!」

「さっきあんな感じで別れたよね?」

「あ〜うん。気づいたらこんなとこに..」

思い出した。彼女、方向音痴だった...

小学校の遠足の時だって、翼崎さんの思うままに一緒に進んでたら県跨いでたからなぁ…

「なぁこっちから声聞こえなかったか?」

あ...今ので気づかれてしまったか

「...ゴメンネ」

いや?逆にチャンスかもしれない

「そこから動かないでね」

「へ?」

「こっちにいるんじゃね?」

話し声が近づいてきた。一か八か..と言うより先手必勝!

そこからは撃って撃って投げまくった。

暗がりだからこそどんな無様な戦い方でもなんとかなった

「っしゃああ!」

「お..終わった?」

「多分?」

傷だらけ(ゼッケン)だけどなんとかなった。

ほんとに球技大会でこんなに頑張るとはね...

自分でもびっくりするぐらい長く短い時間だった。

それからすぐに試合終了の放送が流れた。


「みーなさんお待ちかねっ!本日のMVP発表でーす」

「図書カード...」

「お〜い! 樹はどうだった?」

「奨! 生きてたのか」

「まぁな〜」

「どうもこうも... 途中で左目閉じても何にも感じなくなるわ他にも色々...」

「そっかぁ。俺なんて一回しか戦闘なかったから」

「にしては結構疲れてそうだな」

「まぁ1対12で勝ったからな」

「すごいな...」

これはMVP持ってかれたかもしれん...

「え〜実行委員による厳正な審査と、観客となった生徒たちの意見を踏まえ...」

「案外知らない誰かだったり..」

「4組の土田くんとなりました!」

やった〜。わ〜い。

「それでは図書カードの贈呈と、この書面にサインをしてください!」

とりあえずサインをし、図書カードを受け取り球技大会は終わった。

「よし土田、行くぞ!」

忘れてた....なんかこの1時間で考えらればいほどのことをしたから。

「ちょ..昼飯食ったら合流でいい?」

「それもそうだな」

今日これから親父に会う....多分。

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