第五節

「んんっ?」

「お、ネナちゃん起きたか」

「ここ、いちば?」

「そんな感じだよ〜。商店街って言うんだよ」

「しょおてんがい?」

「そうそう。日本語覚えるの早いね」

「若いって羨ましいですね」

「そぉじゃのぉ...って誰がババアじゃい」

「そんなつもりは。ってかそんな自覚でもあるんですか?」

「えっと..ババア?」

「そう。おばあちゃんってわかる?」

「ネナ、おばあちゃん好き」

「おばあちゃんもありね」

「早すぎるでしょ」

「お、あそこにしよっ!」

彼女が指を指した先には昭和感あふれるカフェがあった。

「なんか大人っぽいですね」

「でしょぉ。じゃあ入ろっか」

「うっす」

行ったことない店だからか、それとも異性と一緒だからかものすごく緊張した

「こっちこっち」

と言って手招きしたところは窓際のテーブル席だった。

「ちょうど4人だからね」

「ん?」

この人には見えないものが見えたりするのだろうか

「後で紹介するよ」

「は..はぁ」

やはり何か見えないものがいるのかもしれない

「同級生だよ?」

「僕には見えない系の同級生さんですか?」

「私の友人を勝手に殺すなや」

「あ...」

普通に考えればそれが妥当でした。

「先に何か頼もっか」

「そうっすね」

そう言って窓際に置かれたメニュー表を見た。

「この店主の気まぐれワッフルってなんでしょうね」

「おぉ、少年見る目あるねぇ。実はそれ、私が考案した商品でねぇ」

どうやら、彼女がこの店の人に提案した、今となっては看板メニューの一つなんだとか。

さらに、彼女の好物はワッフルだそうな。いい情報ゲットだぜ。

「すごいっすね」

彼女は少し胸を逸らして誇りげな顔をした。

「じゃそれにします」

「いいねぇ。あと飲み物は頼まないの?」

「じゃあ...あのぉ僕コーヒー飲めないんすけど」

自分の持つメニュー表には5種のコーヒーとワッフル、コーヒーゼリー、みかんゼリーだけが書かれていた。

なんとなく彼女の顔を見ると

「なんすか、煽りですか?」

口元に手をつけて、ニマニマしてきた。

「まぁ私も飲めないんだけどね」

「なんなんすか」

「一瞬大人ぶってみたかっただけ」

「子供じみたことしますねぇ」

「おうおう、お姉さん怒らすなよ」

「パネぇっす。そこはかとなくいい感じっす」

「それ褒めてないわよね?あと、ソフトドリンクがこのページの裏だから」

あ、逆になぜ気付かなかったんだろうか。お恥ずかしい。

「にしてもテンション差すごいですね」

「私の高校生活なんてこんなもんよ」

「そんなもんすか」

少々疲れた顔のように見えた。きっと高校のテンションとか会話は、中学以上に大変なのかもしれないと思った。

「じゃぁこのブドウジュースにします」

「この店のレモネードおすすめだぞっ」

「え〜。炭酸割りじゃないですよね?」

「それは選べるけど?まさか、炭酸飲めない系?」

しまった。また小馬鹿にされる...

「まぁ私もそうだけど」

よかったぁ。ここまで一緒だと相性抜群だと思わずにはいられない…まさにこれが、ハニートラップか?…多分違うな。

「ってことは炭酸じゃないんすね」

「言えば変えてくれるからね。それにここのレモネードはホットでも冷たいのでも美味しいの」

「そうなんすか」

今は3月。暦の上では春とも言えるが、まだまだ暖かいとは言えない。

「また今度冷たいレモネードも飲んでみます」

「うむ。そうするが良いぞ」

「ははぁ〜」

「じゃあホットレモネードを2...いや3つと、気まぐれワッフルも同じく3個にしますね」

「あ、そう言えば今日は君の奢りだったね。なら、この店で1番高いパフェに..」

「すみまっせ〜ん。注文したいのですが..え?ちょっと待ってだって?」

ここで一句

店員よ ああ店員よ 店員よ

やばいこのままだと…言われると断りづらいんだから…

「ならぁ、やっぱりパ」

「あのっ!僕のお財布が...その…」

「はいはい。今いきま〜す」

と言って全力疾走できた店員さん。客がうちらだけとはいえ危なっかしい気が…

というか、めっさ若いし美人さんだなぁ。

「はいはいご注文どうぞ〜」

「じゃあ私はパフ」

「気まぐれワッフルとホットレモネード3つずつください」

ものすごく食い気味に言った。

「ちっパフェを頼めなくなったかぁ」

「あぁ〜なっちゃんじゃん。は?彼氏連れ?というか来てたなら早く言ってよ〜」

注文とってから気づくんだ…まっすぐな人なのかな?

「言ったところで、まだシフト中でしょそれに私の彼は...君だろ?」

「ん?」

「私のシフトまで知ってるとは。さすが彼氏」

「そ...そうなんですか?」

「冗談よ冗談。挨拶みたいなものだから。というかさ、うゆゆ今朝言ってたろ〜シフトのこと」

「そうだっけ?」

「私の優雅な放課後ティータイムが今日もないなんてって」

「そうよ。放課後ティータイムを謳歌する高校生活のはずが、逆に謳歌しているのを見せつけられるんだぞ?」

「はい。これが私の同級生の子」

「はい?」

「この人が毎朝10キロ走っている変態。個体名うゆゆ」

「な..なるほど」

「惑わされるな少年。私も流石に土日は走ってないからな」

あ、多分この人はそういう感じなんだろう。テンションがアレなんだ。

「でさでさ、この子を少し面倒見てくんない?」

そうネナを見せながら言った。

「私以外の女との子ならお断りよ」

「このお顔を御拝謁してもそれが言えるかしら?」

「はっ!」

目を大きく開いて、

「..可愛い。いや、かあいい。というより、ああいい」

「まさかの可愛いの三段活用!?」

「そう。彼女は最上級である、ああいいに属する至高の可愛さよ」

「いいだろう。その話のってやろうじゃない」

「それがいいわ。それに、この子は娘にしたい気持ちは山々だけれど合法的に妹にする予定だから」

「なら、私も..。いや私はやっぱりあなたの彼女志望で行くわ」

そんな他愛のなさそうな会話をしていると、店の裏からマスターらしき人が出てきて

「いらっしゃい。よくきたね」

と言って注文表を見て厨房らしきところに戻っていった

「ダメだぞ〜うゆゆ」

そう言って鷺宮さんは指を振っていた。可愛い。

「うぅぅ。ごめんなっちゃん。でも、なっちゃんを見てたら注文どころじゃないからセーフ」

「アウトだよ」

そんなこんなで、眠っているネナを見て置いてくれることになった。

「いい人ですね」

「バカっぽいけど頭いいからねぇ」

あいつと言わんばかりに楽しそうに笑っている鷺宮さん。やっぱり可愛い。

「で、どうしましょう」

「何が?」

「どうやって焼き鳥屋さんに行きましょう?」

そう。カフェで頼んだはいいもののよくよく考えれば、なぜネナちゃんの面倒を見てもらうのか言う手筈だと思うのだが...とはいうものの、ネナちゃんのこともあるからそれどことじゃないし。

「そんなの後輩くんとデートって言えばいいじゃない」

ガンッと床に響く音が鳴った。振り向くと明日井さんが膝を落として絶望していた

「なななななっちゃんが..でででデート!?」

この世の終わりのような顔であった。

「こんな誤解されるんじゃないかって思ったんすよ」

「あ...それも、そうね」

呆れ顔の鷺宮さんかわ...一旦深呼吸して、ふぅ〜。


呼吸を整え思考を巡らせる。

「もしよかったらここに焼き鳥買ってきてここでみんなで食べるとかは...」

「それもありね。礼儀的とは言えないけれど」

「え!?みんなで焼き鳥!お父さんいいよね?」

ええでと言わなくても伝わるようなほどに笑顔で親指を上に向けていた。

「スースー..焼きトォり〜〜」

全会一致ということで。

「では買ってきますね」

「待て少年。まだどれにするか決めて無かろう」

「そうだぞ少年」

「つくねともも五本ずつではダメですか?」

「おいバカか?皮がないではないか」

「そんなんどうでもええやん。ネギ肉よネギ肉」

「はぁ?どうでもいいですって?ネギ肉なんて、ももとねぎが合わさっただけの半端ものじゃない」

「わかってないのはなちゃんだよ。ネギに染み込んだ鳥汁がより鳥の美味しさを引き立てているのよ!?」

「皮だって油濃いイメージがあるかもしれないけれどグルコサミンやコレステロールを減らす不飽和脂肪酸、疲労回復にいいアンセリンなんかが含まれていて隠れた美容色とも言えるのよ」

「はー。そこまでいうなら決めてもらおうじゃない。いい?少年」

「ちょちょっと待ってくださいよ」

「先に言っておくけど優柔不断男は嫌われやすいわよ」

「せめて僕1人ではなく、この場にいる5人で決めましょうよ」

「いいわね。」

「なっちゃんをわからせてあげるんだから」

「スースースー」

「ええっと。とりあえずつくね、もも、ネギ肉、皮を五本ずつ買ってきますね」

「皮は私が出すわ」

「なら私もネギ肉代は出すね」

「行ってきます。」

「3秒でな〜」

「無茶言わんでくださいよ」

「気をつけてね〜」

「スースースー」

はぁ。ものすごい覇気だった。やはり女子高生のコミュ力は格が違うな。

カフェから徒歩1分。商店街の出口付近が見えてきた。

そういや、商店街の出口入り口って決まってんのかな...

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