9:待ってたぜ
『なかなか運が太いな、『スマートボア』』
「ありがとよ」
ギリー宣伝部長がアドバイザーとして『ブルーローズ』につくのであれば、キングは『スマートボア』=リザのアドバイスにつく。
周囲に広がる光景を見て、キングは彼女の強運に呆れたような声をあげた。
廃墟都市――人が住まわぬビル群/その隙間を這いまわる大蛇のような高速道路に覆われた戦場。
遮蔽物が多く、相手の射線を切れるマップとしてはこれ以上望むべくもない場所だ。
『来たぜ、<パーフェクション>だ。……やっこさん、ミサイルを切り離している。思い切りがいいな』
レーダーが敵影補足――警告音とともにリザは<スクラップフライⅡ>を横方向にすべらせて物陰に飛び込む。
「とはっ?!」
バックブーストを全開――強烈なマイナスGで前に体が引っ張られるような感覚/地面をがりがりと削りながら後退しつつ物陰に隠れる。
空中で浮遊しながらの乱射乱撃/強烈なアサルトライフルの弾痕がアスファルトを削り、こっちへと近づいてくる。
回避機動する<スクラップフライⅡ>へと迫る弾痕の爪痕。
「早ぇ……!」
『言ったろ、最新鋭機だと』
機動性能ならば確かにこちらが上――しかし相手はこちらに引き離されない程度には速度がある。
近くのビル群の壁面を蹴りつけて速度を落とさぬまま射線に捕らえてくる。
対する<スクラップフライⅡ>はショットガン×2丁持ちの近距離火力に長けている
こちらで相手に届くのは低速高機動ミサイル/フラッシュミサイル――ロックオン完了。
だが、リザは驚くべき自制心でミサイルのトリガーを引かなかった。まずは相手を振り切ってからだ/ランダムな回避運動を行いながら相手の射線を切り続ける――そのまま再度物陰に飛び込もうとした瞬間だった。
『ブレーキ!』
キングの切羽詰まった大声を受け、即座に機体を急制動。今度は操縦席のシートに全身を深く沈みこませながら速度を落とす――次の瞬間、破壊的ビームの光槍が至近距離を貫いた。
シミュレーションであるとわかっていても――背筋を這い上る危機感に肌が泡立つ。
ここは危険だという直観のまま再度遮蔽物へと飛び込んだ。
「なんだぁ今の?!」
『アサルトライフルと、アセンション粒子の兵器運用のために試験的に少数生産されたビームバズーカだ。弾速、威力ともに従来のビーム兵器とは違うぞ。二、三発で撃墜判定になる、避けろよ』
「無茶言えぇ!? んだよ畜生! あっちはばかすか遠距離から撃ち込みほうだいでこっちは……!」
キング――先ほどのビームが発生させた輻射熱から敵兵器の威力を推測=その表示される数値に顔をしかめる。
『ああ、少しだけだが朗報だ。……敵のビームバズーカは高性能だが、これほどのエネルギー兵器だと銃身が持たない。通常のビーム兵器より発射可能数はずっと少ないはずだ』
「何発!?」
『喜べ。おおよそ24発さ』
リザ――ちょっと考えて叫んだ。
「こっちを8回はぶち壊せる弾数じゃねぇかよ!」
いらだち交じりに叫ぶ彼女に対し/キング=冷静にうなずいた。
その静かな自信を前に、リザはこの男が勝ち筋を持っているのでは、と思ってしまう。
『ああ、そうさ。だから……さっさと始末しよう』
「……あら」
重量級、それも抗ビーム装甲を高めたの
アサルトライフルの弾装を交換させながら『ブルーローズ』は愛らしく小首を傾げた。
ばらまいた弾幕は相手を動かすための撒き餌/同時に相手の回避機動の癖を見抜くための誘いでもある。
おおむね癖は読み切った――弾幕で回避運動を行わせ、相手の未来位置へと銃口を置いて引き金を引く=これまで必中必殺であった一撃が、避けられた。
彼女の心に沸き立つ静かな驚き/そして興味――自然と微笑みが浮かぶ。
『何をしている! 追って仕留めてこい!』
だが命令口調で怒鳴りつけてくる兄の言葉に、『ブルーローズ』は不快げに眉を寄せた。
「いいえ、もう少し慎重に立ち回るべきです」
彼女は上を目指すパイロットの常として、相手の情報収集に余念がない。
暴走した無人兵器から人類を守るのがパイロットの任務ではあるが、実際は雇い主である企業の意向で殺しあうなど日常茶飯事だ。
記憶通りなら『スマートボア』の乗機<スクラップフライ>は軽めの中量級二脚機体/盾とショットガンによる至近距離での爆発的火力を追求している機体だったはず。
だが今の相手はそれよりもさらに機動性能と火力に特化先鋭させた
両肩部分にもミサイル兵器を搭載していた――以前のゴリ押し/力任せの突進戦法ではないと思う。
『馬鹿を抜かせ、貴様の機体は<パーフェクション>だ、文字通り『
上から目線で命令を下す兄の罵声に不満は感じる――戦場においてすべての裁量権は自分にある/椅子を尻で磨くだけの男が――喉元までせりあがってくる侮蔑の言葉を慌てて飲み込んだ。
ま、いいか。
『ブルーローズ』は憤懣を飲み込んで推力ペダルを踏みこんだ。
ギリー宣伝部長の言葉に従った……というより、追い込まれつつある『スマートボア』がどのようにして反撃を目論んでいるか、彼女自身興味があったからだ。
相手の逃げ込んだのはビルとビルの合間/遮蔽物はなく、こちらの射撃から逃れる術などないはず。
機体を進ませた彼女は……狭い道をこちらへと直進してくるミサイルの存在に気付いた。
「うっ?!」
頭の中で驚愕と疑問が爆発する――ミサイル
無誘導の状態でロケットのように直進するミサイル。
ミサイル警告はこちらに対する攻撃照準波を受け止めて作動する/ただ直進するだけのミサイルには反応をしない。
『ブルーローズ』の瞳が敵ミサイルを捕らえた――
精確な照準/単発で発射された弾丸はミサイルを射抜き次々と撃ち落とす。
だが、それが罠だった。
「きゃっ?! く……?! ロックオンが、死ぬ……?!」
爆発とともに強烈な閃光が視界を圧倒する――炸薬の爆発による閃光とは次元の違う
フラッシュミサイルだ/焦燥が背筋を這いあがる――血が逆巻くような感覚を愉しむ『ブルーローズ』の前に敵機が姿を見せた。
『待ってたぜぇ!』
至近距離ゆえに敵パイロットの声が聞こえる――いまだロックオン機能を回復しきれていない<パーフェクション>の前に、膨大な推進炎を噴き上げながら<スクラップフライⅡ>の機影が躍り出た=頭部のカメラアイ保護シャッターを解放し、鬼火めいた光を灯しながら迫りくる。
この推進力=V‐MAXスイッチによる超加速――『ブルーローズ』は瞬時に敵の狙いを悟る。
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