2:さすがにプライベートはちがうよ
次の試合では自分がああいうふうに祝福と歓声をうけるのか……リサは先程の戦闘を思い起こす。
一番頭に残っているのは針の穴を通すような神業の射撃。
「……あれ、目覚めたって、こと?」
「おそらくは」
おそるおそると確認するようなためらいがちの言葉に、マッチメイカーが頷く。
『サジ』は狙撃型を使いこなす腕のいいパイロットだと聞いている。しかし戦闘機動を行いながら目まぐるしく動き回る敵機の、ほんの針の穴を通すような精密な狙撃ができるとは思えない。
可能性はひとつ――マッチメイカーがいう。
「アセンション能力に目覚めたんでしょう……おそらく」
「あたしも……そうなるかな」
「さて。こればかりはなんとも」
中堅ランクのパイロット――『キングブッカー』とのマッチメイクは、上を目指すパイロットにとっては是が非でも経験しておきたい戦いになる。
彼が劇的な勝利を演出する
だが、もうひとつ理由がある。
アセンション粒子に適合した、
それはたいていが生死の境目を行き来するような、死んで当然の戦場であることが多く、パイロットは科学では証明できない超常的な洞察や物理現象などを発生させる。
そして、確実ではないものの……十人に一人か二人の割合で、キングブッカーとの試合でアセンション能力に目覚めるものがいる。
生死の境目をくぐることなく、試合でアセンション能力に目覚める=その数少ない絶好の機会を眼の前でモノにしてみせた『サジ』を前に、リザ/パイロット『スマートボア』は体の奥底から戦慄めいた震えを感じた。
あの力が、欲しい。
「さぁ、こっちです。どんな業界であろうと礼儀作法は大切です。
あなたが
「うぃ……ああいえ。わかりました」
リザ――マッチメイカーに連れられるまま、『関係者立ち入り禁止』『許可証の提示に応じない場合は射殺する』と書かれたドアをくぐっていく。
いささかおっかなびっくりになるのも仕方ないだろう=装甲とパワーアシスト機能を兼ね備えた戦闘スーツに身を包む重武装の警備員に少し怯え顔になる。
マッチメイカー=少し意外そうな顔をリザに向けた。
「……アセンション粒子に適合したパイロットは生身でも武装した常人を平気で圧倒できるんですが、おっかないものはおっかないんですねぇ」
「制服来てる奴って、あたしらからチップを徴収するクソしかいなかったんだよ。条件反射だよジョーケンハンシャ」
そうですか、と頷きながら――見えない角度で一瞬痛まし気な表情のマッチメイカー。巨大なドアの前にカードキーを翳す=他と比べるとひときわ巨大なドアがゆっくりと開き始める。
中には先程まで、電力とアセンション粒子によって出力された仮想戦場で戦っていた
周囲には巨大なスキャナーが設置されている=現実にある戦闘兵器のすべてをスキャンし、仮想物質を形成させる戦闘シミュレーション装置だ。
『いい試合だった』
「そっちもな。……最後の脳天への一発は、やはりアセンション能力を掴んだのか?」
『うん』
「そうか、おめでとう」
そうしてリザ/マッチメイカーの二人が室内を見回せば、そこに二人話し込んでいた。
片方=銀色のショートカットに、いささか眠たげな半眼/体型をずっぽりと隠すぶかぶかサイズの巨大コート=体型不明により性別の確認困難/脚の外側に接続されているのは歩行補助ユニット――針金のように細いズボンと察せられる足の細さ=恐らくは先天的歩行困難者。
リザ=視覚拡張を起動――パイロットネーム『サジ』/AGE19と表示――その割には子供っぽい外見だ。
恐らくは試合後の感想戦の真っ最中なのだろう。
となるともう片方=黒目黒髪/整った目鼻立ちの持ち主――だが笑うと意外に子供っぽい印象/パイロットスーツの上からでもわかる均整の取れた肉体。
頭上に表示されるパイロットネーム『キングブッカー』=リザ――ぶはぁ?! と思わず驚愕の声を上げる。
「に、似てねぇ!?」
「みなさんそうおっしゃる」
おそらく慣れっこの反応=実に平常運転の様子でリザに応えると『キングブッカー』――実に明るく相手選手に応える。
「……それじゃな、サジ。戦場で並ぶ時は期待してるぜ」
『オーケー任せとけ』
『サジ』=両腕の親指を立てて全力のサムズアップ――同時に遠距離通信で繋がっていた相手の立体映像が消失。
『キングブッカー』――リザに視線を向ける=自分がしたように視覚拡張でこっちが誰かを確かめている、と彼女は直感した。
「はじめまして、パイロット、『スマートボア』
いい演目にしよう」
リザ=『スマートボア』――全身に走るおぞけと感動で背筋に衝撃が走る。
胸の奥底から沸き上がる高揚感=
差し出される手=握手を求められていると気づかず、彼の顔と手の間を視線で往復――待たせている、非礼だと気づいて思わず手を取った。
なんとなくだが、リザは彼が自分に対して見下すような視線を向けない理由を直感した。
アセンション粒子に適合し、パイロットとなった彼女はおおよそ個人が保有しうる究極戦力、
だが自分に強い自信があれば、そのような妬み嫉みの視線を向ける必要などなくなる。
「よ。よろしく、キング……」
「ああ。俺のことはそう呼んでくれ。……ま、そのあだ名はランク1の『キングスレイヤー』と被るから、ここだけで頼むわ」
「あ。ああ……」
キング=そう名乗った男は頷いた――まるで機嫌のいい猛虎のような威風を漂わせ、今後の日程について話してくれたのだが……何かものすごい男と出会ったという高揚で、半分も覚えておくことができなかった。
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