第20話 令和十七年 玖子様インタビュー

国営放送 陛下御帰還記念 玖子様特別インタビュー



「玖子様、この度は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。まずは御帰還、お喜びいたします」


ありがとうございます。


「えー、今回は生放送ということで、玖子様の貴重なお時間を頂戴いたしまして、国民の皆様に、玖子様の、あちらの世界での生活、思い出話など、貴重なお話をお伺いできればと思っております」


はい。


えー、思い返せば、あちらに行く前の私は、無知でありました。


私は、現在の日本が誇るアニメ、ジャパニメーションもほとんど知らず、同じく日本の誇るテレビゲームもせずに生きておりました。

RPGという言葉は知っていましたが、ゲームの中でのジョブやスキル、細分化された属性魔法などは、言葉すら知らなかったのです。


恥ずかしながら、あちらの世界に行った私は、何の基礎知識もなく、戸惑い、途方に暮れておりました。

そんな中、あちらの世界で出会った多くの日本人の方々に、何度も助けていただきました。


時が経つにつれて、あちらの世界での知り合い、友人もできました。そして、多くのことを彼らから学びました。

私は、いかに自分が今まで無知であったかを思い知らされました。そして自分がいかにちっぽけな人間であるかも思い知りました。


私は自分一人では食べ物を手に入れることすらできない弱い人間でした。それを知らずに生きてきたことに驚きました。


私は、あちらで新しい友人に生きる術を教えてもらいました。

パーティーにも入れていただき、モンスターも討伐しました。

モンスター討伐をしながら、世界の各地を旅しました。


モンスターとの戦いは、最初のうちは怖かったのですが、その恐怖も、経験を重ねるうちに克服し、しだいに戦いに慣れていきました。



「玖子様もモンスターと戦われたのですね。魔法なども使われたのでしょうか、大変失礼ですが、玖子様のご職業、ジョブをお伺いしてもよろしいでしょうか」



はい。私は、あちらの世界では、巫女、という職業でした。

パーティーの方が言うには、和風の神聖なる魔法使いのようなものだと、自分で自分のことを、神聖なる、などと言うのは、少し恥ずかしくもありますね。


しかし、ホーリーライト、ホーリーウエポン、神の障壁、悪鬼封じの言霊、神の雷槌、ホーリーアッパーなど、使える魔法は全て、神聖属性でした。

神聖属性の魔法使い、というのは納得できますが、それを巫女と呼ぶのは、今でも私には違和感があります。


なぜなら、私はあちらの世界で子供を産んだからです。


私は、あちらの世界での冒険の中で、恥ずかしながら、ある男性と恋に落ちました。

一緒に冒険をするうちに、お互いに惹かれあい、結婚の契りを交わしました。


そんな時です。陛下の噂を耳にしまして、私たちは噂を頼りに、とある城下町を訪れました。

私たちはその街で、あちらの世界で、陛下と無事に合流することが出来たのです。


私たちのパーティーは、陛下のいらしたその街に落ち着くことにいたしました。

そして、私と夫は、そこで子供を作り、育てました。子供は双子で、男の子と女の子でした。

子育ては苦労も多かったですが、幸せな時間でした。

子供たちは元気に育ち、無事に成人いたしました。


こちらの私は、年を取っていないようですが、私の中身は、子供二人を育て上げた母なのです。

ですので、あちらの世界に行く前の私は無知でしたが、今の私は、あの頃より大きく成長できているのではないかと、自分では思っております。



「お子様を育て上げられたのですか? 異世界での子育てとは、ご苦労も多かったことと思いますが、御立派になられたお姿を、こちらの世界で再び拝見することが出来る幸せを私は・・・ウッウッ」



泣かないでください。そんな大したものじゃありませんよ。

ただ私は、世間知らずのただの箱入り娘ではなくなりました。

あちらの世界で、生き抜くための戦いを潜り抜け、陛下をお支えし、子を育て、その中で多くのことを学びました。



ここで少しだけ厳しいお話をさせていただきたく思います。


厳しいこと、出過ぎたこと、お前が言うな、いろいろと感じるところはあるかもしれませんが、私の気持ちを話させていただきたく思います。



あちらの世界で私は、多くの日本人の方々と出会いました。そして多くのことを学びました。

あちらで出会った日本人の方々は、とても日本を愛していらっしゃった。そして日本という国に誇りをもっていらっしゃった。

私は、日本を支える皇族の一人として、そのことをとてもうれしく思いました。


しかし、同時に、こちらのマスコミの方々が日々伝えている情報との歪みを強く感じました。


こちらの報道で毎日のように見る、批判の数々のことです。


日本人は他人の批判をするのが好きな民族です。批判をすれば、その人より上に立てると思っている。でも、ほんとうはそうじゃありませんよね。批判した側が偉いわけじゃないですよね。でも批判せずにはいられない、そういう衝動を抑えられない人が多いんだと思います。


そして、完璧を求める日本人は、批判されるのを嫌う。批判を一切されない完璧さを求める、己を完璧人間であろうとする。

そして、そんな日本社会の中で、そこかしこに歪みが生まれ、いたるところで足の引っ張り合いが生まれてしまう。


日本人同士で足の引っ張り合いをしていたら、日本という国は、他国の思うつぼです。



つまり、私が思いますに、日本という国にはダメなところがたくさんあり、日本人にはダメなところがたくさんありますが、日本という国は、世界的に見れば、非常に素晴らしい国で、日本人という民族は、世界的に見れば、非常に素晴らしい民族なのだということです。


自国を批判するなとは言いませんが、もう少し、日本という国を、国民が愛せるような報道を、して頂けたらと思います。



それと関連するのですが、私が幼いころ、若者の活字離れが問題になっていたことを記憶しています。

最近ではそんな問題も取りざたされなくなっていますが、活字離れの若者は、今はもういい歳の大人になっていると思います。


あまり言うと批判を受ける事柄だということは承知しています。

ですが、あえて、あちらから戻ったばかりで錯乱していると思われても結構です。言わせていただきたく思います。



ねえ、日本のみんな、大丈夫? 


活字離れで日本人がバカになるって話、覚えてる?

そうなってきてるの感じられてる?



ねえ、物事の全体を見るって知ってる? 

物事の背景とか裏側を見るって知ってる? 

先を見て予測するとか想定するって知ってる?


偉くなったからって思い付きで何でもしていいわけじゃないからね、お金持ちになったからって何でもしていいわけじゃないからね、分かってる? ちゃんと頭使ってる?


このレベルで、世界的に見たら日本人って頭いいんだって、笑っちゃうわね。世界どうなってんのよ。


そういえば世界じゃ、AIの自爆ドローンを大量に飛ばして、敵も民間人も皆殺しにしたりしてたわね。


人間の代わりに戦争してくれるロボット完成したからって、他国を占領したりしてたわね。


日本大嫌いって言いながら日本の物を大量輸入したりしてたわね。

日曜日の教会で銃乱射して、無差別殺人したりしてたわね。

言うこと聞かないからって、自国民を大虐殺したりしてたわね。




いい? 世界は狂ってる。狂ってるのよ! わかる? 日本人、今こそ、ちゃんとしなさい! 

下等生物はね、自分が下等だって気が付かないから下等生物なのよ!


「えー、厳しいお言葉をいただきまして、ちょっとですね、なにぶん生放送ですので、恐れながら、できましたらご配慮をいただきたく思います。えー、冷たいお飲み物もご用意しておりますので、この辺で少し喉を潤していただきまして、お気持ちを、お静めいただければと思います」



ありがとうございます。


少し興奮してしまいましたが、今私が言ったことは、あちらで過ごした何十年の間に考えたことの、ほんの一部です。


私も陛下も、日本が心配でした。ずっと日本を心配していました。


そして陛下も私も、こちらの世界に戻ってきました。


今のこの世界で、この日本で、陛下も私も、まだ出来ることがある。そういう想いで戻ってきました。


日本の皆さんが、温かく迎えてくれたことを私は心から感謝します。



「そろそろ、お時間のようです。最後に、テレビをご覧の皆様に、メッセージなどありましたら、お願いいたします」



そうですね。


私的な事で大変申し訳ないのですが、あちらの世界での私の夫、浄光寺の修生さん、大至急、皇居まで出頭するように。隠れてないで出てくるように。


マスコミの方々、彼に下品に付きまとわないようにお願いします。礼をもって接すれば、彼も無下にはしないでしょうから、それをお願いします。


では修生さん、皇居でお待ちしております。


「貴重なお話、ありがとうございました」




 

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『異転会』 ~令和30年の日本と世界と仏教をSF風味で。オンラインサロンのパイで包んで香ばしく焼き上げました~ 松岡ヒロシ @tukinomisaki

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