第19話 令和十七年 特別インタビュー
国営放送 陛下御帰還記念 特別インタビュー
「この度はお忙しい中、貴重なお時間をいただきまして誠に有難うございます」
はい。
「えー、御帰還なされてから一週間ほど経ちましたけれども、その間、宮内庁病院にて健康診断やカウンセリングなどをなさったとお聞きしました。体調のほうはいかがでしょうか」
問題ありませんでした。
「そのお言葉で、この放送をご覧になっている日本国民の皆様も、ホッと胸をなでおろしている人も多いのではないかと思いますけれども、えー、この放送はですね、収録ということになっておりますので、陛下のお好きなようにお話しいただきまして、ご覧の皆様に、陛下のあちらの世界でのお話などを頂戴できればと考えております。いかがでしょうか」
お話ししてもよいですか?
「はい。ぜひともお願いいたします」
国民の皆さんには、長い間、日本を留守にしたことを、最初に詫びさせていただきたいと、思います。
多くの皆様に、ご心配をおかけいたしましたが、こうやって、再び、日本に帰ってくることが出来ました。
たいへん、嬉しく、思っています。
まず最初に、私の髪が黒くなっておりますことも含めて、お話をいたしますので、聞いていただければと、思います。
私が、あちらに行きました時、そこは森の中でしたが、木の隙間から、遠くに石造りの立派な高い壁が見えました。
私は戸惑いましたが、草をかき分けて、そこへ向けて歩きました。
そこへ行ってみると、それは大きな街を囲む、立派な城壁でした。
近くには街への入口の扉があり、槍を持った門番が二人、立っていました。
門番の方々は、草むらから出てきた私に少し驚いた様子でしたが、私か門番に、中に入ってもよろしいかと話しかけると、門番は私が街に入るのを許可してくれました。
街の中に入ると、街には活気が溢れ、一直線の石畳の道には、人が大勢おりました。
道の両脇には簡素な作りの店が並び、果物や肉などが売られているのが見えました。
道は一直線に遠くまで続き、その道の向こうに大きなお城が見えました。お城は、西洋風の立派なお城でした。
私はその情景に戸惑い、しばらくそこに立っていました。どうやらここは日本ではないようだ、そんなことを考えていたと、記憶しています。
私が道の真ん中にしばらく立っていると、近くの店で果物を買っていた男の人が、私の顔を見て近づいてきました。
男の人は「陛下もこちらの世界にいらっしゃったのですか?」と聞いてきましたので、私は、その言葉で全てを察しました。
私はその男の人に、どうやらそのようですと、答えました。
その方は私を、奥に見えるお城まで、連れて行ってくれると言いました。
男の人について街中を歩くうちに、私に気付いた日本人の方が増え、お城に着くころには、集まった人は十人をこえておりました。
私はその城で、その国の国王とお話をしました。そして、私たちが冒険者と呼ばれていること、特別な力があることを、丁寧に教えていただきました。
しかし、私は冒険者と呼ばれるには、いささか年を取りすぎている気が、いたしました。
確かに、体は軽く、あちらの世界では動き回るに不自由のない体に変わっておりましたが、鏡を見れば、私が老いていることは自分でも分かりましたので、無理はせずに、お城で厄介になることにいたしました。
私はお城の中と、城下町の中を歩き回り、人々と話をし、情報交換をし、知識を得ることにしました。
そしてこの、日本ではない文化、地球ではない物理の、異世界というものを、研究することにいたしました。
時折、街の外から帰ってきた冒険者の方が、私にアイテムを持ってきてくれることがありました。
あちらの世界には、不思議な効能のアイテムが色々とありましたので、その持ってきてくれるアイテムも、研究いたしました。
その持ってきていただく珍しいアイテムの中に「若返りの石」という物がありました。
私は、いただくのは申し訳ない。貴重なアイテムなのでしょうから、自分自身のために大切に使ったほうが良いのではないかと言ったのですが、是非にということで断れず、彼らは私に向けてその「若返りの石」を使ってくれました。
私は、いただいた多くのアイテムを、実験以外では使いませんでしたので、それを知っていた冒険者の方々は、強制的にと申しましょうか、若返りやステータスアップなどのアイテムは、私に対して勝手に使うということに、したようでした。
しっかりと数えていないのですが、若返りの石も、三十個以上は使っていただいたと思います。
私は、若返りの石を使っていただく度に、少しづつ若返りました。そしてそれと共に、若い力が少しですが蘇っていきました。
体の中に若い力がくすぶるようになっていきました。
一年が経ち、二年が経ち、少しづつ、私も外の世界に冒険に出たくなってきていたのです。
そんな時、クコさんのパーティーが私の住む街を訪れました。
どうやら、噂で私がこの町にいることを聞いて、確かめに来てくれたようでした。
クコさんは、あちらの世界で出会ったヒーラーの男性と、既に結婚しておりました。
また、夫の男性を含むパーティーメンバーと呼ばれる仲間と共に、世界を旅していたようですが、私と合流し、私のいる城下町に留まることに、決めたようでした。
その後、クコさんと旦那さんは、城下町で住む家を借り、双子を産み、育てました。
二人は子育てをしながらも、余裕があれば、お仲間の方々と、街の近くのダンジョンに潜りに行っておりました。
私もその頃にはかなり若くなっておりましたので、ご迷惑にならない程度に、私も時折ですが、ダンジョンにつれて行ってもらいました。
激しい運動などは、あまり得意としない私ですので、私に出来ることと言えば祈ることでございますが、私の職業は、バッファー、エンチャンターと呼ばれるものでした。
ゲームなどには詳しいですか?
「いえ、幼いころにアクションゲームやレースゲームを遊んだきりでして、お恥ずかしい限りですが、RPGなどは詳しくありません。しかし放送時には解説テロップなどを入れることも可能ですので、お気になさらず、陛下のお心のままにお話しいただければと思います」
わかりました。
少し専門的な言葉を使いますが、私の唱えるバフ、能力強化魔法の効果範囲というのが、パーティーメンバーではございませんでした。
通常のバッファーですと、その魔法は近くにいるパーティーメンバーだけに効果があるそうでございます。
専門用語が続いて申し訳ないのですが、私のバフの効果は、「広範囲に及ぶ種族バフ」と呼ばれるもので、ちょうど私のお世話になっている王国の、国内にいる日本人全てに効果の及ぶほどの、広範囲に及ぶものでした。
種族バフとは言いましたが、それはまさしく民族バフ、日本国民のためのバフでした。
いくつもあるバフの名前ですが、剛力、金剛、集中、旋風、閃き、他にもいくつもありますが、ひとつひとつの説明は省きますが、ほとんどが基本的な能力の上昇という類のものであります。
私のバフの効果がある間は、私は王国内で戦っている全ての日本人の皆さんの戦闘を肌で感じ、応援することが出来ました。
そして私も、そこから少しですが、経験を得ることが出来ました。
戦いを重ねて強くなる皆を感じ、私も強くなれたのです。
私は、あちらの世界で出会った日本国民の皆さんに、深く感謝しています。
「お話の途中、失礼いたします。どうやら、お時間が来てしまったようです。本日は貴重なお話をありがとうございました」
疾風! 剛力! 幸運! 閃き!
「うわ、わわわわわ!」
ははははは、ご苦労様でした。
「失礼いたします」
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