第2話 令和三十年 異世界転生したいん会

 令和二十年から三十年にかけて、温暖化による地球の気候変動は急速に過酷さを増し、地球規模で食料生産がひっ迫していった。


 猛暑、冷夏、洪水、水不足、地球上の各地で起こる異常気象は、作物に多大な被害を与え、野菜、果物の価格が上昇した。そして異常気象の引き起こす何年にも及ぶ穀物の不作は、農業のみならず、畜産にもダメージを及ぼした。

 餌とする穀物の不足により、牛肉の価格が急激に上昇。さらに乳製品が慢性的に不足。牛肉とバターは超高級食材になった。

 牛肉の不足は、その他の肉の価格にも影響を及ぼした。豚、羊、鳥、その他全ての肉の価格が上昇した。


 食料の取引価格は地球規模で上昇をつづけ、ドル、ユーロ、円の三大基軸通貨以外のほとんどの国は、他国からの食料輸入さえ少量しかできない経済状態になっていた。

 

 アメリカ大陸。

 食糧難によるメキシコからの難民は米のキャパシティーをオーバーし、餓死者を救う術がないメキシコ議会は、国土ごと米の庇護下に入ることを決めた。すなわち米の国土が増え、州の数が増え、米国の国旗の星の数が増えた。米はメキシコの国土とメキシコ湾のほぼすべてを手に入れ、太平洋側の海岸は倍の長さになった。

 

 ヨーロッパ。

 英はポンドの力を失い、欧州連合に再加盟した。さらにウクライナ、ノルウェー他、いくつかの国が欧州連合に参加した。

 ソビエト連邦が復活し、いくつかの国を吸収した後、武力で国民を抑え込んだ。

 

 アフリカ。

 先進国からの援助を受けていたいくつもの国が援助を打ち切られ、首都では餓死者が急増した。そんな人口密集地から離れた人々は、より原始的な大自然の生活へと戻っていった。

 

 アジア。

 餓死者が一番多い北は中にすがり続けていたが、米国がメキシコという国土を吸収したのを見て、中はそれに対抗し、北を吸収した。中は北の小さな国土と、日本海の狭い範囲の海を手に入れた。

 勢いづいた中はミャンマーとモンゴルを取り込み、国名を「中心大帝国 セントラルグレートエンパイア」と改名。共産党システムを捨て、国家主席だった人物が国家元首になり、初代皇帝になった。

 中は完全なる独裁国家となった。


 中ソのにらみ合いが北モンゴルとの国境で続いているが、戦闘は起きていない。

 さらに、ミャンマーを手に入れた中帝はインド洋で暴れまわり、インド艦隊とのイザコザが絶えない。

 インド洋だけでは海が足りない中帝は、さらなる漁業権を求め、台とベトナムに様々な手法を駆使して圧力をかけた。


 台、尖閣を中から守りたい日米艦隊とのにらみ合いの緊張の中、台が日本統治を切望した。微妙な中台関係は限界だった。台は中の強引な圧力に屈しかけていた。

 その時大使館員として台に駐在していたある人物の力もあり、条件付きで日本はその日本統治を受け入れた。

 日本は終戦以来、約百年ぶりに国土を増やした。


 日本が台に出した条件とは、「令をもって接し和を以て貴しとなす。先ずは日本流のやり方、考え方を受け入れ、日本人としての心を学ぶこと。軽はずみにこれからの日本の政策等に異議を唱えないこと。」 かつて日本人の心を学んだ祖父母を持つ彼らにとって、それは高くないハードルだった。


 ただし、この条件には長い注釈が付いていた。要約するとこうだ。「まだまだ至らない日本故、皆様の力をお借りし、さらなる日本の発展にお力添えをお願いする。」 即ち、軽はずみに政策に異議を唱えるのは良しとしないが、十分に考慮した上の異議であれば、有難くアドバイスを受ける。


 統治の条文は、スタートから極めて日本流だった。


 そんな台を見て、南の小さな島国、パラオが日本統治を希望した。

 昔、日本が統治したこともある島国だが、現在パラオには「日本・パラオ友好の橋」そんな名前の橋が2002年から架かっている。

 温暖化による海面上昇でいくつもの国土(島)を失った沈みかけの群島の島国、その国民1万5千人ほどを、日本は無条件で救うことに決めた。

 見返りとしてフィリピン、ミンダナオ島の東500キロに小さな小さな日本の国土と広い広い領海ができた。



 そんな激動の世界情勢の裏に、出来て間もない宗教団体があった。



 異転会。


 正確には、異世界転生したいん会。

 正式名称は、仏教 臨済宗 修生派 異世界転生したいん会。


 公式ホームページのトップにはこう書かれていた。




 所詮この世は諸行無常、輪廻転生で来世はより良き人生に。

 輪廻だって? 

 そんなのもう古い!

 輪廻転生なんかより、いますぐ異世界転生したいじゃない!

 そんな皆さんの想いに答えます。

 異世界転生、全力サポート!

 だけど覚悟するように。 

 ちょームズいから、本気の仏教。




生配信


はい! ということで、今日も始めていきたいと思います。今日は令和30年3月16日の月曜日ですね。

音量、映像、いかがでしょうか。

音ちいさいよーとか、画面まっくらだよーとか、あったらおしえてくださーい。

さあ、今日も始めていきたいと思いますが、はい、音量オッケー、ばっちり、オッケー、だいじょうぶ、こんばんはー、はいこんばんは。大丈夫そうですね。


今日のね、配信場所までなんですけど、実はボートで送ってもらいまして、とある海沿いの街、というか水没してる街なんですけど。

まあ、久しぶりに街の被害状況みたいのを体感したんですが、被災している方々はホントに大変だなあと、現実を目の当たりにして思うわけですよ。


においもすごいし、下水なんかも逆流とかしてるんじゃないかと思ってね、本当に臭いんですよね。

それにね、どこから流れてきたか分からない得体のしれないゴミがいっぱい浮いてたりとかもするわけですよ。茶色い泡もブクブクしてるし、本当に大変。


あのですね、普段生活してる時に見かける街中のゴミってね、そのまま海に流れていっちゃったりするんですよね。あの街中にあるゴミって、なにげなくみんなが捨てたゴミですからね。何も考えずに草むらとか裏路地とか、人目の付かない所にポイって捨てるじゃないですか、それがみんな海に流れていっちゃうんですよね。

私が捨てたわけじゃないしって思う気持ちは分かりますけど、誰かが拾わないといけませんよね、拾っていきましょうよ。善行ポイントが貯まると思って拾っていきましょう。


浸水の心配のない内陸の場所とかもですね、大雨とか、河川の氾濫とか、最近多いですけどね、やっぱり海に流れていっちゃうんですよ。海から遠くたっていつかは海まで流れていっちゃうんです、大量のゴミがね。積もり積もっちゃうわけです。


そのゴミが海に流れ出る現象が、令和三十年の今現在、世界中で同時に起きちゃってるわけです。

日本ってまだ比較的ゴミの少ない国、街並みのきれいな国ってことで有名ですけど、海外に行くと、ゴミの量に驚かされますよ。道端に落ちてるゴミとか、すごい多いんですよ。

空き缶とかペットボトルとかじゃないですからね、タイヤとかポリタンクとか服とか謎の真っ黒い液体の入ったドラム缶とか、揚げ物した油を鍋ひっくり返して草むらにそのまま捨てたりしてますからね。

見てられないっていうか、見ちゃいけないものを見たんじゃないかって目を背けます。


本当は自分がその外国の街のゴミ掃除をやりたいところなんですけど、日本と違ってリサイクルセンターとか無い気もするし、どこに持って行けばいいかもわからない。それに、一日じゃ終わらないどころか、そんなこと始めたら一生終わらないですよね。

それにですよ、一日がかりで一部分をきれいに片づけたとして、空しいですよね。

だって掃除終わった所に次の日には新しいゴミの山が出来てるだろうから。


諸行無常。合掌。。。


そんな日本の何倍もゴミの多い海外の港町だとか、砂浜だとか、いっぱいゴミがあるのが、みんな海面上昇で波をかぶって、満潮の度に大量のゴミとか、そこに混じった有毒物質とかを海に運んでいくんですよね。波がね、ザバーってゴミと有毒な化学物質を海に持って行っちゃう。


海へのダメージってものすごいですよね。ちょっと前まで養殖より天然の魚のほうが価値があったんですけど、今は逆転してきてますよね。

この状況じゃ、天然物を避ける気持ちもよくわかります。


海の魚は、一応まだ食べても大丈夫だろうって言われてますけど、この食料のない時代に、海の魚も食べられないってなったらどうします? どこの国からどんな発がん性物質が流れ出してるかなんて誰にも分からないんですよね。 


自分はまあ魚も肉も、そんなにいただきませんので、問題ないと言えばないんですけど、多くの方々はそうはいきませんよね。

実際、天然物は避けて、養殖物しか食べないって人も急増して、お金に余裕のある人だけでしょうけど、養殖物は高いですからね。それでもね、最近はすごく養殖物派が増えているそうですよ。


みなさん未来のために、未来じゃないですね、今ですね。今の海のゴミ問題。


そのへん、よく考えて、生きてください。


今日の教訓は、ゴミは絶対にそのへんに捨てない。ゴミを見かけたら拾う!


いいですね、簡単なことから始めて、簡単なことこそ大切なことだったりしますからね。


さて、今日の話題なんですけど、えーと。


はいこれ、この写真、陛下の今日の御朝食だそうです。SNSにアップされてましたね。「たいへんおいしゅうございました」というコメントまで付けていただいて、吉牛ですね、それも親子丼の朝定ってところが良いじゃないですか。牛肉は今高いですからね、牛丼って今2000円超えたんでしたっけ。高級品ですよね。

親子丼をチョイスするあたり、さすが陛下だなあと思いますね。


ニュースによりますと、御一行で九時ごろに一時間ほど店舗を貸し切りにして、陛下含め四十名が交代でお食事をなさったと書かれてますね。たいへんすばらしいんではないでしょうか、陛下も最近改革を進められて、ご興味のあることを色々とできるようになられて、若々しいまま、いつまでもお元気でいてほしいですよね。


さて、お次は質問コーナーです。


「異世界転生してみたいです。コツをおしえてください」というコータくん13才からの質問ですね。質問ありがとうございます。


結論から言うと、コツなんて無いです。コツも、裏技も、秘密も、何も無いです。

ただ、清く、正しく、美しく。

そこに人それぞれの個性として、真面目にとか、気高くとか、慈愛とか、このへんの個性の話はちょっと難しいかな?


でも、清くとはどういうことなのか、正しくとはどういうことなのか、美しくとはどういうことなのか、美しくっていうのは別にお化粧するってことじゃないですよ、生き方の話です。


この清く正しく美しくって生き方を真剣に考えるっていうのが、すごく難しいんですが、難しいんですが、これが初級編です。

その先には中級、上級、それ以上がありますから、焦らないで学んでいってください。ちなみに焦るっていうのは美しくないことです。



次の質問。


「ドラゴンはどれぐらい強かったですか? ドラゴンより強い敵はいましたか?」


ドラゴンは死ぬほど強いです。そしてバタバタと人が死にます。命がけです。っていうかですね、この手の質問って何回目ですかね、とりあえずこういう質問は、本を読んでください。そこにすべて書きましたので。下のリンクから買えますのでよろしくお願いします。


はい、今一瞬イラっとしてしまいましたね。今チラッと見えたのが私の煩悩ですね、いけませんね。

私だって修行の足りない部分はあります。人間ですのでイラっとする時もね。そして言い訳をしている自分も同時に発見して反省してます。


そういう小さな自分、イラっとしたり言い訳したりしてしまう自分っていうのをしっかりと見て、なんとかして人としての高みを目指していこうって言うことなんです。それが仏教なんです。


よく対比として西洋文化の話をしますけど、西洋の文化は、自分の感情を表に出して自己をアピールしていこう、感情を心のままに表現して相手に思いをぶつけようって文化なんです。ぶつけるんです、自分のパッションをね、パッションって何ですかね。

それでも、西洋は自由の文化です。自由とわがままの境界線が日本人の感覚と違いますよね。日本人から見たら、めちゃくちゃなわがまま言ってるなーって見えても、それって自由と違うんじゃない?って思っても、いくら違和感を感じようと、それが西洋の自由の文化です。


だけど、そんな自由の文化の先に何が待っているか、どんな未来が待っているか、そういうことを深く考えて、そういう、自分の自己主張って言うんですかね、そういうのを議論とか口論とか、怒鳴り散らして感情で通すのはダメなんじゃないかって気が付いて、そういうわがままともとれる自己主張ばっかりしてちゃダメなんじゃないかって気が付いて、そのわがままの先に辿り着く未来を心配して、ではどうすればいいんだろうって考え続けた、その先人たちの教えが仏教の教えなんです。みんなが平和に暮らせる世界への道しるべ、やり方なんですよね。そうそう、煩悩を捨てたりね。


仏教が一番難しいです。これは良い、これはダメって教えが少ない。でも、修行の先には悟りという感覚がいくつも待ってます。上に行けば行くほど、悟っては消え、悟っては消え、その感覚を繰り返します。


世界で一番難しいと言われる日本語を操れるだけで皆さんはそこそこ良い頭を持ってます。一番難しい仏教に真剣に取り組んでみてはいかがでしょうか。


脳みそフル回転させて考えたり、頭の中を空っぽにして瞑想したり、自分はすごく、そこに楽しさを感じます。



はい、じゃあ今日の無料はここまでってことで、そろそろ終わりにしますかね。たくさんのコメントありがとうございました。


えーと、有料のほうでは、今日はですね、コロナの時の誰もいない日光東照宮の映像と共にですね、光鈴さんと福龍さんが般若心経の、テクノミックスで読経するということで、お二人の美しいハーモニーがテクノに合わせてね、聞けるんじゃないかと思います。有料会員のみなさまはそのままでお願いします。


わたしはこのままサロンのほうで反省会にチャットで参加しようと思います。

オンラインサロンのほうも会員、信者さんですね、募集しております。


サロンは月額税込み千円、配信の有料会員は税込み六百円となっておりますので、ご興味のある方は、よろしくおねがいしまーす。


では、また次回、お待ちしております。合掌。



「はいオッケーです」

「お疲れさまでした、ありがとうございました」



 

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