第19話 恋愛の天敵

Prrrrr、prrrr


「ごめんね、電話きちゃった。じゃあね」


昔の携帯電話特有の着信音が鳴る。

名倉はスマホを取り出して、通話相手と話しながら行ってしまった。


「変な人だったな」


俺はとりあえず、近くの教室に入り人がいないことを確認して、近藤警部に電話をしようとした時だった。

見覚えのある女の子が廊下を通ったのだ。

人とあまりかかわりを持ちたくないし、気づかなければそのまま素通りしてもらおう。

そう思って黙って彼女が通り過ぎるのを待った。


「クシュン」


・タイミング悪くくしゃみがでる 5p


こんなところで不幸が。


「あれ? どうしてここに」


気にせず、行ってくれてよかったのに。

だが、彼女は教室に入ってきてしまった。

もう、無視はできないだろう。


「昨日ぶりだな」


「本当に昨日はありがとうございました!」


彼女は昨日の事件現場を最初に見つけた、被害者の親友だった。

名前は知らん。

ただ、日本人顔なのにウェーブのかかった金髪だ。

せっかくかわいらしい顔をしているのに、違和感が半端ない。


「あれは千花さんに頼まれたから、やっただけ。元々はするつもりは無かったよ」


「そう、ですか」


彼女は目に見えて肩を落とした。

だが、きっちり言っておかないと、どこでも誰にでも治癒魔法を使うと思われては困る。

あの魔法は精神にも体にも大きな負担がかかる。

もう少し魔法ガチャを引ければいいのだが。


「でも、助けてくれたのは、確かな事実です」


「お礼くらいはもらっておくよ」


「はい、お礼に何をすればいいですか?」


「?」


「あの時、私言いました。助けてくれれば、何でもすると。何をすればいいですか?」


え!?

そんなこと言ったか。

あの時は必死でよく覚えていない。


「言ったか?」


「言いました!!」


これだけ強く断言するのだ。

言ったのかもしれない。

だが、はっきり言って。


「いらない」


「なんで!?」


「別にそんなのが欲しくてしたわけじゃないから」


「わ、私。自分でいうのもあれですが、そこそこかわいいですよ!! そんな子を何でもできちゃうんですよ!!」


この子は自分で何言ってるのかわかっているのだろうか?

つまりは、あんなことやこんなことが。

童貞を卒業だって。


『あまり目移りしてると、ね?』


「はっ!!」


ふと、昨日の千花さんの言葉を思い出す。

急に寒気までしてきた。


「だ、大丈夫ですか?」


「あ、ああ。大丈夫」


「そうですか? 無理はしないでくださいね。……。そういえば、名前は」


「いや、いいよ。知らなくても」


「私は横山≪よこやま≫ 要≪かなめ≫って言います」


「いや、だから」


「あなたは?」


「おしえな「あ、な、た、は!?」


「……。大和≪やまと≫ 尊≪たける≫です」


き、気が強い。

彼女の押しに負けて答えてしまった。


「それで、何をしてほしいのですか!?」


なんで、こんなぐいぐい来るの!?

そんな急に言われてもしてほしいことなんて。


“使役魔法を使用できます”

“恋愛の天敵を使用できます”


人も使役できるのか!?

つか、そういえば恋愛の天敵ってスキルもあったな。

忘れてた。

とりあえず、恋愛の天敵を使用する。

すると、横山の頭上に赤い小さな球が現れる。


「早く、(エッチなこと以外で)してほしいことを言ってください」


あ。

なるほど、こういうことか。


「もしかして、変なこと考えてるのですか? (本当は嫌ですが)エッチなことも、(家族に手を出さないなら)いいですよ」


「……」


「も、もしかして(×××な事を)。(ヤクザは怖い)」


確かに、こんなの発動したら恋愛なんてできないわ。

相手の本音が分かってしまうなんて。


「誤解を解いておくけど、俺はヤクザじゃない。確かにその手の人たちに雇われてはいるが、それも俺の入院費を出してもらったからだ。雇われる理由も昨日の俺の能力を思い出してもらえば分かるはずだ」


「……(確かに、ヤクザには、見えない、ような?)」


「それでも、お礼をしたいなら、今度お昼でもおごってくれればいいよ」


「……。本当にそれだけでいいの?」


「もちろん。だから、そんなに怯えないでくれ」


「はい」


俺の言葉に横山はその場で座り込んでしまう。

それと同時に赤い級が消えるのだった。

そんなに怖かったのだろうか?

でも、最近は親父に鍛えられて男らしくなってきたしな。

ちょっと、ハードボイルドなとこが出ちゃったかな。


「そうですよね。こんなに綺麗な人がヤクザなんて」


「……」


もっと、筋トレ増やそう。


「じゃあ、そういうことだから」


そう言って彼女を残して教室から離れるのだった。

帰ろうと下駄箱に来た時にふと思い出した。


「もう一つやることがあるんだった」


朝倉≪あさくら≫ 葵≪あおい≫のクラスを確認するためだ。

下駄箱は学年とクラスごとに分かれているため、見つければ会いに行くことができるのだ。

一つずつ探していく。

そして、十分ほどたった時だった。


「え?」


「あ?」


横山さんと出会ってしまった。

上級生の下駄箱で一つずつ名前を確認しているところで。


・女子の上履きを盗もうとしていると勘違いされる 20p


「んなことするわけないだろ!?」


「なんで、私の考えが!?」


は!

思わず突っ込んでしまったが、彼女は何も言っていない。


「もしかして、そういう魔法が!?」


「な、ないよ~。そんな魔法、ないよ~」


「目が泳いでます! あるんですね!!」


クソ!

俺のポーカーフェイスを見破るなんて!!


「あるけど、今は使ってないよ!!」


「今は? ……。もしかして、さっき」


なんて勘がいい。

これ以上、この女と関わりたくない。


「いいだろ、もうどっか行ってくれ」


「犯罪を見逃せれるわけないでしょ!」


「なんで、犯罪することが前提なんだよ!」


「だって、ヤクザの関係者じゃん」


「それこそなんで、関係者だって知ってんたんだよ! それに、知り合いのクラスを探してるだけでやましいことは何もない!!」


「なら、その人の名前を教えてください!!」


「朝倉 葵さんだよ!」


「じゃあ、その人がいなかったら、警察に突き出しますからね」


「めんどくさいなあ」


「私は三年生から探しますから」


「分かったよ」


そして、探すこと三十分。


「本当にあった」


横山が見つけたのだった。

朝倉 葵さんは三年特進組だった。



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