第14話 火魔法
俺が退院して五日が経った。
もう明後日が入学式なのだが、いつものように親父との訓練を行っていた。
親父は口で教えるというよりは体が覚えるまで反復練習させるタイプの教師だった。
でも、俺にはあっていたようだ。
常に体はボロボロであったが、痛みを受ける間にどうすれば衝撃が少ないか、急所を外すことができるかを無意識で実践していた。
「お前は弱い」
間合いを測りながら親父は言った。
所詮半月ほどの付け焼刃だ。
強くなったなど、間違っても勘違いなどしない。
「なら、本気を出してみろ!」
「は?」
俺は常に本気だった。
そうでなければ、今頃腕か足の一本でも折れていた。
「お前はまだ隠してる能力があるだろ!」
「そ、そんなことは」
「お嬢にやったやつ以外にもある!」
親父は確信をもって言う。
この人は何を知っているんだ?
確かに、ガチャで手に入れたスキルを他にもたくさん持っているが、それを誰かに見せたことはなかった。
「なんで」
「組長はあの時追及はしなかったが、お前の表情は予想外という顔だった。あの能力はたまたま手に入れたもの。違うか」
「その、とおりです」
「しかし、あの時に手に入れたものだったら、お前自身がもっと驚いているはずだった。なのに、早々にあの状況をお前は飲み込んだ。それは前にも同じような状況になったことがあるということだ。つまり、他にもお前には不思議な能力がある」
親父は意外と頭が切れるのかもしれない。
だが、それが今の訓練中になんの意味があるのだろうか?
「今使えるのか?」
「ほとんど使ったことはありませんが、多少は」
「なら、使え!」
「え!?」
「使えと言っている。これからお嬢の警護もあるんだ。今まではお前自身がいざという時にダメージを軽減する方法を教えてきたが、それだけでは警護などできるわけがない。それに、今のうちから使い慣れていた方が、いざという時に対処しやすいだろ」
「その通りだが」
火の魔法とか使って、火事になると困るし。
何より親父が危ない。
「なんだ、雑魚がいっぱしに心配でもしてるのか? お前程度に怪我させられたら、ヤクザ辞めてやる」
「親父、その言葉に責任持ってくれよ」
さすがにレベルの高い火魔法で行くのはリスクが大きすぎる。
俺は土魔法を発動する。
道場の床を突き破り、土の柱が親父を襲う。
「甘い!!」
「え?」
意味も分からず、いつの間にか俺は宙を舞っていた。
そして、背中から床に落ちるのだった。
おかしい。
土の柱に囲まれていた親父はいつの間にか距離を詰め、俺を投げ飛ばしていたのだ。
「確かにすごい能力だが、隙が大きすぎる。それを使いながらも動けるようにしろ。そうでないと、今みたいに懐に簡単に潜られるぞ」
「はい」
心配するだけ意味はなかったようだ。
多少魔法が使えるようになっても親父は何倍も強かった。
親父は更に呼吸を整えて目を見開く。
そして、もともと大きかった体が筋肉が盛り上がりさらに大きくなる。
「少し本気を出してやる。全力を出せ。さもないと、死ぬぞ」
俺は唾を飲み込んだ。
親父は本気だ。
「いくぞ!!」
大声とともに親父の拳が俺に迫る。
感覚でわかる。
このまま受けたら確実に骨は折れる。
「クソ!」
親父との距離がまだ開いている時点で俺は火魔法で壁を作った。
さすがに倍以上レベルが違うだけあった。
土魔法は俺の考え通りに岩や土が動いてくれはするが、タイムラグや細かい動きができなかった。
だが、火魔法はまるで手足のように火炎が動いてくれる。
火の熱さまで手に取るように変化させることができた。
「ふんぬう!!」
しかし、親父は鉄をも溶かすほど高熱にした火炎を拳の一突きで吹き飛ばす。
俺にそれが当たらなかっただけよかったが、その余波をかわし切れずに後ろの壁に叩きつけられた。
「すぐに回復しろ! その間が命取りになるぞ!」
「分かってるよ!!」
自身に回復魔法をかける。
痛みも傷も消え失せる。
だが、親父に勝てる気は全くしなかった。
親父の殺気にあてられて怯んでしまう。
「早く体勢を立て直せと言っているだろ!」
「かっ!」
火魔法でもう一度攻撃しようとするが、その前に回し蹴りが俺に迫ってきた。
避けようとするが、肩に入るのだった。
もう一度回復魔法をかける。
今度は親父の姿を見失わないように、そしてすぐに火炎で親父を撃退できるように間合いを取りながら回復する。
「それだ! 大きな力に驕るな! 常に相手の急所を狙え、隙を見せるな、臨戦態勢をとれ!」
「はい!!」
「後、三本は行くぞ!!」
「はい」
その後、二時間ほどかけて魔法を加えた訓練を行う。
だが、俺たちは忘れていた。
ここが、山奥の道場ということを。
「おい、山火事だ!」
「避難を急げ!」
「まだ、範囲が小さい。被害が出る前に消火するぞ!!」
俺たちが道場から出るころ、山の下に消防車が何台も来ていた。
道場も燃えてしまっていたが、漏れ出た炎が山火事を起こしてしまっていたのだ。
「消えろ、消えろ、消えろ」
俺は火魔法を使って急いで消火する。
消防隊の努力のかいもあって、被害もなく、数分で山火事は消火されるのだった。
「山の神がお怒りなのだ」
「祟りじゃ」
突然山火事が起こり、警察が出火原因を捜査するが分からずじまいだった。
しかも、山火事の前に何度も天にも届くような火柱が多くの人に見られていた。
それなのに、消防が来て数分で消し止められたのだ。
現地の人たちは森の神が怒っていると口をそろえて言うのだった。
「次は場所を選ばないとな」
「そう、ですね」
まだ、続けるのかとか、場所の問題なのだろうかとか、山火事を起こしてしまったのに思うところはないのかとか、色々親父に言いたいことがあるがとりあえず、道場に置いていた俺の荷物が全て燃えてしまった。
「制服とかどうしよう」
しかも、ポイントの通知が来ない。
つまりは、自業自得ということだった。
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