第15話 入学
とうとう、高校の入学式の日になった。
残念ながら、制服は間に合わず、親父の昔来ていた黒服を借りて登校することになった。
学校にも連絡済みだ。
だが、黒服というのは汚れが目立たないからいい。
春先に何故か打ち水をしてる婆さんに水をかけられ、朝早くからサッカーの練習をしてる子供にボールを当てられ、車に水溜りをかけられたが、あまり汚れは目立ってないだろう。
ポイントも貯まった。
「何? あの人」
「制服じゃないし、誰かの父兄かな?」
俺に視線が集まり、ひそひそと話し声が聞こえてくる。
「凄い綺麗」
「女性?」
「体格がいいし、男じゃないのか?」
そんなに分からないものだろうか?
どう見ても、男だろ。
社長とか前に女顔とか言っていたが、親父に絞られて少しは凛々しくなった。
この一ヶ月で身長ものびた。
一般男子と比べても体格はいい方だろう。
「あれ? 魔法使いさん!」
校門前で
不幸体質なので会えなかったらどうしようかと思っていたが、杞憂のようだった。
制服に身を包んだ彼女は病院であった頃よりもずっと元気そうだった。
心なしか少し膨よかになったような気がする。
「千花さん、魔法使いはやめてください」
「そうですか? 可愛いのに」
だからですよ。
「では、
「はい。それで構いませ、!!」
急に殺気を感じて振り向く。
そこには社長と黒服の皆さんがいた。
「千花とずいぶん仲が良いな」
「それは、お友達ですもの」
千花さんが俺の代わりに答える。
その答えに満足したのか、社長からは追及はなかった。
「もう少し気を引き締めろ。何かが起きてからじゃ遅いぞ」
社長の後ろに控えていた親父が俺に注意する。
確かに浮かれていたかもしれない。
友達がいる学校への初めての登校だ。
だが、友達ではあるが警護対象でもある。
目的を見失ってはいけない。
「そういえば尊さんはどうしてここに?」
「これから、こちらに通うからですよ」
「じゃあ、同級生ですね。私もここに通うのです」
「それは奇遇ですね」
本当はあなたのお父さんが仕組んだことですが、事実は墓場まで持っていこう。
彼女の笑顔を壊さないようにそう誓うのだった。
その時だった。
ふと、見覚えのある顔が目に入った。
「
だが、彼女は俺に気づかずに学校に入って行ったのだ。
俺は最後にあった日から話ができていなかった。
一緒に
だが、つながらなかった。
あまりかけすぎても迷惑になると思い、数日置きに電話したが一度も話すことはできなかったのだ。
「お知り合いですか?」
数回話しただけの間柄だ。
「ただの顔見知りです」
そう答える他なかった。
だが、千花さんはあまり納得していないようだった。
「もしかして、彼女さんとか?」
急に背筋が寒くなる。
千花さんが凍るような笑顔で俺に聞いてくるのだ。
「友達もいなかったのにそんな訳無いですよ」
「私が一番最初なんですよね?」
「そう、ですよ」
そんなはずがないのに千花さんから殺気を感じるのだ。
そう、この殺気は社長と、よく似て。
「なら、いいです。あまり目移りしてると、ね?」
ね!?
ね、ってなんですか!?
なにされるんですか!?
「大和 尊〜」
社長が笑っている。
青筋を立てながら!
親父に視線を向ける。
親父は横に首を振るのだった。
「ち、千花さん」
「パパ、止めて!」
千花さんに助けを求めると、すぐに止めてくれた。
社長は渋々引き下がるが、その瞳は諦めていない。
「殺してやる」
俺はこの後の展開に恐怖するのだった。
・標的にされる 80p
新入生は講堂に集まるようだ。
校門前で花をもらった生徒は胸元にそれを付けて先生に誘導されていく。
俺も他と同じく花をもらおうとするが。
「これは、新入生のものですので、父兄の方は」
女性教師に断られた。
黒服だから分からないのかもしれない。
「すみません、俺も新入生で」
「え!? でも、制服は?」
「火事で燃えてしまって」
「火事……。あ!! 大和 尊くん!? あれ? 男の子?」
男とも見てなかったようだ。
それに、なぜか震えている。
「ヤクザ」
なるほど、こちらの事情もある程度把握済みか。
受験もせずに私立高校に通うのだ。
あの社長が色々無茶したのは言うまでもない。
でも、分かりやすい程に怯えなくても。
俺は他の生徒の目もあるので耳打ちで話す。
「そう、硬くなるなよ。晴れの日なんだから」
「そ、そうですね! 私初めて担任になるのですから!!」
新入生のと言う意味だったのだが。
「花をもらっても良いですか?」
「はい! どうぞ!!」
力を入れて渡したのか、少し歪んだ花を渡されたのだった。
悪い先生ではないだろうが、この人が担任になったら少し面倒臭そうだなと思ってしまった。
「尊さんも赤い花ですね。私も赤です!」
千花さんが嬉しそうに胸元を見せてくる。
それを見て俺も笑顔を向けた。
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