第16話 新春キャンペーン
社長や親父達と別れて、講堂に入ると既に多くの同級生たちが座っていた。
大きな講堂はまるで映画館のように、座り心地が良さそうな固定された椅子が、舞台に向けて備え付けられていた。
「金かかってるな」
公立の学校しか通った事がないので、こういった行事は体育館で固いパイプ椅子に座って行っていた。
全生徒が座れるように作られているため、講堂の広さも俺の知ってる体育館の倍以上の広さがあった。
「どこに座ればいいのですかね?」
隣で千花さんが首を傾げる。
「確かクラスごとに座る場所が違うみたいです。俺は三組なのでちょうど真ん中ですね」
今日の予定はしっかりパンフレットや案内を読んで予習済みだ。
抜かりはない。
「本当? 私も三組です。全部で七クラスもあるから、流石に一緒にはならないと思ってました」
「友達が一緒だと心強いですものね」
なんかの力が働いていることは言うまでもないだろう。
俺たちが席に座る。
その前の女子二人が楽しそうに話をしていた。
「ちょっと、トイレ」
「もうすぐ、始まるよ!」
「すぐ戻るから」
そう言うと、片方は席を外すのだった。
だが、始まる五分前である。
計画性が無い。
あらかじめ行っておけば良かっただろうに。
急に脇腹をつねられる。
「あまり、盗み聞きは感心しません」
「ちょっと聞こえてしまっただけですよ」
「変態さんみたいですよ」
「す、すみません」
確かにマナーがなってなかったかもしれない。
深く反省するのだった。
千花さんに怒られていると講堂が暗くなる。
どうやら、前の彼女は間に合わなかったようだ。
そして、校歌を歌ったり、色々とプログラムが終わるが最大の難関が俺を待ち構えていた。
「であるからして、本校は」
校長の入眠術≪ながばなし≫に耐えていた。
少しでも気を抜けば寝てしまうかもしれない。
だが、そんなことはできない。
父兄席で見ている社長や親父に殺される。
ぐー
隣にいる千花さんはすでに夢の世界だった。
“新春キャンペーン!!”
俺も一緒に夢の世界へ行こうかと諦めかけた時だった、透明な板が現れた。
いつもは面倒くさくて斜め読みするのだが、今回に限っては最高のタイミングだ。
これで、睡魔が何とかもしれない。
“
もしかして、俺の動向を把握しているのか?
プライバシーの侵害では!?
それに当社ってことは複数人で俺を見てるってことか!?
“ポイント加算において何が起きたのかを間接的にその動向を知っております。ですが、当社では他への情報漏洩や管理を徹底し、お客様のプライバシーを最大限に尊重していることをここにお伝えいたします”
考えは読めるのね。
“今の状況では、そのほうがよろしいかと判断いたしました”
確かに、校長が話している最中に暗闇の中ぶつぶつと話しをしている生徒がいたら教師求めに入るし、隣で寝ている千花さんを起こしてしまうだろう。
ならこの対応が最良か。
“納得していただき、誠にありがとうございます”
それで、新春キャンペーンってなに?
“遅ればせながら、入学おめでとうございます。新春を迎え、新しい生活が始まることと思います。その中で多くの人とコミュニケーションをとることになります。しかし、お客様は不幸のせいで前向きに人と接することができないかと思います”
そうだ。
俺はこれ以上誰かと関係を持つつもりはない。
“そこで、少しでも楽しんでコミュニケーションが取れるように、一ヶ月の期間中新春キャンペーンを開催したいと思います”
な、なるほど?
“キャンペーン内容は二つ。
一、人間関係による不幸のポイント数が50%UP
二、ガチャの虹箱出現率が二倍
になります”
微妙にうれしいが、そこまでではないな。
“また、ミッションによるポイント加算機能が追加します。これからもお客様にはご愛顧いただけることを願っております”
そして、透明な板は消えるのだった。
すぐに、新たな透明な板が現れる。
デイリーミッション
・同年代の異性一人と話をしよう 5p (済)
・異性三人と話をしよう 10p
・ポイントを貯めよう 5p (済)
・ガチャを一回引こう 10p
・すべてのデイリーミッションをクリアしよう 20p
一日最大30pミッションで追加ポイントがもらえるのか。
でも、二つ目のミッションは難しい。
千花さんがいるから一つ目はクリアできるが、三人は厳しいのではないだろうか?
全部クリアで50pは大きい。
なるべくクリアしていこう。
「……って、なんかあいつらの掌の上で転がされてる感が」
「んっ」
寝ている千花さんが俺の肩に頭をのせる。
俺の声で起こしたわけではないようなので、よかった。
さて、今できることをやっておこう。
朝からポイントがたまって現在170p貯まっていた。
ガチャを回すと10p帰ってくるし、なるべく一日一回は引きたいな。
そう思いながらガチャのボタンを押すのだった。
普通の箱 2個
金の箱 1個
虹の箱 8個
「!?」
なんとか、声を出すのを抑えられたが、この結果は恐ろしい。
虹はこの出現率二倍と言っていたが、それ以上の結果が出た。
元々虹箱は出やすかったが、ここまで偏るのは初めてだ。
「とりあえず、普通の箱から」
知力Up ×2
なるほど。
魔法ガチャ期間だし欲しかったので素直にうれしい。
次は金箱。
魔力
はいはい。
予想の範囲ですね。
では、問題の虹箱へ。
いつも通り一個ずつ開ける。
回復魔法 (はい、こんにちわ)
使役魔法 (うん?)
使役魔法 (なんだこれ?)
召喚術式 (紙一枚)
光魔法 (よし)
光魔法 (よしよし)
回復魔法 (クソッ)
究極魔法 (お、ま、え、か!!)
ハイ終了。
ミッションを見ると、ガチャの欄が(済)になっていた。
さて、使役魔法について確認を。
「それでは、入学式を終わりにします。父兄の皆様は待機室へ、生徒は自分の教室へ移動をお願いします」
する時間はなかったようだ。
司会をしていた教師がそういうと、講堂にいた誰もが席を立つ。
俺の隣以外が。
「千花さん、入学式終わりましたよ。移動しますよ」
「ん~」
肩をゆするがなかなか起きてはくれない。
だが、一人また一人と講堂から出ていき、まだ座っているのは俺たちくらいしかいない。
「仕方ないか」
俺は千花さんが起きるのを待つことにしたのだった。
講堂からほとんど人がいなくなる。
見回りの先生が声掛けに来てくれたが、事情を説明するとなるべく早めに起こすように言って出て行ってしまった。
「さて、使役魔法について調べるかな」
・使役魔法 動物や魔物を使役する魔法。自身よりステータスが低い、好感度が高いと使役しやすい。
ん~
よくわからない。
それと、虹箱から出てきた召喚術式って紙はどうやって使えば?
きゃあああああ!!
「え? え!?」
講堂の外から悲鳴が聞こえた。
その声に千花さんが目を覚ます。
「な、なに!?」
「千花さん、落ち着いてください」
寝起きで驚いたのだろう。
千花さんは取り乱していた。
「とりあえず確認に行きましょう。ついてきてください」
「はい」
俺たちは悲鳴の聞こえた方に行く。
すると、先ほど前に座っていた女の子が出てきたのだった。
その子は俺と目が合うと俺に縋り付いてきた。
「どうした!?」
「トイレに、血が、優希が」
動揺してしまって話が全く伝わらない。
俺は入るか悩んだが、意を決して女子トイレに入った。
初めて入る女子トイレ。
入ると左右に三つずつトイレがある。
その一番右奥のトイレから生臭いにおいと、液体が流れ出ていた。
「千花さんは来ないで」
「うん」
半分だけ開いている扉を開ける。
そこには右肩から血を流して倒れている女子がいた。
見覚えはある。
入学式が始まる前にトイレに行った子だ。
でも、その子は先ほどとは違い。
右肩から先がなかった。
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